3-1 女神教の女聖騎士

 この度、エベン王国が統一リベリオ帝国の領土に編入された。


 帝国皇太子にして、副帝たる俺としては、めでたい慶事と言うべきだろうか?



 もっとも王国とは名乗っているが、エベンはただの都市国家で、王都を落とせば、あとは周辺に小さな村落があるだけの、非常に小さな国。


 王都から12魔将を指揮官にしたアンデッド軍団を方々に派遣すれば、それだけでエベン王国を簡単に征服し終えた。


 こんな路傍の小石みたいな領土を征服しても、慶事も何もあったものじゃない。



「はあっ、嘘だろう。田舎のエベンだけでなく、1ヶ月もかからない内に、10の国が落ちるとか……この世界の国は、どれだけ小さいんだよ」


 ゴメン、エベンだけでなく、周辺の国も都市国家だったので、12魔将率いる即席軍団で、あっさり征服することができた。


 おまけに戦力がさらに増え、気づけば30万の軍隊に膨れ上がっている。


 もちろん、戦力は全てアンデッド。

 12魔将が魔力を放つだけで、侵略先の都市や村の住民が、アンデッドと化してしまう。

 老若男女、ついでに周囲にいた生物を巻き込んでアンデッド化したので、種族の垣根も関係なく、戦力が増え続けた。



「進め進め、我が軍は無敵だー!」


 なんて叫んで、アンデッドを増やし続けて、世界を蹂躙するのもありかもしれない。



 実際、周辺の国を征服するおまけで、この世界を侵略している魔王軍と名乗る軍隊とも、一度遭遇した。

 一応言っておくが、魔王軍といっても、うちの帝国とは無関係の連中だ。


「我こそは、魔将軍ナンタラカンタラ」


 軍隊を率いる魔族が何か言っていたが、そいつも今ではアンデッドの仲間入りだ。



 遭遇した際、魔族の軍隊は、12魔将の死の魔力によってアンデッド化してしまった。

 さすがに将軍格はアンデッド化を免れたものの、それまで率いていた手勢が、丸まる12魔将の手駒になり、周囲にいた味方が全て敵に変わってしまった。


 あとは数に物を言わせた暴力で袋叩きにされ、魔将軍はあっさり死亡。

 そのままアンデッドの仲間入りを果たした。


 マジで世界征服が簡単にできそうだ。



 ただ、アンデッドたちに数に任せたソ連式突撃戦法をさせても、碌な結果にならない。


 何しろ奴らはアンデッド。

 脳みそが腐っているならましな方で、スケルトン化した連中なんて、考えるための脳みそが存在しない。

 リビングアーマー化した連中に至っては、死んだ魂が鎧に定着して動いているので、鎧の中の体は、きれいさっぱりなくなっている。

 生前の体なんて、影も形もなしだ。


 そんな連中に前進突撃を命じても、ウガーと叫びながら突進するだけ。

 それも前進と後退すら理解できないので、無秩序に動き回って、互いにぶつかり合い、盛大にズッコケ合う有様。


 前進を理解できる分、ソ連兵の方が優秀だ。



 一応、時速60キロから80キロの速度で走るゾンビなんかもいる。

 自動車並みの速度で走るゾンビの集団は、見ているとインパクトが強いが、あいつらは走っている途中で腐った体が耐えられなくなり、腕や足がもげてしまう。

 足がもげれば走れなくなるので、あとは這いずり回っての、超低速移動しかできなくなる。


 つまり、役立たずだ。




 それでも俺の軍勢による、世界征服事業は順調に進行中だ。

 ある日、イクスが指摘するまでは。


「ねえ、兄さんって世界征服をしたいんだよね?」


「いずれ親父がくたばれば、帝国は俺のものになる。

 だが、その前に自分で、世界を一つ取ってみたいからな。

 譲られたものより、自分で手に入れたものの方が愛着もわくしな」


 俺のちょっとしたこだわりだ。

 親父も散々やったことだし、俺だって世界の1つくらい、自分で取ってみたい。


「でも、このやり方を続けると、この世界にはアンデッドしかいなくなるよ。

 それって世界を征服したって言うより、滅ぼしたって言うんじゃないかな?」



 想像してみよう、アーアー、ウーウーとうめき声しか上げられない連中が、世界中を跋扈していて、特にやることもなくその辺を徘徊しているだけの世界。

 溢れた死者によって、それ以上発展することがなく、停滞したかのような時間がただ永遠と続いていく。


 まるで痴呆になったニートご老人集団が、涎を垂らしながら、その辺を徘徊して回っているような世界じゃないか。

 しかもこのご老人たちが、腐っていて死なない。


 いや、アンデッドだから死んでるのか?

 まあ、どっちでもいい。



「……お前は天才か!」


 俺がしたいのは世界征服であって、滅ぼしたいわけじゃない。

 この世界を冥土に作り変えるつもりはサラサラないので、滅ぼしてしまうのはマズイ。


「よし、12魔将を使った侵略戦争は、ここまでにしよう。

 いらないアンデッドどもは、まとめて処分するぞ!」



 と言うわけで、これからは戦いのやり方を変更だ。


 そのために、まずはアンデッドの一斉在庫処分だ。


 もちろん、処分すると言っても、俺たちが全部燃やして処分するなんて手間をかける必要はない。


 アンデッドゴミの始末は、その道のプロに丸投げ……委ねてしまおう。

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