第43話 両親との交渉
「そしてこちらは我々の主人からのお土産です。元々は俺やサリアやマイルたちで作りました。どちらかと言うと屋敷の仕事よりも、これみたいな商品を作ってそれがたくさん売れてお金が稼げたので解放されたと言った方が正しいでしょうね」
箱に入れたフルーツの飴を村長さんや、2人の両親と商人であるエドガーさんに渡す。本当は一番売れているケーキを持ってきたかったんだが、さすがに1週間は持たないからな。砂糖漬けにしたフルーツ飴なら結構な期間持つことは検証済みである。
「何これ、すっごく甘くて美味しい!」
「これは!こんなに美味しいもの食べたことないわ!それにとっても綺麗!」
2人の母親が大絶賛してくれる。やはりこっちの世界でも女性はスイーツに弱そうである。
「おおっ、これはなんとも」
「もしかしてこれが噂のアルガネルで売っているというお菓子ですか!いつも店にお客がいっぱいで買うことができなかったんですよ!もしかしてこれやケーキという高級品もユウキさん達が作ったのですか!?」
「ええ、エドガーさんも知っているんですね。本当はケーキも持ってきたかったんですけど、あれはすぐにダメになってしまうので持ってこれませんでした。ケーキの試作品は俺たち3人で作りました。あっ、ちなみにこのことは秘密にしておいてください」
「ええ、もちろんです!命の恩人の方との約束を破るほど落ちぶれてはおりませんのでご安心を。
ベイヤさん、この方たちのおっしゃっていることは本当だと思います。今街ではアルガン家の販売し始めた商品がことごとく売れています。もしこれらを開発したとしたら、それこそ奴隷なんて100人単位で買えるほどのお金を稼げているでしょう!」
おおっ、この村に来ている馴染みの行商人さんからの言葉なら説得力がある!いや選択肢としてはなかったが、あの時エドガーさん達を助けて本当によかった。
「でも僕たちほとんど何もしてないよ。ほとんどユウキ兄ちゃんが考えたものだよ」
「そうね、サリア達は作るのを手伝っただけね」
「何言ってるんだ、2人とも改良点とかいっぱい出してくれたじゃないか。それに2人がいなかったら俺も屋敷の掃除や料理や書類作業でいっぱいでこんなにいろいろ作ることができなかったよ。間違いなく2人がいてくれたからできたんだよ」
これはマジである。俺1人だったらシェアル師匠と2人で屋敷中の家事をできたハズがない。なにせ1人は仕事を増やすから0.5人分にもならないからな。
「なるほど、どうやらマイルが無事に戻って来れたのはアルガン家だけでなくユウキさんのおかげでもあるということがわかりました。ユウキさん、本当にありがとうございます!」
「俺も難しい話はよくわからねえが、うちのサリアを助けてくれていろいろ教えてくれたのはあんたなんだな。ユウキさん、感謝する!」
「いえいえ、俺も2人に助けてもらいましたし、そもそもみんなを助けてくれたのはエレナお嬢様です!それに普通の貴族なら例えどんなに奴隷がお金を稼げても解放したりはしないでしょうね。むしろ他の知識もすべて絞り尽くすまで逃がさないでしょう。私も買われたのがエレナお嬢様で本当によかったと思っています」
「確かにその通りです。ユウキさん、リールさん、どうかエレナ様に我々の感謝の気持ちを伝えてください!そして必ず街にご挨拶に伺うとお伝えください」
「ええ、承知しました」
「承知しました。あとで屋敷への連絡方法をお伝えしておきますね」
よかったいい感じで説明できたようだ。ただまあ問題はこれからなんだよね。
「それでですね、無事に戻ってきてすぐにお伝えすることではないのですが、サリアとマイルをこのままエレナお嬢様の屋敷で俺と一緒に働かせてもらうことはできないでしょうか」
「といいますと?」
「先ほども伝えたように、2人はとても優秀です。そして今アルガン家ではいろいろな物を作っているため、人手が足りていません。エレナお嬢様は2人とも正式な使用人として雇ってくれるとおっしゃってくれています。どうか2人の力を貸して欲しいんです」
「……ユウキさん、あなたにもエレナ様にもとても感謝をしています。ですが、マイルはまだ幼い。屋敷で雇っていただけるというのはとても光栄なお話ですがあと数年してマイルが成人してからでは駄目でしょうか?」
「そうね、マイルもまだ子供ですし今は私も反対です。もちろんマイルが成人した後はこの子の意思に任せたいと思います」
「うちもそうだな。魔法が使えるといってもサリアはまだ、子供だ。子供のうちから仕事なんかしなくてもいい。子供のうちは遊ぶのが仕事だ」
「私としてはサリアの気持ち次第だけどまだ一緒に生活していたいわね。もちろんユウキさんやエレナ様にはとても感謝しているわ」
まあそうだよな、俺が逆の立場だったらまだ幼い家族と長い間離れるのは絶対に嫌だ。たとえそれが領主の使用人という光栄な仕事だとしてもだ。
……だけど、それでも俺はまだ2人と一緒にいたい。
「そうですね、俺もそれが普通だと思っています。2人ともまだ幼いし、両親と一緒に暮らしている方が2人にとっても幸せだと思っています。
でも、……それでも俺はまだサリアとマイルと一緒にいたいんです。盗賊に捕まっていた時も、奴隷商の牢屋に入れられた時も、2人がいてくれたから辛くても耐えられたんです!2人と出会ってからまだ半年くらいしか経っていないけど、もう家族のいない俺にとっては本当の弟と妹に思えたんです!」
「「「………………」」」
「もちろん俺がこの村で暮らすことも考えたんですけど、俺は俺たちを救ってくれたエレナお嬢様にも恩を返していきたいんです!あの人が望んでいる奴隷制度の廃止を俺自身も望んでいます。だからそれを実現させたい!できるならそれをサリアとマイルと一緒にやっていきたい。
俺、屋敷のみんなや工場のみんなとの今の生活がすごく、今までにないくらい楽しいんです!両親とは会えなくなってしまったけど、それでもみんなとの生活が楽しいんです!
お願いします、一月おきに村に戻るとかでもいいんです。2人が屋敷で働くことを考えていただけないでしょうか」
ただ2人と一緒にいたい。いい歳の男がこんなガキみたいなわがままを言ってるんだから情けない。でもこれが正直な俺の気持ちだ。人手が足りないということよりも単純に屋敷でのみんなとの生活をつづけたい。
「ユウキお兄ちゃん……お父さん、お母さん、サリアね、ユウキお兄ちゃんとエレナお嬢様にいっぱい助けてもらったの!ユウキお兄ちゃんがいなかったらたぶんお父さんやお母さんにもう会えなかったわ!お願い、今度はサリアが少しでも力になりたいの!」
「サリア、なんて立派になって……」
「お父さん、お母さん、僕は盗賊に攫われた時に何もできなくてサリアちゃんも守れなかったんだ。今ね、屋敷で魔法と剣を習っているんだ。みんな小さい僕にも優しく教えてくれるんだ。
僕は村で遊ぶよりもいっぱい訓練して今度は村のみんなを守れるような男になりたいんだ!だから街でユウキ兄ちゃんと一緒に働いて訓練するのを許して!」
「マイル……そうか、もうお前は一人前の男なんだな」
サリアとマイルの援護が入る。そして2人もいろいろと考えてくれているのがよくわかった。本当にこの歳で立派だよ。2人のおかげで両親も少しは考えてくれそうな雰囲気になってきたのかもしれない。
「いや、だめだ許さん!」
……わかっちゃいたけどサリアの父親だ。まあサリアのことを溺愛してるから反対することは目に見えていた。
「サリアはまだ子供だ!子供の頃から仕事なんてする必要はない。成人してからいろいろ学んでいけばいい」
「収穫の時にはサリアも手伝っているわ!お父さんだって働かせているじゃない。それに成人するまであと少しだし、屋敷で勉強とか魔法とか教えてもらっているけどこの村にそんな先生はいるの?」
「うぐっ!いや街には危険がいっぱいある。村で暮らしてきたほうが安全だ!」
「あなた、村でサリアが攫われたのを忘れたの?街の領主様の屋敷で働いているほうがよっぽど安全だと思うわ」
正論すぎる。サリアの母親からの援護射撃、効果は抜群だ。
「ぐぬぬ!いや、村には仲の良かった友達もいるだろうし、住み慣れた村の方が生活しやすいだろ」
「街にだってミレーちゃんとルイスくんみたいな友達ができたわ。それにご飯も美味しいし、1週間に一度お風呂にも入れるし街の方が暮らしやすいの」
「かはっ」
おう、サリアもサリアの母親もなかなか容赦がない。畳み掛けるような見事な正論の連打だ。ただ街の方が暮らしやすいという言葉は村長さんもダメージを受けていたからもう言わないであげて。
「うぐぐ……嫌だ!せっかくサリアが無事に帰ってきたのに一緒に暮らせないなんて許せん!」
子供か!いや俺も最初に似たような個人的なわがままを言ってるから人のことは言えないんだけどな。
「……もう、あんまりわがままなことばっかり言うならお父さんのこと大嫌いになって家出しちゃうんだからね!」
「ぎゃああああああっ!!」
サリアの会心の一撃が入った。サリアの父親は断末魔をあげて倒れた。返事がないただの屍のようだ。
とりあえずサリアの父親は放置して、1週間後に迎えに来ること、それまでに一緒に家族で過ごして考えて欲しいことを伝えた。サリアとマイルにもさっきのは俺のわがままだから2人が両親と一緒に暮らしたいと思ったら遠慮なく言って欲しいと伝えた。
そのあとは村長さんたちが歓迎の宴を開いてくれた。もちろん食べ物とかは街の方が美味しかったが、こういう大人数で騒ぎながらの宴は本当に楽しかった。
こういう村でのんびり生活するのも悪くはないと思う。それでも2人には屋敷にいて欲しいとは思ってしまうな。ちなみにサリアの父親はあまりに深い傷を負ったせいか宴の間も目が覚めなかったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます