第42話 サリアとマイルの村



 日が少し落ちかけた頃、ようやくサリアとマイルの村の入り口が見えてきた。木でできた柵のような門の前に門番らしき男が1人立っていた。


「おっ、エドガーさんじゃねえか!久しぶりだな、いつも遠くからわざわざありがとよ!うん?今日は馬車が2台あんのか。こっちの男は新顔だな」


「やあ、ガラノさん、ご無沙汰しております。こちらの馬車の方は我々の馬車ではありません。道中、狼の魔物に襲われて危ないところを助けて貰いました。ええっとこちらの方々は……」


「ガラノのおじちゃん!」


「おいまさか!マイルとサリアじゃないか!よかった、生きていたのか!おおーい、誰かマイルとサリアの両親を呼んできてくれ、2人とも無事に帰ってきたぞ!」


「本当か!わかったすぐに呼んでくる」




 少しすると2人の女性が走ってやってきた。もしかすると2人の母親かな。


「マイル!!」


「サリア!!」


「「お母さん!!」」


 親子の感動の再会である。こんな小さい頃に両親と半年以上も離れなければならないなんて考えられないな。大泣きしながら母親と抱きあうサリアとマイル、こんなんもらい泣きしてしまうに決まってるだろ!


 みんなが落ち着いたところで事情を説明するために村長さんの家に移動した。2人の父親は畑仕事をしていてもうすぐ戻ってくるそうだ。商人であるエドガーさんも2人に商店を任せて同席してくれている。ルイスとミレーは商店の手伝いをしてくれている。


「私はこの村の村長のベイヤと申します。まずは2人を連れてきていただきまして本当にありがとうございました。この村の村長として礼を言わせていただきたい」


「これはご丁寧にありがとうございます。リールと申します。この2人を連れてきたのは私達の主人であるアルガン家の指示ですので礼はお気になさらず」


「おお、アルガン家といえば街の領主の!確か先代が亡くなって新たな当主に代わったと聞いておりますな。まさかそんなに偉い方に助けてもらえるとは。盗賊に攫われたと思っておりましたが、捉えられているところを助けていただいたのでしょうか?」


「ええっとですね……」


 難しいな、奴隷として購入された後に働かされたけど、功績を認められて解放してもらったとはちょっと言いづらい。リールさんのお手並み拝見だ。


「サリア〜〜〜!!!」


 リールさんの話を遮るように突如大きな男が1人ともう1人の男が村長の家に入ってきた。てか声デカ過ぎる!


「お父さん!」


「サリア、サリア、無事だったんだな!よかった、本当によかった!」


「マイル!!」


「お父さん!」


「マイル、よく無事に帰ってきた!1人で大変だったな!ああ神様、本当にありがとうございます!」


 2人の父親が畑仕事から畑仕事から帰ってきたらようだ。両親と子供が泣きながら抱き合っている。サリアとマイル、本当によかったな!




「あんた達が娘を助けてくれたのか!恩にきる、何か礼をさせてくれ!俺たちにできることならなんでもしよう!」


「マイルを助けてくれて本当にありがとうございます!私達もできることならなんでもしましょう!」


 感動の親子の再会が終わり、落ち着いて話せる状態になった。さて、この空気のなか説明するのはなかなか骨が折れそうだ。頑張れリールさん!


「まず、この2人を救ったというべきなのは私達ではなく我が主人であるアルガン家になります。アルガン家はここから4日ほど馬車で移動した街の3人の領主のうちの1人です。礼なら私達ではなく我が主人へ」


「まさか、アルガン家の方とは!こんな小さな村の私でも知っているくらい大きな貴族様ではないですか!」


「そうなのか。すまねえ、俺はそこらへんのことには疎いんだ。とにかく偉い貴族様がサリアを助けてくれたってことはわかった。あれか騎士様か魔導士様が助けてくれたって感じか?」


「そうですね、ここから先は同じ境遇になったこちらのユウキというものより話させてもらいましょう。頼んだよユウキくん」


 っておい、丸投げかよリールさん!確かにずっと一緒だった俺からの方が説明しやすいけどさあ。


「……ええっと、はじめましてユウキと申します。まずはこちらをご覧ください」


 まあ実際に見てもらうのが早いだろう。俺は右手の手袋をとって黒い六芒星を見せる。


「それは奴隷紋!まさか、マイルにもあるのですか!?」


「いえ、マイルとサリアにはありません。今はと言うべきでしょうか。実は俺もマイルとサリアが捕まった数日後に盗賊に捕まえられてしまい、盗賊の牢屋の中でサリアとマイルに出会いました。そのあとに……」


 そのあと街に連れて行かれて奴隷として売られて、今の主人であるエレナお嬢様に買われたが、ちゃんとした扱いを受けていたこと、早くも仕事が認められてここに来る前に奴隷契約を解除したことを伝えた。


「……いや、にわかには信じられません。ユウキさんを疑うわけではないですが、まず領主になる程の方が奴隷に対してそれほど扱いがいいはずがありません。ですよね、村長?」


「ええ、私も信じられません。奴隷というものは一度堕ちてしまえば2度と戻れないと言われております。ですから奴隷に堕ちないよう我々は税金を必死に払っております。そして特にこの国では奴隷の扱いがひどく、何かあればすぐに罰を与えられると聞いております」


 確かに街で見た貴族とかローラン様の奴隷に対する扱いは酷かったな。まああれがこの国では普通なのかもしれない。


「確かに一般的な貴族はそうかもしれないですが、エレナお嬢様は違いました。その証拠に俺たちは一度も罰を与えられなかったです」


「本当だよ、お父さん。僕たち一度も罰なんて与えられたことないし、うちで食べられないような美味しいご飯を毎日食べさせてもらえたんだ!」


「そうよ、エレナお嬢様はすごい優しかったわ!それにサリアはすっごく綺麗なお洋服も着させてもらったもん!」


「「「………………」」」


 ちょっ、さすがに事実でこの村よりも美味しそうなご飯と綺麗な洋服を着させてもらってたけど両親のプライドというものがあるからやめたげて!


「ゴホン、そして村長である私が何よりも信じられないことが、たとえエレナお嬢様という方がどんなに優しかったとしても、たった半年で奴隷から解放してもらえるなんてことはないと思うのですが。いくら子供が他の奴隷よりも安いからといってそんなに簡単に解放されるものなんでしょうか?」


「そうだな。学のない俺でもわかる。確かにうちの娘は世界で1番可愛いとはいえまだ12歳だ!いくら仕事が上手くできたとしても金を稼ぐことはそんなに簡単じゃねえだろ。


 それにしても買われたのが女の主人で本当によかったぜ。もしこれが男でサリアに指一本でも触れていたなら一族郎党皆殺しにするところだったぜ」


「「「………………」」」


 こえーよ、サリアの父親!気持ちは分かるけどせめて殺すのは勘弁してくれ。うん、サリアが怒ると怖いと言っていた意味がわかった。果たしてこの父親を前にサリアをそのまま屋敷で働かせてくださいと言えるのだろうか。


「いえ、サリアもマイルも凄いですよ。今じゃ屋敷の掃除だけじゃなくて食事を作ったり、文字はまだですが計算もできるし屋敷の人は大助かりですよ」


 文字は読めないとはいえ足し算、引き算、掛け算がたった半年でできるようになったのはすごくない?元の世界だったら1〜2年くらいでやる内容だよな。間違いなくどこかのメイドさんより優秀だ。


「うちのマイルがですか!?まさか、この村で計算ができるものなんて数人の大人しかいませんのに」


 ああ、やっぱり普通の村とかの教育レベルだとそんなもんなんだな。


「いえ、本当です。あとでその人たちに確認してみてください。それに2人とも魔法も使えるようになりましたしサリアは火魔法、マイルは風魔法が使えますよ」


 無属性魔法しか使えない俺とは違ってね!


「……はあ!?うちのサリアが天才だからといってさすがに魔法は無理だろ!魔法を使えるやつなんてこの村にはいないぞ!」


 あれ、やっぱり魔法を使える人はかなり珍しいのか。まあ魔法に関してはシェアル師匠の教え方がよかったのかもしれないな。一番最初にやる魔力の流れを感じるのは魔法を使える人がいないとできないし。


「本当だよお父さん、見ててね!えい、ちっちゃい炎よ、きて」


「僕も見ててね、風よ、小さな風よやってこい」


 2人の前に小さな火と風が出る。ちゃんとした呪文を唱えれば人を傷つけるくらいには強い魔法が使えるが、そこはシェアル師匠が時と場合を選んで使うようにしっかりと教えている。


「……これは驚いた。本当に2人とも魔法が使えている!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る