3-3 女神教の女聖騎士

 聖都ミサルガン。

 女神教の総本山であり、聖地があるこの都市には、女神教の敬虔な信徒が数多く住んでいる。


 宗教都市であるミサルガンは、石造りの大神殿を中心に、数多くの宗教施設が立ち並ぶ。

 女神教の信者であれば聖地巡礼の旅を行い、一生に一度はこの都市を訪れることになる。


 都市の壮麗な美しさに誰もが感銘を受け、聖地での祈りによって女神へ深い感謝をささげるとともに、女神からの慈悲を感じずにはいられない聖なる地。



 とはいえ、聖地があるこの都市であっても、周囲は無骨な城壁によって覆われている。


 この世界には女神のことを理解することができない魔物モンスターが蔓延り、都市を守るためにはどうしても、城壁の守りが必要になる。

 また、知恵ある存在でありながら、あろうことにも聖地を目指す巡礼者を襲い、略奪して回る野蛮な賊徒どもが存在している。

 過去には、そのような背教者が大規模な徒党を組み、女神教の聖地を略奪したことすらあった。


 ゆえに、聖地と言えど防備のための城壁なくして、都市を守ることはできない。


 そして今、聖地には不似合いな城壁が、まさかの活躍を見せていた。




「ウガー」

「アガー」

「グオオーンッ」


 私が前線都市から、聖都ミサルガンが見える平原へたどり着いた時、既に聖都を囲う城壁の周囲には、数え切れないアンデッドがひしめき合っていた。

 今までに対峙してきた魔王軍とは、けた違いの数。


 万どころか、十万を遥かに超える軍勢が、聖都を包囲している。


 アンデッドの軍勢は、人間の軍隊ほど統制は取れていないが、数自体が脅威だ。


 そんな軍勢の中から駆け出した、ウォーカーと呼ばれるゾンビが、高速で平原を駆け抜け、城壁へ向かっていく。

 奴らは人間の足では出せない速度で、都市の城壁へ迫る。


 またジャンパーと呼ばれる、ゾンビもいる。

 こちらは速さに特化したウォーカーのように走る速度は速くないが、かわりに驚異的なジャンプ力を持つ。

 聖都の城壁は高さ10ルートに近いが、ジャンパーの跳躍力を持ってすれば、簡単に飛び超えることができる。


 そんなゾンビたちが、次々に聖都へ向かっていく。


「「「ターンアンデッド」」」


 しかし、迫りくるゾンビの群れに対して、都市に籠る守備隊から魔法が放たれる。



 アンデッドを聖都へ差し向けた魔王軍は、愚かだ。


 聖都は女神教の総本山であるゆえ、そこには女神の力によって発現する、神聖魔法の使い手たちが数多くいる。

 女神に仕える聖職者は、高位の神聖魔法を扱える者が数多く、アンデッドを一撃で浄化できる、ターンアンデッドの使い手も数多くいた。


 特にターンアンデッドを広範囲にわたって展開する、エリア・ターンアンデッドが放たれれば、それだけで平原にひしめくアンデッドの一角が、浄化の光によって清められ、昇天していく。



 もしも平原であの大軍を相手にすれば、人間側の敗北は確実だっただろう。

 だが、城壁の守りと女神の慈悲が満ちる聖都での戦いとなれば、いかに数で勝ろうとも、アンデッド相手に聖都が落ちることはありえない。



「とはいえ、状況は我らにとってあまり良くない。急いで私たちも聖都へ向かうぞ」


 アンデッド相手に、聖都は落ちないと確信している。

 だが同時に、前線で魔王軍と対峙し続けてきた騎士としての勘が、冷静に現在の戦況をみていた。


 今は城壁と聖職者たちの神聖魔法によって、アンデッドを都市へ寄せ付けずにいるが、魔力は無限に続かない。

 神聖魔法の連発によって聖職者たちの魔力が底を尽けば、早晩聖都の城壁を突破して、アンデッドが聖都内へ雪崩れ込むだろう。


 それをさせないためにも、私は剣を抜いて平原に群がるアンデッドの一角を切り崩し、聖都の城門を目指す。


 なに、心配することはない。

 ここには私だけでなく、前線都市から連れてきた部下の一隊もいる。


「皆で敵を切り崩し、聖都へ入城する。

 聖都の部隊と合流すれば、その後は反撃へ転じるぞ」


 私は部下たちを鼓舞して、騎乗する馬を走らせて聖都を目指した。

 聖騎士たる私が、聖都の守備隊、そして女神を信じる信徒たちと合流すれば、この戦いに敗北などありえない。


 だが、そんな私たちの希望を打ち砕くかのように、聖都の城門の一つで炎の嵐が巻き起こり、爆発した。

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