第14話 知らぬがホトケ
『我はもともと二体のフェンリルだったのよ。』
宝物庫で丁度良いサイズの服を探す私の横に優雅に横たわり、光輝く狼は説明してくれた。
私が聞いたのは、なぜそこまで創造神を憎んでいるのか、と言う質問だった。
『それぞれ父の指令のもと、空に輝く星を追いかけ続け、その世界の昼と夜とを運んでおった。そしてついにそれらを捉え、飲み込んだ。世界は我々が望んだ通り、闇に包まれたのよ。』
ふん、と息を吐きながら誇らしげに言う狼。
……なんか何となく感じてたけど、この
どうかいつかぱっくり食べられちゃいませんように……。
……ん?
星を追いかけて飲み込んだ?
手を止めて記憶の海をかき分ける私。なんかどっかでそんな話読んだ気が……。あれぇ?そう言えばそもそもフェンリルって……。っていうか私が気絶する前に何か言って……。
必死で思い出そうとしている私などつゆ知らず、光る狼は話の続きを語り出す。
『地上では父上とその兄弟達が神々と戦っておった……。しかし、苦戦する父上に加勢しようとした正にその時、あの創造神が現れたのよ。そして気がつけばひとつの身体にされ、この大地に縛られておったと言うわけだ。』
「……私みたいに、間違って連れてこられちゃったって事ですか?」
『まさか!我を人間の娘ごときと一緒にするでないっ!我は選ばれたのよ。この地を治める神としてな。星を喰らい力を得た我は、生まれたてのこの地を富ませるのにうってつけだったと言うわけだ。鬱蒼と緑の茂る肥沃な大地を見るが良い。これはひとえに我の力によるものよ。』
のけぞって、更に誇らしげに言う狼。なるほどぉー。他の世界から治める神さま連れてくるとか、そんなケースもあるのね〜。
『まったく、あの忌々しい創造神め……。あやつさえ現れなければ、我々の勝利は確実だったというのに……!まぁ、我々がおらぬとも、父上の勝利は間違い無かったろうがな!今頃は、父上こそが9つの国を治める支配者となっておろうぞ。はっはっはっ!』
狼の高笑いを聞きながら、木箱の中に保管されていたまた別の色の服を広げる。細かい刺繍で埋め尽くされた見るからに上質な服なのだが、なかなかサイズが合いそうなのが見つからない。恨めしや我が日本人体型……。しかし全然カビ臭く無いんだよな、これ。箱は埃まみれだったのに。
また別のものを広げながら、既に確信に近いものを持っていた私は狼にしれっと聞いてみた。
「えっと、もしかしてお父様って、長い間囚われの身でいらっしゃいました……?」
『なんと!貴様何故それを知っている⁉︎』
ガバッと身を起こした狼。……確定ですねこりゃ。あ、でもやば。なんかめんどくさくなりそう。
……誤魔化そう。
「えっ?えっとー……なんか昔話で?そんな話聞いたような聞かなかったような……。」
『なんだと⁉︎お主もしや我が居た世界と同じ世界から……!』
ぐいぐい詰め寄ってくる狼に、私はあくまでしらを切る。
「あ、いや、多分違くて……そう言うお話だけは入って来てたみたいで……。」
『……ふはははは、流石は父上!別の世界にまでその名を轟かせたとは!して、お主はその続きを知っているのか?神々の終焉と我らの勝利はどう語られている!』
「あ、いや、私はそこまでは……。」
『……ふん、つまらぬ。これだから下等生物は……物覚えが悪くて困るわい。』
◯ジータか◯リーザみたいなこと言いだしたな……まぁ諦めてくれたみたいなので良しとしよう。
この御方には伝えない方が良いだろう。
彼(彼女?)らの父親は、フェンリルの王フルヴィトニル、又の名をガルム。その力を恐れた神々により、ドワーフ達の作った鎖グレイプニルに長らく捕らえられていた。
ついに鎖を引きちぎった彼は、隻眼の神王オーディンを飲み込み、その息子ティールをも倒す。
しかしその後に、オーディンの別の息子ヴィダールに敵討ちされてしまったのだ。
もともと2匹の狼であったスコールとハティが太陽と月を飲み込んだことで始まった“
全て、地球で“北欧神話”として語り継がれている話だ。
狼が出て来るってだけの理由で昔読み込んだことがあったのだけど……。
……まじかー……。
この世界には、どうやら神話の生き物が(ちょっと姿を変えて)実在するようである。
「……そう言えばドラゴンいたしな……。」
『何か言ったか?』
「あ、いえ、なんでも……。」
私の独り言に気づいた狼には言葉を濁し、私はまた別の服を広げてみた。
お、サイズ良さそう。
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