第26話 もうそろそろおなかいっぱいでして……
また文字通り息の根を止められないかとびくびくしながら、私はここに来た経緯を話し始めた。
昨日から目まぐるしい展開続きでも、既に二回行った事は多少は上達するようだ。加えて、ダニエラさんが質問や説明を足して導いてくれたお陰で、今までよりもずいぶんと短い時間で語り終わることが出来た気がする。
話している間じゅう、グイリアさんは私の口から視線を外さなかった。ううう怖いよう。そんなに異様な物に見えるの?……そうよね。私だって不思議だものこの言語チート。魔術とは別のものって言ってたけど、詳しいからこそあり得な過ぎて信じられなくてしょうがないのかも。
ダニエラさんとアントーニオさんと違って、グイリアさんは表情をぴくりとも変えなかった。……真顔で見つめられ続けるのも辛いものがあるな……。
「以上が、ここまでの経緯です……。」
何となく事務的な言い回しで場を締めると、グイリアさんが座ってから初めて視線をずらす。口元に手をやって、考え込む様子を見せた。
これで私の言語がおかしく聞こえている(もしくは見えている)理由は一応説明出来たはずだ。さっき突然現れたトリックも。現実に起こっているので、疑われはしていないだろう。しかし、それに対してどのような判断を下されるのかは分からない。
「母さん、お願いよ。オトカの後見人になってあげて。もし何も知らずに、どこにも所属せずに生活していたら、どこかの国に目を付けられかねないわ。そうなってしまったら……。私たちも助けてあげられる事は出来るけど、母さんが適任よ。分かるでしょう?」
「……俺も同感だ。この能力が利用された場合、その影響は計り知れん。きちんと認識して、保護すべきだ。」
おおっとー!アントーニオさんも喋ったー!この2日で一番長い発言!貴重!
因みにファビオと呼ばれた黒い大蛇は、話の途中でアントーニオさんの肩まで這い上がりそこで落ち着いている。流石逞しいお身体。このでかさの蛇が肩に乗ってもビクともしない。……男女、白黒、大小と、なんか何から何まで今の私と対称的な図になっててちょっと笑える……。
猫の方は、ダニエラさんに撫でられながらテーブルの上でぐでんと寝転がっている。……動物天国……!普通に動物が存在する空間最高!生き物万歳!
浮かれる一方で、私は気を引きしめなければならなかった。ダニエラさんだけでなく無口なアントーニオさんまでもが言葉を挟まずにはいられなかったという事は、事はそれだけ深刻なことを意味している。私は、予感を現実のものとして受け入れざるを得ないことを理解した。
私の能力はこの世界でも異常なものなのだ。
それが悪意のあるものの手に渡らないよう見張っておかなければならないと、危険視される程に。……対抗勢力の手に渡るのを恐れた彼らに消される危険もあるだろうが。
……マジで何してくれるん、創造神。
未だに何でこれが私に合っているかも分かんないし。
……たまに旅行とかしたりしてペットと一緒にささやかに暮らすという、ここ最近の私の理想も、ここでは叶わないのかなぁ……。昔は世界中の野生動物や自然を見て回りたいとか飼育してみたいとか思ってたけど、もうお馴染みの小動物でも十分なのに……。せめて犬か猫……。いやハムスターでも……。
……あれ?
でもこの能力あれば一番の懸念となる敷地はカバー出来そうだな?……っていうか時空内からなら世界中どこでも行ける……。
んんん?
「『保護』か……。とにかく私の一存ではどうにも出来ん。」
と、グイリアさんが言って立ち上がる。
「それが最善か、協会で会議にかける。付いて来い。」
「え……?」
「ちょっ……母さん、今から出かける気?」
のしのしと物を跨いで玄関に向かうグイリアさんに、ダニエラさんが声をかける。しかし聞こえていないかのように、彼女は外に出てしまった。
「さっさと来い。」
「ええっ?は、はいっ!」
本当に今すぐ出発するのね?慌てて外に向かう私。急ぎ過ぎて物につまずきそうになったし。アントーニオさんが支えてくれたけど。……っていうか会議にかけるって、私また説明するハメになるんかな……。なんかもう、そろそろ文章で書いておいて配布したいかも……。あ、でもこの世界パソコンも印刷機も無いかも。うむむ不便。あ、いや、代わりに魔法で何とかなるんじゃ……。
「行くぞ。」
「へ?」
むんず、と着ていたシャツの首根っこを掴まれたかと思うと、ぐん、と上に引っ張られた。
足が地面を離れたと思ったら、私は既に遥か上空にいた。
「うきゃあああああああーーーっ⁉︎」
私の身体は、声を置き去りにして猛スピードで飛んでいた。びゅおおおお、と風を切る音と、グイリアさんのドレスがバタバタとはためく音だけが耳に届く。寒い!怖い!息がしにくい!
っていうかどこに向かってるの⁉︎ 私のスキルで移動出来たと思うんですけど⁉︎ ◯空術とか無理やりが過ぎる!昨日から展開早すぎなのよ!
「ああああああーーーー……‼︎ 」
相変わらず自分の耳に届かない悲鳴を上げ、自分の涙や涎やもしかしたら別の液体が後方でキラキラ輝くのを視界の端に捉えながら、私はまた、意識を手放したのだった。
こんなんばっかや……。
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