異世界に召喚されたので、世界を征服する

エディ

プロローグ1 異世界転生した親父は、やりたいことして生きる

 俺の親父は日本生まれの、平凡な技術者。

 ただ、大学卒業後はアメリカで就職し、サーバー関係のメンテナンスを中心に働いたそうだ。


 親父曰く、

「日本のペラペラの給料で働いていられるか、俺は海の向こうでビッグに稼ぐんだ」

 とかなんとか宣って、海の向こうへ旅立って、そのまま住み着いてしまった。



 そんな親父は、雷が鳴り響く悪天候の日に、とある企業のサーバーの保守点検をしていた。


 厳重に守られた建物の中までは、雷の音もしないが、外では雷鳴が轟き、まるでこの世の終わりのような天気だったそう。



 そんな天気の中、サーバーの保守点検をしていたら、運悪く雷が建物近くの電線に落下。

 過剰な電流が電線を伝って流れ、それがメンテナンス中のサーバーにまで流れ込んだ。

 作業中だった親父は、そこで感電死してしまった。




 死んでしまった親父だが、次に目覚めると、そこは神が住まう天界だった。


 天界には、十二単じゅうにひとえを着た女神様がいた。


 もう一回言っておく、十二単だ。



 その女神は名乗った。


「私は天照大神。あなたたちヤマト民族が崇める、日本の大御神です」

 と。



「引きこもりの大御神様ですか」


「ムキーッ、ひ、引きこもりじゃないもん!この前2068次引きこもりから脱して、今は人界の企業で、人間のふりして働いているんですからね」


 神秘さなんてゼロ。

 図星をさされて、プンプンと怒る女神。




 それはともかく、引きこもりの大御神様は、天界にいると知り合いの神たちがうるさすぎて、また引きこもりに戻ってしまいそう。

 なので、神がいない人界で、人間のふりして働いて、脱引きこもりを達成したとのこと。


 神様同士の関係は知らないが、神は神で、色々と人間関係……いや、神関係が複雑なようだ。



 そんな駄女神大神様は、現在は『なろう』って企業で、紅一点のアイドル社員をしているとのこと。


「はあ、神様も普通に働いているとか、世知辛い話ですね」


「そうなんですよ。それに最近アメリカであった雷が原因で、会社のデータを委託している企業のサーバーが壊滅して、そのせいで1週間ほぼ徹夜……」


 そのあと、ヨヨヨと泣きながら、愚痴を話し始める駄女神。

 ただの企業勤めの人間と変わりない愚痴で、ストレスが溜まりまくってる。

 それを親父は聞かされる羽目になった。



 ただ、気になる部分が多すぎる話だ。


「アメリカで雷?」


「そうそう、ゼウスとトールって神なんですけど、あの2柱が、アメリカにバカンスに行ってヒャッハーしているとかなんとか、ツイッターで呟いていて。

 ……クッ、引きこもりの私に、バカンスなんて羨ましくなんてない。

 ……羨ましくなんてないんだからねー!」


 駄女神様は、常時ダメダメオーラ全開だ。


「ゴ、ゴホン、今の話は忘れてください」


「は、はあっ」


 あまりの駄女神ぶりに、あきれ果てる親父。



 ただ、この話で察してしまうものがある。


「もしかして俺の死因って、ヒャッハーしていた神のせいですか?」


「ええ、そうです。察しが早くて助かります。

 異教の神とはいえ、我ら神のせいであなたは死んでしまったのです。そんなあなたを憐れんで、私があなたを再び生かしてあげましょう」


「はあっ」


「反応が薄いですね」


「そもそも自分が死んだ実感が、ないもので」


「そうですか。普通こういう時は、『もしかして異世界転生、ウワッホーイ』とテンションが上がるはずなのに?」


「……」


 駄女神が首を傾げるが、あまりにもなろうに毒されている。

 人間でなく、神の側が。


 親父は呆れて駄女神を見るが、その視線に気づく様子のない駄女神。



 その後もなんだかんだとあったものの、地球の神のせいで死んだので、親父はテンプレよろしく、来世は異世界で新たな生を受ける、異世界転生を果たすことができた。

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