第3話 盗賊アジトにいた先客
俺は盗賊のアジトのテントのひとつに入れられ両手と両足に鉄の枷をつけられた。奴隷に服なんざいらねえだろとシャツとズボンを取り上げられ今はパンツというかふんどしのようなもの一丁である。今がまだ暖かい夏でよかった。おそらくこいつらは冬であろうと同じように服を取り上げていただろう。
テントの中には見張りがいなかったので、両手と両足の枷を壊せないか試みたが駄目だった。他の世界からきた人はこちらの世界の人と比べて数十倍の力を持っているとかピンチになったことでこっそりと神様がくれた力が発動したとかそんな都合のいい展開にはならなかった。本当に頼むぜ神様……
そしてテントの中には先客がいた。10歳前後の男の子が一人と女の子が一人。子供が二人捕らえられているということはどこかの村とかからさらわれてきたのかな。二人ともだいぶ痩せていて虚ろな目をしているからもしかしたら俺が捕らえられるよりだいぶ前に捕らえられたのかもしれない。身体も心も弱りきっているせいなのか、いろいろと話しかけてみたけど全く反応が返ってこない。
俺と同じように枷をはめられ、更には鎖で俺の枷とも繋げられている。おそらく逃げられるのを避けるためだろう。さすがにこの状況では文字通り手も足も出ない。
水だけは近くにある川から汲んだ水が桶に入れられており勝手に飲むことができる。トイレはテントの外に掘った穴にし、もちろんトイレットペーパーなどないので穴の横に集められた葉っぱでふかなければならない。
結局今日はただひたすら寝ているだけだった。そもそもできることがないし、起きているだけで無駄に腹も減ってしまう。もうすぐ街の奴隷商に売るからおまえらに食わせる飯はねえと、何も食べさせてもらっていない。これが期待していた異世界かよ……
そして次の日。
「ちくしょーまた負けだ。もうやってらんねえよ」
「ガッハッハッ、相変わらず弱ええな。悪いな、これで街に行った時に遊ぶ金ができたぜ」
テントの外から盗賊達の声が聞こえてくる。盗賊達は少しの人数をアジトに残して獲物を探しに動いているらしい。アジトに残った盗賊達は仲間内でバクチをしたりしていた。
「くそが!今度はぜってーとりかえしてやるからな!ちっ、イライラするぜ。なあおい、捕まえた女のガキやっちまっちゃ駄目なのかよ?」
一緒のテントの中にいる女の子も聞こえたらしくガタガタと震えだす。そりゃあ怖いだろう、本当に腐ってるなこいつら。
「ああん?おめえあんなちっこいガキがいいのかよ?やっぱ女は胸だよ、胸。ナイスバディーのねえちゃんの奴隷がいりゃあ最高だったのによ」
「俺だって胸がでけえほうがいいに決まってんだろ。ただこうも長い間女がいねえとさすがにあれでもいいやって思えてくるわ。この前捕まえたやつはかなり具合がよかったのによう。勿体ねえよな一匹くらい売らずに俺達に残しといてくれりゃあいいのによう」
「ああ、この前のやつはよかったよな、思い出させんなよ。まあしょうがねえだろ俺達の酒代のツケがたまりまくってたんだからよ。さすがにツケがきいて俺らみたいなもんが飲める店はここらへんじゃああそこしかねえから踏み倒すわけにもいかねえしな。
それにあのガキに手え出すのは駄目だぞ。女は初物だと値段が一気に跳ね上がるからな。勝手に手え出したら親分にたたっ切られるぞ!」
「だああっ、そうだよなあ、くそったれ。しょうがねえ、また腹いせに男のガキでも殴ってくるわ」
「男だったらかまやしねえよ。ああっ、わかってんと思うが顔は駄目だぞ。商品価値が下がっちまうからな」
「へへっ、んなこたわかってんよ。んなことより次はぜってー取り返すからな!」
「はっ、いくらでもかかってこいや。まっ、ストレス発散もいいが殺すんじゃねえぞ」
今度は男の子も震え出す。そうか俺が来る前にもさんざん殴られたんだろう、かわいそうに。よく見ると体にはたくさんの青あざがあった。
入り口から一人の盗賊が入ってくる。ああっこいつは俺を騙したてここまで連れてきた盗賊のうちの一人だ。確か仲間内ではボレアとか呼ばれてたっけ。
「へへっ、さあお楽しみの時間だぞ。おっと今日からは新入りもいるんだったっけな。まあもう少しで街にいくから新入りは勘弁してやるよ。ちっとでも身奇麗にしときやがれ。さあて今日はどんなことして遊んでやるかな」
……どうやら俺ではなく男の子を殴ろうとしているようだ。にやにやと下卑た笑いを見せつけながら男の子が怯えている様を見て楽しんでいやがる。
くそっ、ちょっとでもほっとしてしまった自分が情けねえ。違うだろうが、別に俺だってそんなたいした人間じゃないことは自分でもわかっているが、こんな小さな子供が殴られるのを黙ってみているのは違うだろ。
「……博打で負けて小さい子供に八つ当たりとか情けねえ」
俺はボレアとか言う盗賊に少しだけ届くような小さな声でぼそっとつぶやく。
「……ああん、てめえ今なんつった?」
「いえっ、別に何も言ってませんよ」
わざと言ったことがばれないように、やばい聞かれてしまった、っとちょっと焦ったようにふりをする。
「嘘つけ、聞こえてんだよ!てめえにしねえとわかったとたんに調子に乗りやがってよ!ああもういい、今日はてめえだ。ここでの礼儀をたっぷりと教えてやるよ」
予定通り怒ったボレアがターゲットを俺に変える。
「がはっ!」
「はっ、何もできねえ雑魚の分際でわめいてんじゃねえよ。おらよ、もう一丁!」
いって!思いっきり腹を蹴ってきやがった。今まで喧嘩なんてしたことがないからこんな衝撃初めてだ。やっべ本気で痛てえ。
「すみません、もう勘弁してください」
こういう連中はつまらない反応をすると簡単にターゲットを変更するからな。こいつらが望むような反応をしてやらないと。……決して想像以上に痛かったからこいつらに屈してしまったわけではないぞ。
「へへっ、てめえの身の程がわかったか。おらっ、まだ終わりじゃねえぞ!」
そういってこいつは十分以上俺を蹴り続けた。ちくしょう、ボレアとかいったな、この恨みはぜってえ忘れねえからな!
「ふうっ、ちったあスカッとしたぜ。てめえはなかなか蹴り心地がいいじゃねえか。またてめえで憂さ晴らししてやるから楽しみに待ってな!」
ようやく気が晴れたのかボレアがテントから出て行く。くそっ、ドラマとかでみるのと違って本気で蹴られるとマジで痛いんだな。昨日から何も食ってないから吐けるもんもでねえや。
「……痛ってえな」
くそったれ、これが異世界かよ。チート能力で俺TUEEEとか夢のまた夢か、現実はひどいもんだな。ちょっと本気で涙がでてきそうだ。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ありがとう兄ちゃん、僕をかばってくれたんだよね?」
二人が話し掛けてくる。よかった、話しかけても全然反応がなかったから話せないのかと思ってた。この二人からしたら見知らぬ俺を怪しんでいたのかもしれない。
それにしてもやっぱりバレバレだったか。こんな小さな子供たちが気付いているのにボレアとかいう盗賊は本当にまぬけなやつだな。
「……なんのことだかな。それより二人とも大丈夫か?いつもあんな風に殴られたり蹴られたりしてきたのか?」
「うん。たまに怖いおじさんがきて僕をぶってくるんだ。半分くらいはさっきのおじさん」
なるほど、暇な時に博打をしているから負けたやつが代わる代わる腹いせに来るのか。半分くらいあのボレアとかいうやつが来るってことはあいつは博打に弱いのかもな。
「そうか、よく我慢しているな、えらいぞ!俺の名前はユウキだ、よろしくな」
「僕はマイルだよ。こっちの子はサリアちゃん。村の外で二人で遊んでいたらあいつらに捕まっちゃって……」
「……そうか。マイルくんもサリアちゃんも大変だったな。助けが来るかもしれないし、希望を捨てずにがんばろうな!」
「もう無理よ、助けなんてくるわけないよ!もう私達一生奴隷として過ごすしかないんだわ!」
女の子、サリアちゃんが突然大きな声をあげる。いろいろと張り詰めていたんだろうか、目から大粒の涙をこぼして泣き始めてしまった。
……まあそうだよな、正直俺もここから助けが来る可能性はほとんどないと思っている。でもだからといって一生奴隷でいるつもりなんて全くない。もしかしたらここから街に移動する際に逃げられるチャンスがあるかもしれないし、この世界の奴隷制度がどんなものかしらないけれど、たとえ奴隷になったとしてもきっと自由になれる道があるはずだ。
「サリアちゃん、確かに助けが来る可能性はあまりないかもしれない。けどね、助かる可能性が完全にゼロというわけでもないと思うんだ。もしチャンスが来た時に完全に諦めていたらそれこそ助かる可能性は完全にゼロになっちゃうと思うよ」
「嘘よ!もうお父さんやお母さんにも会えないんだわ!」
「嘘じゃないよ。俺は奴隷から解放された人も大勢知っているし、自由になった人がいることも知っている」
元の世界では国によっては自分を買い戻すことができる制度がある国もあったはずだ。それに奴隷解放宣言で、すべての奴隷は一斉に解放された。
「……本当?またサリアの村に帰れる?」
「ごめんそれはわからない、でも諦めないということはそれだけでとってもすごいことなんだ。最後まで諦めなかったから大逆転できた人たちを俺は大勢知っているよ。諦めなければいつかきっと自由になってサリアちゃんの村にも帰れるかもしれないよ。
とはいえ今は耐えることしかできないんだけどね。そうだ、実は俺はここからすごく遠くにある場所から旅してきたんだ。ここに来るまでにいろんな人にいろんなお話を聞いてきたんだ。みんなにも聞かせてあげるね」
こういう時は元気の出る話をしてあげよう。定番なところで桃太郎や一寸法師とかどうだろう。あとサリアちゃんにはシンデレラとか白雪姫とかがいいかな。この世界の子供たちはたぶんこんな話は聞いたことはないだろう。
「むか~しむかしあるところにおじいさんとおばあさんが……」
さすが日本昔話とグリム童話、子供達は興味津々に話を聞いてくれた。こんなことしかできない自分の無力さが本当に嫌になるが、これで少しでも元気が出てくれるといいんだけど。
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