第30話 あなたの世界と、わたしの世界
「まず、簡単に私たちの事を説明しておきましょうか。」
アレクさんはそう言って皆んなを見渡す。誰も反対の意を示さなかったので、また私の方を向いた。
「ギンに紹介して頂きましたが、私の名はアレク。この西の地の魔術学院で教員を務めております。本来なら我が師匠もここに来るべきなのですが……今回の収集は緊急でしたので、私だけで……。」
「緊急でなくとも、お主の師匠は顔を出さんだろうが。あやつまだ生きておるのか?最後に見たのはもう何年前じゃい。」
「……師匠はご存命であらせられますよ。ええもう、それは元気で……。そもそも彼の方程の魔力が潰えれば貴方も気付かないはずが ––– 」
「話を晒すな。さっさと進めろ。」
セクハラジジイが割り込んだせいで逸れた話題を、グイリアさんが容赦なく正す。ジジイ、無駄話が好きな老人タイプなのかな……。グイリアさんぐっじょぶ。
アレクさんはまた咳払いをして姿勢を正す。
「失礼しました……。オトカさん、ここに集まった我々は、『異端の者』と呼ばれています。この世界の人間社会には強力過ぎる魔力や特殊な能力を持っていたりする為、一般的な人間社会とは袂を分かった存在なのです。」
「え……。」
袂を分かった?
「……この世界には、悲しい歴史があります。国々が強力な魔術師を育て争いを繰り返し、やがて大きな戦争が起こりました。そのせいで、この世界のありとあらゆる生物が滅びかけました。魔族も例外ではありません。」
魔族、と聞いて、何となく窓枠に座るハーピィを見る。首を柔軟に伸ばして、羽繕いをしていた。……嘴が無いのに器用だな。
「我々の祖先は学び、二度と同じ過ちを繰り返さない事を誓いました。そして、特別に優秀な魔術師や同等の存在は、国が抱えてはいけない事を決めたのです。……我々は、正にその当事者。どこの国にも所属せず、ただ心の赴くままに知の探求を続ける存在です。……魔力はそれを使う者に高い理解力が求められますし、大きな魔力を持っていれば、より深い知識を求めるようになるのが自然ですしね。」
『国が抱えてはいけない』……『どこの国にも所属しない』……。
だからグイリアさんはあんなに街から離れた辺鄙な場所に住んでいたのか。
『知の探求を続ける存在』……グイリアさんの家に散乱していた、本の山を思い出す。
「我々は、『異端の者』として認められた互いを支え、決して治世に関わらぬよう監視する使命があります。……地域ごとに定期的に交流をはかり、必要な時はこのように会議を開きます。また、もたらされた技術や知識が世界の発展に貢献するものであると判断されれば、それは学院を通じて世界に平等に公開したりもします。……それに、世界に『異端の者』となりうる存在があればそれを見極め、導くのも我々の仕事です。」
話のスケールの大きさに、私は暫し唖然としてしまった。
国が抱えるには危険過ぎると判断された程の存在……ここに集まったのは皆んなそんなレベルの人たちなのか。
一般市民とはかけ離れている人たちに囲まれてる私、なんか場違いすぎる……。
そう言えば一応神様であるスコルティ様といい、創造神といい、なんか異世界来てからつよつよキャラばっかり遭遇するな。……平穏な日々が遠い……。
……あれ?でもアレクさんは –––
「学院はー、魔力を持ち過ぎル子供トカ、それなリに魔法使えちゃウ人とか二、イロイロ教えテあげルとこなンだヨ!」
私が疑問に思っていたことに、おギンちゃんが勝手に答えてくれた。
「何処の国にモ属さなイけド、地域ゴトにあっテ、オレの住んでる場所にモあるんダヨ!『異端の者』ジャない人たちハ、卒業したラ何処の国ニ行くのモ自由なのデース。」
「ああ、学院について説明が足りませんでしたね。ギンの言う通りです。私は……その、色々有りまして、未だに学院を出られていないのですが……ええもう、ほんとに早く独り立ちして研究出来たらどんなにいいか……ブツブツ……。」
なんかごにょごにょ喋り出したアレクさん。表情に影が差している。……この世界にも色々あるんだなぁ。
「はー、ややこしー……ま、要に俺たちは出来が良過ぎてハブられてる奴らの集まりだよ。危険だからまとめて置いておこう、ってね。」
「……サーシャ、あまり短絡的過ぎる物言いは良くないかと……。」
「いいじゃん、本当の事でしょ?その方が分かりやすいし。それよりさっさと本題に入ろうよ。」
本題、と聞いて私の身体がぎくりと強張る。
そうだ、この『会議』は、私に関するものだった。
「では……オトカさん、貴方は他の世界から来たばかりだと伺いました。どんな世界から来たのか、私達に教えて頂けますか?」
「ど、どんな……?」
「ええ、簡単にで構いません。例えば……何かこの世界との違いはありますか?」
「えっと……取り敢えず魔法が無くて……あ、いや、概念としてはあるんですけど、想像の産物で……あとは、多分魔族とか神さまとかも、実在はしてない感じで……そ、そういうお話は、あったりするんですけど……。」
私の緊張をほぐそうとしてくれているのか、ニコニコと笑顔でゆっくりと質問してくれるアレクさん。しかし他のメンバーたちからはじっと見つめられている上、膝の上にはまだおギンちゃんが居る。……心なしか、いやあからさまにウザがってる態度が滲み出ている。髪の先っちょくるくるしたりして。
この状況で落ち着けって方が無理でしょう。
アレクさんもイリヤさんもサーシャさんもグイリアさんも、セクハラジジイと、おまけにハーピィと多分妖精シルフまで、しどろもどろ話す私の言葉を一言も聴き逃すまいと、耳をそばだてている。
き、緊張する……。
「えと、後は……地球……あ、私が来た世界は大きな惑星でそう呼ばれてて……そこは、魔法の代わりに科学が発展してて……ええと、魔法とは別の自然の原理をこう、細かく調べてそれを利用する技術というか……それを応用すると空も飛べたりするんですけど、多分魔法よりは不便で……。」
「……その技術を使って空を飛べる人は、どのくらいいるのですか?」
「あ、えと、お金を払えば誰でも……一番一般的なのは飛行機って言う、大きな鳥みたいな船に乗る方法なんですけど……それは、大金持ちなら自分のものを持ってたりしますけど、そうで無い人は、沢山の人を乗せられる飛行機にお金を払って乗せてもらう感じで……。」
「ほほー……なるほど、その技術を全く使えない人でも広くその力の恩恵を受けられる訳ですね。」
「はい……。」
「素晴らしい!」
お風呂から上がったら身体を乾かしてくれる風邪魔法体験しましたけど、あんな感じの便利なものが沢山ありますよ。と、言おうと思ったのだが、セクハラジジイが居るのでやめた。間違ってもその場面を想像して欲しく無い。
こんな説明で良いのかな、果たして理解して貰えているのかな、と不安で仕方がなかった。
が、それはグイリアさんの一言で吹き飛ばされる。
「こいつが何処から来たかはさほど重要じゃ無い。それよりもこいつの能力だ。この調子じゃいつまで経っても終わらんぞ。」
「ああ、そうですよね。すみません、つい、興味深くて……。」
またアレクさんが咳払いをする。
「それでは、貴女が授かったと言う能力について、お聞きしても良ろしいですか?」
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