プロローグ2 異世界転生した親父は、やりたいことして生きる

 親父は大変な変わり者。


 異世界転生した先の世界は中世風ファンタジーで、いわゆるナーロッパだった。


 そこでは15歳になると、勇者にしか抜けない聖剣を抜く儀式が毎年行われるのだが、親父は駄女神チートのおかげで、聖剣を見事引っこ抜いてしまった。


「勇者様、どうか邪悪な魔王を打倒して……」


「俺は勇者になんてならねぇー!」



 超テンプレ展開で、聖剣を抜いた勇者は、そのまま問答無用で魔王討伐のお決まりコースが決まっていた。

 しかし、国の王女様に懇願されるのもお構いなしで、抜いてしまった聖剣を放り捨てて、その場からトンズラこく親父。


「こらまてやー。勇者を逃がすな!者どもであえ、であえー!」


 テンプレを無視するものだから、儀式の場に同席していた王様が、どこぞの悪代官みたいに叫ぶ。


 親父は、瞬く間に騎士に取り囲まれてしまった。


「チッ、こうなった以上こっちも手段は選ばねえ。俺の前に立ち塞がるってんなら、無事に生きてられると思うなよ!」


 悪代官風国王とそれに従う騎士たちを前に、親父は啖呵を切ると、一度は放り投げた聖剣を拾い上げて対峙した。

 てか、親父のセリフも完全に悪役だ。


 この後、切った張ったの戦いが展開され、辺りはまるで水戸の副将軍様ご一行が、殺陣タテを披露する時代劇の如き有様に。

 ただし、作り物の時代劇と違って、その場に飛び散るのは血飛沫。

 そして騎士たちの、切り飛ばされた頭や腕。


「ギャー、俺の腕がー」


「ああ、ごめんよ。父さんはもう一度だけ、子供たちに会いたかった。ゴフッ」


「た、たすけ……グハッ!」


 親父は情け容赦なく騎士たちを殺して回り、床に這いつくばって動けなくなっている騎士にも、平然ととどめを刺す有様。

 チートの強さを散々見せつけた挙句、その場から見事逃げおおせてしまった。



「キャー、お父様死なないでー」


「む、娘よ。こんなところで死んでしまう父を許しておくれ」


 ついでに、騎士たちの親玉である悪代官風国王まで、始末する念の入れよう。

 国王は、この後崩御してしまう。



 一方、儀式から逃げた親父は、国中を賞金付きの指名手配されてしまい、国外へ逃げ出さなければならなくなった。


 というか、周辺の国にまで指名手配が及んで、逃げ場がなくなったため、人間の住む人界とは別の世界にある、魔界へ逃げた。



 魔界へ逃げるまでの間も、幾度も賞金目当ての冒険者たちに襲われ、その度に返り討ちという名の、虐殺をした親父。

 気が付けば、手にした聖剣は人血で赤黒く染まり、抜いた時にあった神々しさなんて、欠片もなくなっていた。

 もはや魔剣と呼ぶべき、禍々しい代物へ堕ちてしまっている。


「はあっ、これからどうすっかなー。ま、適当に働いて食ってくかー」



 しかし、魔界にまで逃げた親父は無駄にポジティブを発揮する。

 その後は魔界にある商店で用心棒をしたり、旅の商人の護衛を引き受けたりと、人界で散々やらかしたくせに、割とまともな方法で働いて生活した。



 ただ、魔族が住んでいる魔界と一口で言うものの、魔界は人界以上に複雑な世界だった。


 魔界には、魔王を自称する王たちが100以上いて、それぞれが勢力を率いて、日々争いに明け暮れていた。

 人界だって複数の国が存在して、それぞれの争いがあるが、魔界の争いは人界以上に苛烈。

 魔王軍と魔王軍が戦い、毎日戦争して「ヒャッハー」している、修羅の世界だ。


 そして、ここでの戦いに敗北した者の中には、這う這うの体で人界へ逃げ出すものもいる。


 ただし、逃げ出した連中は、自称魔王と配下の軍勢だ。

 魔界でヒャッハーしていたのに比べれば、人界の戦いは温く見えるようで、このまま人界を征服してやると叫びながら、元負け組とは思えない勢いで、人界征服にいそしむようになってしまった。


 それが、人界にいる魔王軍の正体だった。

 奴らは魔界でやっていけなかった敗者の集団だが、それでも人間相手には無双とまではいかないまでも、圧倒できる強さを持つ軍団だった。




 ただ、そんなことは親父にとってはどうでもいい。


 日々戦いが繰り広げられる修羅の世界魔界だが、案外親父には空気が合っていた。


 鼻歌交じりに、魔王軍同士の戦いに参加しては、武功を上げて小銭を稼いですらいる。

 ちょっとした傭兵気分だ。

 魔界に来た直後は、もっとまともな働き方をしていたのに、魔界の空気になじみ過ぎて、どんどん修羅の国の住人と化している。


 そんな親父だが、ある時改心させられる出来事に遭遇する。



「ううっ、私の故郷が燃やされてしまった。うわああんっ」


 ある日、傭兵気取りで魔王軍の戦いに参加し、ノリと勢いで占領した街の略奪行に加わって、マジものの『ヒャッハー』をしていた親父。


 そんなとき、1人の泣き叫ぶ魔族の女性を見かけた。


「な、なんだと、あの胸の大きさは、まさに俺の理想とする大きさ。

 俺の手で包み込めそうでいながら、しかし決して掴みきることができない絶妙な大きさ。大きすぎず、しかし小さすぎもしない。

 まさに至高!」


 親父の琴線に触れる胸の大きさをした、魔族の女性に遭遇した。

 親父には拘りがあって、胸は大きすぎるのも小さすぎるのもダメで、やたらとサイズにうるさい。

 そんな親父が、人生で最も理想とするサイズの胸を発見した。


 そして親父は、決意した。


「俺は、あのオッパイが、悲しみの涙で濡れることがないようにしなければならない。

 そのために、あのオッパイの子が、笑って暮らせるようにしてあげないと」


 どこまでもオッパイしか考えてない親父。


 そして女性が笑って暮らせるようにするためには、争いのない平和な世界にしなければならない。

 そこからの親父は世界平和のために、魔界にいる自称魔王どもを全員ぶっ倒して、武力で魔界統一を成し遂げることを誓った。




 世界平和は結構なことだが、そのための手段が完全にアウトだ。


「てことで、死にさらせやー!」


 しかし、改心(?)した親父は、目的に対して一直線。


 傭兵として参加していた魔王軍の、魔王の首と胴体を切り飛ばしたのを始まりに、その後100以上いた、魔界の自称魔王たちを全て倒して、本当に魔界統一を成し遂げてしまう。



 その頃には、手にする聖剣が禍々しいを通り越した、危険物と化していた。

 自称とはいえ、膨大な力を持つ魔王たちの血を大量に浴び、染まり続けた剣は、完全に魔王の剣と成り果てていた。


 もちろん親父は、自分の武器がそんな代物になり果てていても、ちっとも気にしない。



 とはいえ、魔界統一を果たしたことで、魔界は無事平和になった。


「これで、あの子のオッパイが涙に濡れることもないんだ」


 そして親父は、

オッパイのことが、初めて出会った時から好きなんだ。俺と結婚してくれ」


 至高とするオッパイを持つ女性に、結婚を申し込んだ。


 まあ、結婚を申し込むにしても、ここまでの道中に、壁ドンを通り越して、床ドンまでしているし、散々口説いてきたので、結婚の申し込みなんて今更だ。


 だけど、

「ごめんなさい。私には幼馴染の許嫁がいるの。彼のことが大好きなの!」


 思い切り、振られてしまった。


 だが、この程度で親父は諦めない。


「許嫁がなんだ。そんな男のことなんて、俺が忘れさせてやる。だから、俺の元にこい。お前は、俺と共に魔界の支配者になる女なんだ!」


 そのまま女の腕を掴んで、無理やり押し倒す。

 魔界を統一した真の魔王たる者。

 まさに、帝王の告白だ。


 それに逆らえる女など……


「グヘッ!」


 押し倒した女性に股間を蹴り上げられて、親父はその場でもんどりうってしまった。

 女性とはいえ、か弱いわけではない。

 何しろ彼女もまた、魔界の住人の1人。


 毎日ヒャッハーしている魔界で、弱い女が生き残れるわけがない。



「私、昔からあんたの下心丸出しの目が嫌いだったの。金輪際、私に近づかないで!」


 今までオッパイガン見だったことが頭にきていたようで、完全に振られてしまった。

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