2-5 帝国の皇子は異世界召喚される

「起きろ、俺の下僕ども」


 俺が地面に投げ捨てた棒切れ。

 それは、どす黒く染まった魔族の骨だ。


 より正確には、かつて100以上の魔王たちが覇を競ってひしめいていた魔界で、魔王と呼ばれる者達がいた。

 その魔王たちの骨だ。


 かつての魔王たちの末路は、親父に降伏して命を長らえるか、魔界を逃げ出して人界へ逃避するか、あるいは殺されるかのどれかだった。

 殺された魔王の中には、その後墓が作られて埋葬されたものもいる。

 だが、後年俺が墓を暴いて、そいつらを便利なアンデッドに作り替えた。


 子供の頃の、ちょっとしたお茶目だな。




 そんなアンデッドと化した魔王たちが、俺の命令を受けて、ガタガタと動き始める。

 12個の髑髏しゃれこうべが空中へ浮かび上がり、窪んだ眼孔に暗く赤い光がともる。


 それに合わせて、体を構成する骨が正しい位置へと収まっていき、やがて12体のアンデッドの魔王が、俺の周囲で跪く。


 かつては王を称していた魔族たちも、今では俺の下僕に過ぎない。

 そんな『12魔将』を睥睨し、主人である俺は命ずる。


「12魔将に命ずる。魔力を解放しろ」


 命令の内容はこれだけ。

 だが、これだけでいいのだ。



 俺の下僕どもは、元は魔王だ。

 アンデッドと化した今でも、その身に宿る魔力は絶大で、生者を死へと引きずり込む、死の魔力に満ち溢れている。

 そんな連中が12体も揃って魔力を解放すれば、その力に触れたすべての生物が、生気を尽く奪い尽くされて死に絶える。


 そこに人間も野生の動物も、魔族ですら関係ない。


 だが、濃密な死の魔力は、死者が安寧を迎えることを許さない。


 死の魔力は、死んだ肉体と魂を犯し、問答無用でアンデッドへと作り変える。



「グガアアーッ」

「キャアアアーッ」


 王女は死んで、動く腐肉ゾンビになり果てた。

 彼女を守護するはずの騎士たちも、ゾンビになるか、スケルトンになり果てる。

 はたまた着ていた鎧に魂が縛り付けられ、動く騎士鎧リビングアーマーと呼ばれるアンデッドへ姿を変える。


 魔将たちの力はこの部屋だけでなく、神殿の全てを犯し、さらにその外へと放出されていく。



 あとで知ったことだが、神殿はこの国の王都の中にあり、そこは10万の民が住んでいた。


 だが10万の民は、12魔将が放つ死の魔力に都市ごと捕らわれて、動く死体アンデッドへ作り替えられた。


 一瞬で、10万の生者の住む都市が、死者の住まう廃都となり果てる。



 魔将の力に抗える者がいるとすれば、それは俺やイクスのような、超常のレベルにある者くらい。

 まあ、流石に俺らレベルは話を盛りすぎか。

 人間でも勇者や聖女みたいな、強い部類に入る者であれば、死ぬことはないだろう。



 だが、これで俺の軍隊を用意することができた。


「イクス、神殿の外に出て、この都市にどれだけの人口がいるか確認するぞ。

 即席アンデッド軍団の確認だ」


 本国から連れてきた軍隊ではないが、間に合わせの軍隊でも戦力の確認は必要だ。

 これからちょっと、この世界を征服してみようと思うからな。



「ウガーッ」


 だが、イクスが俺に応えるよりも早く、金髪ドリルヘアーのアンデッドが、俺に叫んできた。


 濃密な死の魔力を浴びたせいで肉体は腐っているが、まだ死にたてなので、例のドリルヘアーがきれいに残っていた。


 俺に襲い掛かってくるわけではないが、こいつを見ていると、相変わらず腹が立つ。

 生きていても死んでいても、こいつと俺は相いれない関係にあるらしい。



「やかましい!」


 と言うわけで、頭を小突いて黙らせた。


 小突いた拍子に頭が吹き飛んで、首から上がきれいさっぱり消滅したので、唸り声を上げることがなくなった。


 ただし、頭がなくなって、体だけになってもまだ動く。



「アンデッドって、きもいな」


「兄さんがやったことでしょう」


 俺のやったことを、イクスは非難しないが、流石に呆れられてしまった。





 この後、神殿の外に出た俺たちは、王城へ向かった。


 途中、近衛騎士団長とかいう男がアンデッド化せず、生身の状態で生きているのに遭遇した。

 しかも、俺たちを見た途端、いきなり剣を抜いてきやがった。


 どうやら勇者レベルの実力者らしい。

 あるいは勇者未満でも、12魔将の魔力に耐えられたようだ。



「邪悪なるアンデッドを従える者達よ。貴様らは、魔族の先兵であるな!」


 そう言い、切りかかってくる近衛騎士団長。


 そういや12魔将を従えたままだったので、いきなり剣を抜かれても仕方ないか。


 ま、だから何だというわけで、俺は王宮へ行くの邪魔になる、近衛騎士団長を一刀のもとに切り捨てた。


 ちなみに使った剣は、ここまで同道させているアンデッド化した騎士が、腰に吊るしている剣を拝借した。


「ゴハッ!」


 強いと言っても、ただの人間相手。

 一合も交える必要なく、余裕で始末できた。


「12魔将」


 ただ、人間的には実力者だろうから、死体をそのままにするのももったいない。

 俺の命令を受けて、12魔将の1体が、近衛騎士団長の死体を念入りにアンデッドとして作り替えていく。


 この都市にいるアンデッドたちは、12魔将が魔力を放出して作っただけの、お手軽アンデッドにすぎない。

 だが、この近衛騎士団長はそれより上位のアンデッドになるだろう。




 そんな近衛騎士団長も新たな手下に加え、俺たちは王宮の玉座の間にたどり着いた。


 玉座には、国王と王妃がいた。

 スケルトンになっているので、性別が分からないが、2体とも王冠をかぶっているので、王と王妃で間違いないはずだ。


「あと、これがこいつの姉で、こっちは兄か弟っぽいな」


 金髪ドリルヘアー王女の姉を断定できたのは、王女が自分のことを第二王女だと名乗っていたから。

 そしてゾンビ化した姉だが、こいつも妹と同じで、金髪ドリルヘアーだけはきちんと頭に残っていた。

 こんな髪形をしている姉とか、生きているうちに遭遇しなくてよかった。


 この姉妹と俺は、絶対相性が最悪だ。


 あと、兄だか弟だかのアンデッドも、やたらカールした髪をしている。

 女に生まれていたら、こいつも間違いなくドリルを装備していたに違いない。



「これからは、家族仲良く暮らして行けよ」


 生前はどんな家族関係だったか知らないが、アンデッド化した王家の面々を見ながら、俺はここまで連れてきた胴体だけになったドリルヘアー王女に言っておいた。


 いや、姉と混同してしまうので、ドリルヘアー2号とこれからは呼ぼう。


 もっとも、俺に命令されても、2号は既に頭が吹き飛んでなくなってしまったので、ウーとも、アーとも返事ができないけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る