2-2 帝国の皇子は異世界召喚される

「姫様、一体何ごとですか」

「異世界から召喚された勇者様はいずこに?」

「皆、ここに姫様がいたぞ。集え集えー」


 トンズラしようとしていたら、騎士たちがあっという間に集まってきた。



 ヒー、フー、ミー。

 ざっと数えた感じ、50人はいるだろうか。


 そして、転移で逃げようと思っていたが、肩に乗せていた手を、イクスに叩き落とされてしまう。

 弟1人を、この場に残して逃げるつもりは流石にないので、トンズラ転移は中止だ。



 しかし騎士たちが集まってくる中、どうすればいいものか。

 どうせイクスは、真面目ちゃんぶりを発揮するだろうし。


 そんな中、真っ先に立ち直ったのは、さっきまで地べたに座り込んで、メソメソと泣いていた女だ。


 たった今までやらかしていた醜態はどこへやら、颯爽と立ち上がると、金髪ドリルヘアーの髪をブオンッと鳴らしながら、俺たちを指さしてきた。


「私は、アイゼリーナ・ブラウデッヘ・エベン。

 栄えあるエベン王国の第2王女よ。

 異世界から召喚した勇者たちよ、顔がいいから、2人とも私の夫にしてあげるわ。光栄に思いなさい」


 この女、頭おかしい。

 よし、1発ぶちかまそう。


 清々しいまでに、頭がイカレテいる。


 ほぼ条件反射で、拳で殴る俺。

 顔面はまずいので、最初の一撃は腹パンにしておく。

 2発目からは、知らん。


 だが、普段は鈍いのに、こんな時だけ無駄に素早い反射神経を発揮して、殴りかかろうとした俺の腕を、イクスが掴んできた。


「あっ」


 標的がズレてしまい、拳が空ぶってしまう。


 ただ、イクスの力では、俺の拳の威力を完全に受けきることができない。

 空ぶった拳が空を切り、その先から高速で飛び出した衝撃波エネルギーが飛んで行く。


 ドガーン。


 なんて音がして、近くの地面が砕け散り、ミニ・クレーターができた。



「兄さん、頼むから穏便に、大人しくして。お願いだから、殺しはなしで!」


「ちゃんと加減して、腹パンにするつもりだったぞ。1発目から顔面はしないからな」


 失敬な。

 ちゃんと理性的に殴ろうとしたのに、イクスは俺のことをなんだと思っているんだ。


「今の一撃だったら、顔面も腹も意味ないって!」


 んー、確かにそう言われてみれば、普通の人間だったら、今の一撃で即死か。


 でも、頭のおめでたいこの女なら、別にいいんじゃないか?



 そんなことを俺が思っている一方で、突然地面が吹き飛んだことに、ポカンとしている自称王女と騎士たち。


「い、今の一撃は一体!?」

「ま、魔法なのか?」

「だが、魔力反応を全く感じなかったぞ」


 一応、俺が原因で穴ができたことは、認識している騎士たち。


 とはいえ、今の一撃が見えてなかったようだ。

 単に、高速で拳を突き出しただけの一撃なのに。



 しかし、これでは全然話が進まないな。


「皆さん、とりあえず冷静に、落ち着いてください。

 僕は、イクシオン・ノヴァ・リベリオと申します。こちらは兄のエクシード・ノヴァ・リベリオです。

 一度、話し合いをしましょう」


 混乱している一同の前で、イクスが名乗りを上げた。

 しかも、この場にいる連中の中で、イクスはどう見ても一番年下のショタ少年。


 周りにいる年長者たちは、ショタ少年に嗜められたことに、さすがに気まずくなったようだ。

 騎士たちは互いに顔を見合わせ、王女と名乗った女も態度を改める。


「……そ、そうですわね。

 ですが、ここではなんです。私についてきなさい、駄犬たち」


 そう言って踵を返し、ドリルヘアーを風に靡かせながら、颯爽と歩き始める王女。

 その背後に、騎士たちを従えていく。


「「……」」


 ただ、今言った駄犬って、騎士たちのことだよな?

 あの女に言われるまま、ついて行きたくねぇー。


 歩いていた王女は、途中で俺とイクスが立ち止まっていることに気づいたようで、ドリルヘアーを靡かせて、振り向いた。


「ほら、ぼさっとしてないでついてきなさい、駄犬ども」


「やっぱあの女、コロス!」



 騎士たちに言うのならば構わん。

 だが、俺たちのことを駄犬呼びするとか、この女マジで頭がぶっ飛んでやがる。


「兄さんダメだよー!」


 俺が拳を握り締めて、王女をぶん殴ろうとするが、イクスが全力で止めに掛かってきた。


「離せ、イクス。あの女には、教育的指導が必要だ!」


「兄さんの指導は、確実に殺しになるよー!」


 そうだよ、『バカは殺せば治る』って格言があるから、とどめを刺せばまともになる。

 いや、バカは死んでも治らないのか?


 あの女が二度と動かなくなりゃ、どっちでもいいな。



「兄さーん!」


 その後もイクスに必死に止められてしまい、結局俺は王女を殴ることができなかった。

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