2-4 帝国の皇子は異世界召喚される
も、いいや。
我慢はお終いだ。
「さっきから平民平民と連呼しているが、お前の方こそ無礼だぞ。
たかが、ド三流国の王族風情が」
俺は普段自分の魔力を抑え込んでいるが、それをわずかに体の外へ放出する。
攻撃ではない。
ただし、それだけで空気が激変する。
まるで空気が鉛の塊に変わったかのように質量を増し、王女と護衛のためにいた騎士たちが、一斉に地面に跪く。
「ウグッ、これは一体!?」
「か、体が地面に縫い付けられる」
「ど、どうしてだ、体が震えている。な、なんでこんなに恐ろしいんだ」
俺にとってはわずかな魔力でも、ただの人間には、あまりにも危険な劇物になる。
騎士たちは地面にひれ伏したまま、ガタガタと震えて恐れおののく。
まして王宮の中でぬくぬくと育てられ、戦いの場に出たことがないだろうドリルヘアー王女は、床に這いつくばった姿勢のまま、スカートに黄色いシミを作っていた。
よかった。俺とイクスがこんな醜態を晒さずに済んで。
場違いながら、王女の醜態を見て、そんなことを一瞬思ってしまった。
ゴホン、それはどうでもいい。
ただし、帰ったらあの秘書はクビだ!
さて、俺という存在は、 (魔)神と化した男と、大天使から堕天した女との間から生まれた存在だ。
種族としては、半神(デミゴット)とハーフエンジェルになる。
そんな存在から放たれる力を前にすれば、ただの人間は大地にひれ伏し、恐れ戦くことしかできなくなる。
「さて、王女。お前に教えておくことがある」
俺の魔力に当てられている王女は既に失禁済みだが、このまま恐怖で気絶しないよう、放出する力を抑え込む。
力が和らいだと分かると、王女は明らかにホッとした顔をする。
ただし、額からは冷や汗が流れ、顔色はよくない。
「俺は自分の名を名乗ったが、エクシード・ノヴァ・リベリオというだけでは、異世界人であるお前たちには理解できないだろう。だから教えてやる。
俺は魔界、人界、天界、地球の4つの世界を支配する、統一リベリオ帝国の第一帝位継承者であり、次代の皇帝となるべき男である。
つまりは、帝国の皇太子だ」
「こ、皇太子ですって!」
今まで平民と連呼していた王女の顔が、瞬く間に蒼白になる。
俺の身分が皇太子だと分かり、平民だと蔑むことができなくなる。
身分が存在している社会において、平民と地位ある身分とでは、その扱いが全くの別物になるからだ。
「お前は勇者召喚という大層な御託を口にしたが、それは単に異世界から適当な人間を拉致するための魔法でしかない。
そして、お前の国はエベンとか言ったな。
一つ聞くが、この国では知らなかったとはいえ、自国の第一王位継承者が他国に誘拐されれば、それを犯罪として扱わないか?
それも誘拐を実行した国に、軍隊を送り込んでも問題にならないほどの重大な罪だ」
「そ、それは、その通り……よ」
王女は認めた。
勇者召喚という美名を口にしても、異世界から無関係の人間を連れてくるのは、ただの誘拐・拉致でしかない。
そして、皇帝や王が君臨する専制国家において、最高位者の跡継ぎの誘拐は、国家間の戦争にしかつながらない、ごくごく当たり前のルールだ。
そう、これは俺の国にとっても、王女の国にとっても、何ら変わることのない、当たり前のルールだ。
「ついでに俺は、父帝陛下より、副帝の位を授けられている。
これは我が国独自の制度であるが、内容は父帝陛下の政治・軍事の大権を代行して行使することが可能な役職となっている。
簡単に言えば、宰相に似た役職だ。
そして俺が一声かければ、正式に帝国軍を侵略に使うことが可能となる」
皇太子の位は、次の皇帝としての権威はあるが、軍や政治を直接動かす実権は与えられていない。
なので、皇太子が軍隊に対して侵略戦争をしろと言っても、軍隊がその命令を聞くことはない。
ただし、俺の持つ副帝という地位は、皇帝である親父が否と言わない限り、軍と政治を自由に差配することが可能な実権を持っている。
なのて、俺が一声かければ、帝国軍を即座に動員可能だ。
「し、侵略ですって……」
俺の言葉を聞いて、明らかに動揺する王女。
自分が、相当マズい相手を召喚してしまったと気づいたようだ。
だが、ドリルヘアーのクルクル頭とはいえ、王族としての頭の回転は悪くはないらしい。
「でも、あなたがいくら皇太子で、権力のある人間と言っても、ここはあなたの国とは別の世界。
どうやって、別世界に軍隊を送り込むことができるのかしら?」
俺が魔力による威圧を弱めたこともあって、少し余裕を取り戻す王女。
ニヤリと笑ってみせるが、それに対して、俺は獰猛に笑い返してやる。
「簡単なことだ。軍隊など、すぐに用意することができる」
俺は腕を振るって、次元魔法・ストレージを発動させる。
ただ、いつもであれば瞬時に発動する魔法の構築が妨げられる。
バリバリと音が鳴り、俺の手を電流が駆け巡り、黒焦げに焼けていく。
「散々脅しをかけてきたけど、あなたただのバカね。
この神殿はね、世界を想像された女神様のお力によって、あらゆる魔法を使うことができなくなる、聖なる結界で守護されているの。
だから、この場で魔法を使うことなど不可能。
騎士たちよ、この不届きな男を拘束なさい」
自分に有利と見るや、王女は威勢のいい声で騎士たちに命令を出した。
だが、バカはお前だ。
「女神本体であればまだしも、たかが力の一部で、この俺を抑え込めると図に乗るな。人間どもが!」
強引に手に魔力を流し込み、魔法を打ち消そうとする女神の力を、力尽くで突破する。
そうして、わずかに開いた次元の裂け目から、ストレージに収めた剣を抜き出す。
過剰に魔力を流したせいで、手がズタボロになったが、こんなもの放っておけばそのうち治る。
「バカな、女神様のお力があるはずなのに!」
俺が次元魔法を使えたことに、王女が驚く。
だが、こんなのは余興の始まりでしかない。
俺は鞘に収まった剣を抜き放つ。
すると、黒い刀身が姿を現す。
その瞬間、この場にいた騎士の半数以上が、崩れ落ちて動かなくなる。
「……」
王女も首を抑え、口をパクパクと動かして、泡を吹きかける。
ただ、剣を抜いただけだ。
ただしこの剣は、
神を何柱も始末している剣なので、そこから放たれる神威だけで、人間は死に至る。
とはいえ、ここで王女が死なれては困る。
この女には、もうしばし絶望しながら、死んでもらいたいのだから。
俺は剣を軽く一振りした。
キンと硬質な音がすると同時に、女神の力で覆われていた結界が、跡形なく崩れ去る。
これで、魔法を普通に行使することが可能になった。
再び次元魔法・ストレージを用い、結界を破壊する役目を終えた神剣を放り込む。
かわりに別の物を取り出して、それを周囲の床にぶちまけた。
カラカラ、ガラガラと音を立てながら、黒い棒きれが何十、何百と辺りを転がる。
なお、これら一連の行動をしている間、イクスは頭を抱えていた。
ただし、アチャーって感じの顔をしていて、これから俺がすることに文句を言う気はないようだ。
弟が、今更文句を言ってきても聞く気はないが、反抗しないならその方がいい。
では、準備が整ったので、始めるとしよう。
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