3-7 女神教の女聖騎士

「ウオオーッ、面白かったなー」


 12魔将の1体と、聖都にいる女聖騎士が戦う姿をのんびり観察し終えた後、俺は瞬間移動で、戦っていた現場へ移動した。


 人間にしては、12魔将相手に、面白い戦いを見せてくれた。

 命を懸けているからこそ、作り物の演技では出せない最高にスリリングな戦いだった。


 いやー、実に面白いね。

 ここにポップコーンがあれば、食べながら見入っていたのに、ストレージになかったのが悔やまれる。


「僕ももってないよ」


 一緒に観戦してたイクスも、持ってなかったからな。



 そんな熱い戦いぶりを示した女聖騎士は、地面に倒れ伏して全身血塗れ。

 目に光がなく、もう何も見えていないだろう。


 ゴフゴフと口から音がしているので、まだ死んでいないが、それも時間の問題だ。



 でも、俺って優しいから、回復魔法で生き返らせてあげよう。



 致命傷状態からでも、俺の回復魔法ならちゃんと回復させることができる。

 何しろ母上は元女大天使で、回復魔法は人間とは比べ物にならないレベルで扱える。

 息子の俺も、死人を墓から蘇らせることだって可能だ。


 もちろんアンデッドでなく、ちゃんとした生身でだ。


 まあ、たまにぽかして、生き返らせた人間の片腕がなくて、そこから血がドバドバ出まくって、すぐにあの世に逆戻りすることがあるけど。


 やっぱり、俺に回復魔法はダメだな。

 母上みたいにはいかない。

 ああいう面倒な魔法は、母上やイクスに任せた方がいい。



 とはいえ、俺の回復魔法でも、目の前の女聖騎士はちゃんと復活した。


「ハアッ、ハアッ……女神よ」


 死にかけていたせいで、最初に口にする言葉がヤバイ人だけど、そこはスルーしてあげよう。

 だって、俺は優しいから。



「よう、元気か?」


 とりあえず初対面なので、俺は地面に横たわっている女聖騎士に手を貸して、立たせてやる。


「私は……死んだはずではなかったのか?」


「それなら大丈夫だ。お前は死にかけていたけど、俺の回復魔法で生き返らせてやったから」


「回復魔法?生き返る?

 では、私は生き延びることができたのか!?

 そ、そうだ。魔王は、魔王は、一体どうなったんだ!?」


 いろいろと混乱しているようだが、真っ先に女聖騎士が気にしたのは魔王の事。


 俺は戦場観察しながら、魔将と戦う音も聞いていたので、女聖騎士が魔将のことを魔王と勘違いしていることも分かっている。


 まあ、あいつは魔王クラスのアンデッドなので、魔王と呼んでもあながち間違っていないけど。



「それならここにいるぞ。見事に真っ二つだ」


 俺は近くに転がっている魔将の頭蓋骨を、足で蹴りとばす。

 そのままコロコロと地面の上を転がっていく。


 転がる頭の傍には、女聖騎士によって切り飛ばされた片腕がある。

 さらに離れた場所には、返す一撃を受けて脊髄をポッキリ折られ、上半身と下半身に分かれた魔将の骨が転がっている。


「そ、そうか。よかった。魔王を倒すことができて、これで聖都の皆が救われる。

 ああ、女神よ、感謝いたします」


「うんうん、よかったな」


 いやー、激闘の後に嬉しそうにしている女聖騎士を見ていると、俺も嬉しくなって笑顔になってしまう。


「ハッ、ところで貴殿は?

 私の命を救ってくれた恩人のようだが」


「ああ、俺は……」


 さて、どう答えようかと少しだけ考える。

 お、いい自己紹介の仕方が思い浮かんだぞ。



「俺はエクシード・ノヴァ・リベリオだ。

 なんとかって国の王女から聞いたんだが、この世界とは違う世界から、勇者召喚によって呼び出された」


 俺は真実しか口にしていない。

 ただし、ここで大事なのは、決して勇者だと公言しないこと。


 だって、俺の知っている勇者2名が、頭のいかれた変態野郎なのだ。

 間違っても、「俺が勇者だ!」なんて名乗ったら、あの連中と同レベルの人間と思われてしまう。

 それは何があっても、避けねばならない。


 そもそも俺、勇者じゃないし。

 ただの巻き込まれだから。



「で、では、もしやあなた様が、伝説の勇者様?

 女神の寵愛を受けた、神の使徒様!?」


「お、おおうっ!?」


 いきなり目の前で全力土下座して、額を地面にめり込ませる女聖騎士。

 何この子、やっぱり宗教かぶれのヤバイ奴なのか?


 俺の出会う女って、どうしてどいつもこいつも碌な奴がいないんだ。



 ま、それは今更嘆いても仕方ないことだ。


「勇者かどうかは知らないが、少なくともあの女は、俺のことをそう思ってたんだろうな。

 ……ほんの1秒未満の間くらいは」


 最後の部分は超小声で、女聖騎士には聞こえてない。


 もちろんあの女とは、金髪ドリルヘアー第二王女のことだ。

 名前はとっくに忘れた。

 そもそも奴とは相性最悪だったので、覚える気が皆無だ。



「あの女……もしかして、私と同じ髪型をした、エベン王国の第二王女ではないですか?」


「あー、それそれ。確かそんな名前の国の王女だったな。

 君の髪形と全く同じ、ドリルヘアーだ」


 こうして目の前にして改めて思うけど、この女聖騎士とあの王女のドリルヘアーは瓜二つだ。


「そ、それで彼女は、一体どうなっているのですか!?

 女神の使徒様、彼女は私と仲の良かった従妹なのです」


「その髪型は血縁だったわけか」


 なるほど、道理でうり二つの訳だ。


 ドリルヘアーは血筋のせいで、この世界の女全員が、ドリルヘアーを装備している訳じゃない。

 ふう、一安心だ。

 あんな武器を頭に乗せている女しかいない世界だったら、世界征服する気が完全になくなって、帝国に逃げ帰っていたところだ。


「それで、彼女は、アイゼリーナはどうなったのですか?」


「安心してくれ、ちゃんとここにいるから」


 俺は今日一番の笑顔を浮かべて、転移魔法で金髪ドリルヘアー第二王女を連れてきた。


「なっ!?」


 その瞬間、全身が凍り付いたかのように固まる女聖騎士。


 まあ、仕方ないよな。

 頭がどこかに行ってしまったせいで、特徴的なドリルヘアーが失われてしまっている。

 武器が失われた姿を目の前にすれば、我を忘れて固まってしまうよな。



「だが安心してくれ、姉の方のドリルはちゃんとついてるから」


 俺は超優しいので、再び転移魔法を用いて、金髪ドリルヘアー第一王女を連れてくる。

 こっちも腐ったアンデッドだが、未だに頭の武器は失われていない。

 てか、顔の一部とか腐ってなくなっているのに、どうしてドリルヘアーだけは抜け落ちないんだ?


 この姉妹のドリルへの執着は、アンデッド化した程度では失われないようだ。



「そんな、どうして、どうして2人とも、アンデッドなんかに……」


「おまけで、ご家族もまだ残っているから」


 俺はニッと笑って、さらに王女たちの家族である、国王と王妃、あとは兄だか弟だかもつれてきた。

 もちろん、みんな仲良くアンデッドになっていて、今も骨はちゃんと残っている。


 命に関しては、とっくになくなってるけどなー。

 ハッハッハッ。


「イ、イヤーッ!」


 そんな従姉妹の家族を前にして、感嘆の声を上げる女聖騎士。


 あまりにも嬉しくて、体がプルプルと震え、泣いている。


 が、すぐさまその瞳に怒りを宿して、俺を睨みつけてきた。



「貴様は、貴様は魔王の手先か!死ねっ!」


 さっきは俺のことを勇者だ、女神の使徒様だと褒めそやしていたのに、掌返しも酷いところだ。

 ちゃんと従姉妹の家族にも会わせてあげたのに、何が不満なんだろうな。


 武器はないが、それでも鍛えられた肉体を持つ女聖騎士は、手刀を放ってきた。

 意識を刈り取るのでなく、強烈な突きによって心臓を刺し貫く、必殺の一撃。


 それが俺の心臓に迫る。



「ゴフッ」


 だが、その一撃を受けたのは俺でなく、女聖騎士の心臓だった。


「なっ……どうして動いている!?」


 女聖騎士の心臓を貫いたのは、アンデッドの腕だった。


 骨だけのその腕は、片腕のみで空中に浮かんでいる。


 腕は、女聖騎士の心臓を貫いた後、空中を飛んで行く。

 飛んで行った先には、脊髄を折られ、上半身と下半身に断たれたアンデッドがいた。

 そして、なぜか片腕も斬り飛ばされてなくなっていたが、先ほど飛んできた腕が、切断部にピタリと合わさる。


 体を3つに断たれていたアンデッドは、切断部分をピタリと合わせると、最初から体が切られてなかったように、一つの体へ戻った。



「殿下、見苦しいところを見せしてしまい、申し訳ございません」


 分かれていた体が一つに戻ったアンデッドは、俺の前で恭しく跪いた。


「いや、お前たちの戦いは見てて面白かったぞ。

 女聖騎士様が命を懸けて戦う姿なんて、作り物の舞台では見られない迫力があって、思わず手に汗握ったぞ」


「それはようございました」


 俺の機嫌がいいと見て取ると、アンデッドは自らがとった不覚を、気にしなくなる。



 だが、嬉しそうに話している俺たちの姿を見て、心臓を貫かれた女聖騎士が、どうしてという目で、俺たちの方を見てくる。


 心臓がないので、もう長くない。

 体は崩れ落ち、立ち上がることができない。

 でも、まだ耳くらいは聞こえているだろう。


「こいつは12魔将っていう。

 俺が子供の頃に作った玩具だが、結構いい出来でな。便利なので、今でもたまに使ってるんだ。

 もちろん、ちょっと切られた程度で使えなくなるような、木偶じゃない」


 俺の自慢の玩具だ。

 子供の頃の俺は偉いな。


 だけど、俺の自慢話に付き合う前に、女聖騎士は涙を流しながら目を閉じて行く。

 もうすぐ死ぬのに、非常に恨めしそうな目で俺の方を睨んでくる。


「女神よ」


 と、声のない声で、口だけが微かに動いた。



 最後だというのに、実に健気な姿だ。

 俺、感動しちゃうよ。


 涙は全く浮かんでこないけど。




「兄さん」


 なんてやってたら、イクスが俺たちの傍にやってきた。


 ただ俺の方を見る目が、メチャクチャ呆れている。

「これは何を言ってもダメだな」って感じで、俺の方を見てくるんじゃありません!


 俺は、お前の兄だぞ。

 そんな目で見るんじゃない。



 そんなイクスは、これ以上俺に関わることなく、女聖騎士の近くに行った。

 悲しそうな顔をして、わざわざ跪いて彼女の最後を看取ってやる。


「君は最後までよくやったよ。兄さん相手に戦い続けたんだから」


「えっ、俺は女聖騎士とは戦ってないけど?

 玩具の駒にして遊んでただけだし」


「……」


 ああ、ダメだ。

 イクスが俺のこと完全にシカトしてやがる。


 グ、グヌヌッ、この弟はー!

 ここは兄としての威厳を示すべきか。



 そんなイクスだったが、女聖騎士が死んだあと、その魂をちゃっかり食べていた。

 口から食べるわけでなく、体が死んで肉体から離れた魂が、イクスの体の中へ向かって行って、そのまま取り込まれた。


 取り込んだイコール食べた、だ。



 女聖騎士の魂を食べた瞬間、イクスは少し驚いた表情をして、目をパチクリさせた。

 どうやら、予想外にうまかったらしい。


 でも、魂を食べるとか、どうなんだ?

 人間の魂を取り込んで、神はナンタラカンタラって話があるけど、あんなものを食べるなんて、完全にゲテモノだ。


「イクス、あんまり変な物ばっかり食べてると、腹壊すぞ」


 ここは兄として、ちゃんと注意をしておかないといけない。

 悪食になんてなられたら、母上も泣いてしまうぞ。

 いや、母上もたまに似たようなことしてたか?


 親父の方はゲラゲラ笑って、もっと変な物を食わせそうだから、考えるだけ無駄だな。





 なお、今回の戦いで、即席アンデッド軍団は大体処分できた。

 100体か1000体くらいは残っているだろうが、そんな端数まで俺の知ったことじゃない。


 放っておけば土に還るか、でなきゃこの世界にいる冒険者かなんかに討伐されて終わりだろう。




 それと、この後聖都の法王って奴がいるところまで行って、俺は勇者召喚されてここに来ましたって、盛大にミスリードを誘ってやった。


 もちろん、俺は自分のことを勇者だなんて一言も名乗っていない。

 奴らは、最終的に魔王軍アンデッドを退けたのが、俺だと勘違いして、盛大に喜んでくれた。


 いやー、嬉しそうで何よりだ。

 俺も超嬉しいよ。


 その後、12魔将が全員揃って法王の前に姿を見せると、あれほど俺のことを褒めたたえて喜んでいたのに、掌返して邪悪な悪魔だ、魔族だと叫びだしやがった。


 ま、元気に叫んでいたのは最初だけで、すぐに死んで何も叫べなくなったけど。





「それにしてもアンデッドの軍とはいえ、魔族って使えねえな」


 いろいろと面白い場面には遭遇したけど、こいつらで世界征服するのは無理だな。

 次からは別の兵を揃えよう。

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