第3話 自業自得の結末

---その後、避難所にて---


肉身にくみ君、この動画は本当かね?


「ハァ?…何だそれ!寄こせ!!」


教師に動画を見せられた肉身はその内容に驚き、携帯を奪おうとする。


「携帯を奪おうとしても無駄だよ!これは動画サイトにあげられてるものだ!」


肉身の剣幕に驚き、携帯を離しながら叫ぶように伝える。


「何だと!?……そんなの偽モノだ!誰かがオレをハメようとしてやがる!!」


顔を真っ赤にして怒鳴り散らすが、周りの視線は冷ややかなままだ。


「昨日、夕方から明け方まで外出していたようだけど、どこに行っていたのかね?」


「どこだってテメェには関係ぇだろうが!」


「…それで済まされない事は流石に分かるんじゃないのかね?」


「ッチ、…親父の所にだよ!親父の避難所に呼ばれたから行っただけだ!」


「…本当かね?」


肉身の事を観察するように教師が見つめる。

その顔はまるで犯罪者を見るようで、周囲に居る生徒が委縮している。


「ああ!本当に決まってるだろ!何なら今電話してやるよ!」


そのまま携帯を取り出そうとするのを教師が止めた。


「いや、それには及ばないよ。もう確認済みだ。昨日肉身君があちらの避難所を訪れた記録は無いようだよ。」


今現在、各避難所は訪問者のチェックを行っており、人の行き来を記録している。

肉身はそのルールを無視していた為に知らなかったのだろう。


「君は入退時の記帳をしていなかったみたいだが、ちゃんと代わりの人が行っているんだ。このルールは絶対で、全避難所共通だよ。」


もし破れば避難所を管理する立場からは外される事になっている、と父親の避難所の事も言及する。

もし息子を庇って不正と認定されれば親もタダでは済まないと言っているのだ。


「悪いが肉身君にはこの避難所から退去をお願いするよ。これは教育委員会にも報告してある。」


勿論許可が下りる事など無いが、このまま肉身を匿えば避難所の中で私刑が起きる可能性も有る。

寝ている内に誰かが殺されたなどと言う事が起きれば、もう避難所としては機能しなくなるのだ。


「ふざけんな!オレを誰だと思ってやがる!!」


暴れる肉身を取り押さえ、有志の人間によって外に運び出された。

避難所には学生以外も多く集まっており、彼らにお願いしたのだ。


「…先生。」


若い教師が心配そうな声をあげる。


「もしもの時は私が責任を取るから大丈夫だ。もう定年間近だからちょうど良い役柄だよ。」


その教師を安心させるように話を続ける。


「この動画の事は全ての避難所に伝えておこう。今避難所はどこもパンク寸前だ。不安定な場所が出来るのは極力避けたいんだ。」


疲れた顔をしながら各避難所に電話をかけ続ける。

一つの避難所は荒れるだろうと確信を抱きながら…。




---肉身視点---



「クソが!!」


肉身にくみさん、オレら、本当に入れて貰えるんですよね?」


「当たり前だろうが!親父がオレ様を見捨てるハズがねぇ!オメェらも親父の避難所に入りてぇならさっさと働け!」


避難所を追放されたオレ様は親父の元へと向かっている。

商店襲撃に関係していた手下どもを脅して合流し、近くの避難所に向かった所、あろうことかオレ様を拒否しやがったのだ!

この肉身家のオレ様をだ!絶対に許せん!

折角学校の避難所に居てやったというのに!次の避難所として選んでやったというのに!!


「肉身さん、ゾンビが寄って来るんでもう少し静かにして下さいよ…。」


「なんだと!?貴様達が倒せば良いだけだろうが!オレ様に意見するつもりか!?」


コイツら、誰のお陰で親父の避難所に入れると思ってるんだ。

今まで多少は使えると思って来たが、避難所に着いたら切り捨てるべきかもしれない。

親父の所には肉身家の関係者も多い。力自慢の若者バカどもも多いと聞いているし、それまでの我慢だ。


何とか道を進んで親父の避難所の近くまで来れたが、目の前の光景に愕然とする。


「肉身さん…、これは流石に無理じゃ…。」


車が玉突き事故を起こし、何台も連なっている。その近辺を大勢のゾンビが徘徊し、更なるバリケードを作っているのだ。


「バ!……バカを言うな。この道を通らなければずっと遠回りになるんだ。そうしたら日が暮れるんだぞ!」


余りのバカさ加減に、最初に抑えた声量も最後には戻ってしまった。

ゾンビどもが反応するが、逆にチャンスにしてやる。


「ちょうど良い!一度こちらにおびき寄せて、迂回して突破するんだ!」


そう叫び、弧を描くように移動する。

周囲には車が点在し、死角の多い中進んでいると手下の一人が転んだ。


「バカが!何をやって…。」


言葉を切り、慌てて離れる。手下の足は車の下から出てきた手に掴まれており、暗がりからはうめき声が聞こえる。


「肉身さん!!助けて!!」


こちらに縋りよって来るのを蹴飛ばし、急いで離れる。


「アレはもう助からん!囮に使うしか無い!」


そう言って先を急ぐ。

途中で手下を突き飛ばして囮を増やし、順調に進んでいく。


車を超え、全ての難関を超えた後で、最後に残った一人に声をかける。


「無事に突破できたな。貴様もよく生き残った。」


「…ッヒ。」


労いの声をかけるが、引きつった顔をして後ずさる。

やはりオレ様の行動を見ていたかと思い勢いよく突き飛ばすが、腕を掴まれて一緒に倒されてしまう。


「貴様!ふざけるな!離せ!」


叫びながら何度も蹴りを入れるが、中々離そうとしない。

その声を聞きつけたのか、横から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「おい!貴様!許す!もう許すから一度手を放せ!!」


必死に蹴りを入れながら説得するが、腕の力が弱まる事は無い。


「ここでオレ様がやられれば貴様も助からんぞ!まずは離せ!!」


そう叫ぶオレ様の肩に手が触れてくる。


ふざけるな!オレ様がこんな所でやられる訳が無いのだ!

絶対にオレ様が死ぬ訳が無い!こんな危機など簡単に乗り越えてやる!!


段々と這いよって来るナニかを視界から外し、最後まで抵抗を続けるのだった。

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