3-4 女神教の女聖騎士

 その頃、聖都の城門の一つが炎の嵐に包まれ、爆発する光景を見ている男がいた。


「なんでリッチがいるんだ?」


 その男はエクスという愛称で呼ばれる男だが、彼を知る者は大抵殿下という敬称で彼のことを呼ぶ。

 本名はエクシード・ノヴァ・リベリオという。


 そんな彼の傍には魔王級の魔力を有した、強大なアンデッドが控えている。

 能力的には、たった1体でこの場にいる30万のアンデッド以上の戦闘能力を有している。

 聖都に籠る聖職者たちのターンアンデッドの集中攻撃を受けても、浄化しきることができない深い呪いを宿し、ぶっちゃけどこからどう見ても、魔王以外の何者でもない存在だ。


 そんな強大なアンデッドが、エクスの傍に跪いて答える。


「これほどの規模の軍となりますと、思考能力を有した中級指揮官なしには、まともな行軍すらできなかったので、リッチをいくらか用意いたしました」


「そういえば、今までは進軍させるだけで迷子になるアンデッドが、山のようにいたな。そりゃしかたないか」


 リッチは、ゾンビやスケルトンなどより遥かに強い力を有し、アンデッドと化してなお、思考する知恵を持っている。

 生前は、優れた魔法の使い手であることが多い。


 そのようなアンデッドとなれば、いかに魔王クラスのアンデッドとはいえ、死の魔力を周囲に振りまいただけで作り出すことはできない。


 とはいえ、息をするように作り出せないだけで、出来の言い素材死体があれば、大した手間をかけずに生み出せる。


 だから彼らは協力し合って、リッチを作り出した。

 12体の魔将軍たちが協力し合って、ほんの1000体ほど。


 30万のアンデッドから見ればささやかな数だが、リッチたちが合同で魔法を放てば、聖都の城門を一撃で破壊する魔法を紡げた。



 そして破壊した門へと、アンデッド軍団が雪崩を打って進軍していく。


 まあ、大体は仲間同士でぶつかってズッコケてしまい、それを後ろから来たアンデッドたちが踏み潰しながら先へ進んでいくという、カオスな進軍だ。



「でもな、今回の戦いはアンデッドゴミの処分だ。

 派手にやるのは見てて楽しいが、間違っても都市を陥落させるなよ」


「御意に。ですが、殿下がお楽しみいただける戦いにしてみせましょう」


 12魔将の顔は表情のない骸骨だが、この時、確かにその顔は笑っていた。



 そんなエクスと12魔将のやり取りを、近くにいる弟は「なんだかなー」なという、微妙な表情をして見ていた。

 聖都に籠る人たちには悪いけど、あまりにも緊張感のなさすぎる戦い掃除だと思いながら。

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