1-1 統一帝国の皇子たち

 俺こと、エクシード・ノヴァ・リベリオは、黒髪黒目の18歳だ。

 身長は190近くあり、顔立ちはかなりいい方だと自負している。


 現に、俺は今まで女に困ったことがない。

 向こうからキャーキャー言われてすり寄ってこられた挙句、手を付けたわけでもないのに「責任取って私と結婚しなさいよ!」と、勝手に叫ばれたこと数知れず。


 顔がどうこうより、どいつもこいつも俺の地位目掛けて、まっしぐらに突っ込んでくる。

 夜に誘蛾灯に直進してくる、蛾のような女ばかりだ。


 そういう意味では、激しく女に困っている。




 そんな俺の地位は、魔界と人界と天界と地球の4つの世界を支配する、始祖帝アルス・ノヴァ・リベリオの第一子にして、統一リベリオ帝国の皇帝位第一継承者である皇太子だ。


 つまりは未来の皇帝陛下。

 俺の正妻になれば、未来の后妃の地位が約束される。

 だから、女どもがうるさい。



 もっとも、親父のことは始祖帝と呼ばれているが、単に好き放題やりまくって、4つの世界で暴れまわった結果、全ての世界で勝利して、世界征服×4を達成した偉大なアホ。


 何も考えずに殺戮衝動に駆られ、見るもの全てに襲い掛かっていたら、いつの間にか始祖帝と呼ばれていただけだ。


 4つの世界を征服している上に、征服の途上で神殺しまでやらかしている。

 結果、種族が(魔)神にまで進化している。


 おかげで膨大な魔力と、神としての格を持つため、不老の存在と化している。



 そんな親父は、普通の人間であれば死んでしまう蛮行に、過去何度も遭遇している。


 神殺しの神剣で首を切り飛ばしたのに、すぐに生き返りやがったし、太陽に突き落としたこともあるが、それでもケロッとしていた。

 もちろん、それらの蛮行の実行犯は俺だ。


 この手で直接やって確認したが、その程度の攻撃で、親父が死ぬことはない。


「次は重力で何とかするか?

 といっても、生半可な重力魔法では無力化されるな。

 あるいは次元魔法で体を粉微塵に吹き飛ばして、三千世界の全てに、粉になった体を吹き飛ばせば、あるいは……」


 親父に恨みがあって、殺したいわけではない。

 今すぐ帝位を奪い取りたいわけでもない。


 ただ息子として、あの親父を一度はギャフンと言わせたいだけだ。

 ギャフンの結果、親父が死ぬかもしれないが、あの親父のことだ、息子に殺されても恨むことはないだろう。


 むしろ皇帝としての仕事から解放されて、「息子よ、ありがとう。最高の親孝行だ」と、感謝の賛辞を、あの世から送ってくるに違いない。



 そんな親父も、今では御年300近く。


 不老で、ほぼ不死の存在のくせして、すっかりヨボヨボの老人と化していた。


「親父は不老なんだろう。なんで老けてるんだ?」


「俺は不老になんて興味ない。

 そんなものより、至高の胸を枕にして死を迎えること、それこそが漢としての本望だ!」


 最低にくだらない理由で、親父は不老でいられるのに、老化を受け入れていた。


 このままだと、いつの日か本当にポックリ逝くだろう。

 ただしあの親父のことだ、まだ50年はピンピンしているな。



 この前、力試しに勝負を挑んだら、玉座に座ったまま、指先から核撃魔法を5連発ぶっ放してきやがった。

 俺との勝負を面倒くさそうに片手であしらっていたが、余波で自宅であるを半壊させていた。


 これでは50年どころか、100年は生きるな。



 そんな、親父だが。


「ハニー」


「あーん、ダーリンのエッチ。そこは私の胸よー」


「グヘヘヘーッ」


 体は老け込んでいるが、元女大天使で今や堕天してしまった母上とは、大変仲良くやっている。


 母上は美人だ。

 老けて行く親父と違って、若々しい姿を保っている。


 母上を前にすれば、世に数多くいる女どもは、全てスッポン。

 天空に浮かぶ月の前では、地上の泥の中で生きている、醜い汚物に過ぎない。


 ただし、母上に年齢を尋ねてはいけない。


 元大天使の母上も不老で、俺や父上とは、比べ物にならない年月を生きてきている。

 実年齢に関しては、息子の俺でも、尋ねれば死を覚悟しなければならない。



「ボインボイン」


「もう、ダーリンのテクニシャンー」


 しかし2人の仲がいいのは結構だが、バカ夫婦の痴情を、息子の前で見せつけるのはやめて欲しい。



「う、うわああっ!」


 そんなバカ夫婦の姿を目撃して、慌てて両手で目を隠している、白銀の髪をしたショタ少年がいる。


 少女と見間違えるような華奢な体付きに、女顔。

 そして七分丈のズボンをはいている。


 今はいているズボンがスカートに代わっても、何の違和感もない。

 容姿が中性的過ぎて、どっちでもやっていける。


 俺の弟のイクシオン。愛称はイクスだ。



「おいイクス。お前、指の隙間から、あの痴情をしっかり見てるだろ」


「あ、あわわっ」


 俺に指摘されて、慌てて指の隙間を小さくするイクス。

 ただし小さくなっただけで、その向こう見えるアホ夫婦をちゃんと見たままだ。


「頼むから、お前は将来あんなアホ夫婦になるなよ」


「兄さん、父さんと母さんは、アホじゃないよ」


「じゃ、バカだ」


「そ、それも違うってばー!」


 俺としては、あの夫婦がアホでもバカでも、どっちでもいい。

 というか両方だな。


 イクスが俺の体をポカポカ叩いてきたが、全然痛くないので気にならない。


 スカッ。


 ただ、いつまでも叩かれ続けるのもあれなので、軽くステップを踏んで、ポカポカ攻撃を避けた。



「あれっ!?」


 俺がいなくなったことに気づくのが遅れて、拳を突き出したまま、床に向かってぶっ倒れるイクス。



 ズガガガガーン。


 イクスの拳が床に命中して、変な音がした。


 玉座の間の床に、蜘蛛の巣状のヒビが入ったが、こんなことはよくあることだ。


「ヒ、ヒドイよ、兄さん。いきなりいなくなるなんて」


「バーカ、お前が鈍いからいけないんだ」


「ふえっ」


 女じゃないのに、涙目になって、俺を上目遣いで見てくるイクス。

 どう見ても、少女に上目遣いで睨まれているようにしか見えないのだから、こいつの性別は本当にオスか?


 いや、物はちゃんとついてるんだけどさ。



「ああっ、またしても不懐物質でできている、玉座の間の床が砕け散っている」


 なお、俺たちの行動を見ていた近衛兵Aが、そんなことを呟いた。


 魔王城は基本的にすべての壁と床、天井が、不懐物質とやらで作られている。

 ただ、名前に反してひどく脆い物質で、俺たち家族がちょっとテンション高くしていると、すぐにメシメシバリバリと、音を立てて壊れてしまう。


 力のない母上やイクスが鼻歌交じりにスキップするだけで、床が砕けるからな。



「イヤー、私たちメイドチームの仕事がまた増えたー。

 メイドなのに、なんで私たちが魔王城の修復工事までしないといけないのよー!」


 魔王城勤務のメイドたちの魂の絶叫が、時空間を引き裂いて飛んできた。


 が、俺にとってはどうでもいいことなので、スルーだ。



 てなわけで、この日はこんな感じで魔王城の玉座の間で、和気あいあいと家族団欒をした。


 なお、親父が始祖帝とか呼ばれているものの、実際には世界征服×4を成し遂げた魔王なので、住んでいる居城が魔王城と呼ばれることが多い。


 親父自体も、世界征服を成し遂げた偉大な始祖帝様でなく、魔王様扱いされていることの方が多い。

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