2-3 帝国の皇子は異世界召喚される
そんなこんながあったが、俺とイクス、そして王女一行は場所を移し、神殿にある部屋のひとつへ通された
相変わらず王女の周りには騎士たちが控えているが、それは気にしないでおこう。
「改めて名乗らせていただきましょう。
私はアイゼリーナ・ブラウデッヘ・エベン。栄えあるエベン王国の第2王女よ」
王女はブオンと音を立て、金髪ドリルヘアーを靡かせながら自己紹介する。
「……エクシード・ノヴァ・リベリオ」
ここまでの評価で、俺は王女に対しての評価が0を下回って、マイナスになっている。
それでも不愛想に、名前だけは名乗ってやる。
「イクシオン・ノヴァ・リベリオです」
それに対して、弟とはなんと礼儀正しいことだろう。
「イクス、こいつに敬語なんて使うな」
「誰がこいつですの!私のことは、王女殿下とお呼びなさい!」
ムキーと、ハンカチを噛んで荒ぶる王女。
猿山のサルか、こいつは?
てことは、周りに従えている騎士たちは、きっと王女の手下のサルなのだろう。
「兄さん、頼むから挑発しないで、これ以上話が進まないと困るから」
「お前、人間ができすぎだぞ」
「ハイハイ」
イクスは俺に、雑に返事する。
ま、いいか。
弟がやる気になっているようだし、あとのことは任せて、俺は傍観させてもらう。
「よかった、兄さんがやっと黙ってくれた」
俺が傍観に徹するとみて、ほっと胸をなでおろすイクス。
イクスは改めて、王女へと向き直った。
「僕たちがここにいる理由ですが、王女様は、異世界召喚魔法を使用されましたよね?
それは僕たち兄弟を、呼び出すため?」
「あら、私たちが異世界召喚魔法を使ったことに、気づいていたのですか?
正確には、異世界から勇者様を召喚する儀式魔法です。
……ですが、おかしいですわね。私たちの伝承では、300年前にニホンという国から呼び出した勇者様の世界には、魔法は存在していないとの話でしたが?」
この世界、実は300年前に勇者召喚していました。
……なんて、テンプレな展開だろう。
この後の
「300年前の奴は知らないが、もしかして『私たち魔王に困っているので、勇者様が倒してきてください』なんて、言うんじゃないだろうな?」
傍観しているつもりだったが、あまりのお約束に、つい尋ねてしまう。
「あら、そこまで理解しているとは、話が早くて助かりますわ、黒犬」
「アアンッ!?」
まさかの
しかし、そんな事よりこの王女、俺のことを今度は黒犬と呼びやがった。
「兄さん、堪えてー!」
「……」
イクスにまたしても、全力で掴みかかられてしまう。
「チッ、あとで覚えてやがれ」
弟の顔を立てて、俺は王女に聞こえない小声で呟く。
ただし、イクスの耳にはちゃんと聞こえていて、顔がわずかに青くなっていた。
俺が暴れだすと大変と思ったのか、イクスは苦い顔になってしまう。
「王女様、お願いですから、それ以上兄さんを挑発しないでください。
というか、2人とも頼むから喧嘩しないでよ!」
「「……」」
イクスは健気だな。
ただし、俺と王女は相性が最悪だ。
互いにメンチを切って、睨み合う。
ここで視線を先に外した方が負けだ。
「フフフッ、察するにお2人はご兄弟のようですが、躾のなっていない黒犬には、随分と勿体ない弟ですわね。
それとも、実はそっちの少年が兄で、図体がでかいだけのあなたが、弟なのかしら?
クスクス、少なくともお頭の出来は、確実にそちらの少年の方が上ね」
「ア、アワワワッ」
またしても、女王が俺を挑発する。
それを見ているイクスは、さらに顔を真っ青にして慌てる。
「好きに言わせておけば、このドリル頭のクルクル女が。
おめでたいのは髪形だけでなく、頭の中身も同じだな」
「何ですって!
異世界から召喚した勇者とはいえ、たかが平民の分際で、王女たる私になんて口をきくの!
ここは躾が必要ね。
300年前の勇者は、ヒールの先でケツを蹴り上げて、『ポチ、魔王を倒してきなさい』と調教しただけで、喜びながら魔王討伐に行ったそうですしね」
ニタリと笑って、王女が酷薄に笑う。
しかし、今の話を聞いて、俺は一瞬怒りを忘れて唖然とした。
300年前にニホンからきた勇者、ただのドMじゃねえか!
自分の趣味のために、魔王を倒しに行くとか……いや、うちの親父も勇者認定された過去があったな。
親父も、自分の欲望に忠実に従った結果、至高の胸と言いながら、世界征服×4を成し遂げている。
やっていることは勇者でなく、完全に悪の大魔王だが。
「……イクス、勇者に選ばれる奴って、どうして変態ばかりなんだ?」
「兄さん、僕たちも一応、勇者を呼び出す召喚魔法でここに来てるよ」
「ゲェッ」
俺とイクスが、親父やドM勇者と、同レベル扱いされているのか!?
だが、待て。
「俺は、勇者召喚にたまたま巻き込まれただけだ。
イクスに巻き込まれただけだから、俺は勇者じゃない。だからセーフだ」
「召喚魔法に気づいてたのに、それを無視したの兄さんでしょう。僕は召喚を止めようと……」
「あーあー、何も聞こえねぇー」
俺は耳を塞ぐ。
自分にとって都合の悪いことなんて、聞きたくねぇ。
大体あの時は、異世界召喚されなきゃ、女秘書のせいで自爆させられていた。
悪いのは、あの女秘書だ。
帰ったら絶対クビにして、別の秘書を用意しないといけない。
「ちょっとあなたたち、いつまで私を置いてけぼりにするの!
こうなったら300年前の聖女様が、勇者を調教するのに使ったという、伝説のヒールの一撃で……キャアッ!」
もう、何も突っ込まんぞ。
件のヒールを履いた足で、俺を蹴り上げてこようとした王女だが、俺は女に蹴られて喜ぶ趣味などない。
一歩後退すれば、大きく振り上げた王女の脚が空を切り、バランスを崩して派手にズッコケた。
なお、足を振り上げた際、スカートの中は、レース付きの黒装束を装備していたとだけ報告しておく。
「イ、イタタ。この無礼者。
私の蹴りを避けるとは、平民風情が生意気な!」
床に転がった王女が、上目遣いで俺を睨んでくる。
はあ、しかしなんだ。このバカ女に付き合うのも、いい加減疲れた。
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