第11話 異世界最っ高ぉおおおーーーーーっ‼︎



 息の続く限りの金切り声をあげた後、私はその場に崩れるように膝をついた。







 そして両手を伸ばし、天を仰いで叫ぶ。








「っっ神よぉっっっ‼︎ っ感っ謝しまっすっっ‼︎」








『……小娘?』


 なんか聞こえたが、今はそれどころじゃ無かった。


「貴方のその過ちに!いや!そのご慈悲に!感っ謝しまっすっ‼︎ さっすが神っ‼︎ 万能っ‼︎ 有能っ‼︎ 最っっ高ぉーーー‼︎ 私を異世界に連れて来てくれて、あぁりがとぉおおおおーーーっ‼︎」


 そこで大きく息を吸い、全力ガッツポーズでもう一声。


「もふもふイエェーーーーーーーッスッ‼︎」

『おいそこの狂人。』

「ハイィイイッ‼︎」


 心の中のサン◯ャイン◯崎全開で一通り感動を発散し終わった私は、呼びかけに即座に反応する。びしぃっ、と敬礼を決めて立ち上がり声の主の方に直った。後光が眩しいっ。あ、めっちゃ目しかめてる。あぁん、その表情も素敵♡♡


『……奇妙な者だと思ってはいたが、気が触れておったとはな。……うん?』


 金色の後光を発する真っ白なもふもふサマは、僅かに鼻先をあげると、すん、と鼻を鳴らされる。


『……お主、白と紫の実をたらふく食いよったろう。』

「ハイッ!お腹いっっぱいご馳走になりましたっ‼︎ 大っ変美味でございましたっ‼︎ 」

『……道理で気が高揚しておるわけだ。それにしても少し興奮し過ぎのようなに思えるがな。』

「こっれっが興奮せずにいられましょうかっ‼︎ 」


 びしぃっ、と今度は◯塚ばりのポーズを決め(片手は胸の痛みを訴えるが如く心臓の上に、もう一方は相手を讃える心情を表して力強く前方に)、私は訴えた。


「貴方のような至高の存在を前にっ‼︎ 」

『……ほぉう?』


 興味深げに、片目の頭をぴくりと釣り上げるもふもふサマ。あん顎上げた上から目線たまんない♡



「黄金に輝くその御身おんみっ!春風に吹かれる草原が如く揺れるその白銀の御毛並み!世の美と力を凝縮したかのようなその全身のフォルム!すらりと長くしかし逞しいその御御足おみあしっ!そして艶と脅威が共存するその挑発的な御爪先っ!どれをとっても私の言葉では褒め称え足りないほどっ‼︎ ああっ、わたくしに名高い詩人の才があればっ!その素晴らしさを高らかに歌って差し上げられますのにっ!」

『ふむ。』

「貴方のそのすっと伸びた鼻梁も、柔らかく濡れた鼻先も、ぴんと立った揃いの御耳も、煌めく御目々も、その造形はまさしく神の為せる技っ!私如きが拝見するなど、おこがましいことこの上ないほどっ!ああだけどっ、それらは私を魅了して止まないのですっ!」


 そこで私は一息ついた。両手を差し伸べ、全力で最後の言葉を伝えるために。




「大っっっっ好きですっっっ‼︎ 」

『……娘よ、我は今、若干引いておる。』




 ああんいけずぅっ!最後の言葉がダメだった⁉︎ やっぱり直接的過ぎた⁉︎ もっと文学的に詩的に表現しなきゃダメだった⁉︎ だってもう伝え足りないんだもんっ!筆舌し難いんだもんっ!その魅力が!


 だって、だってだって、もっふもふよ⁉︎ もっふもふっ!それも特大サイズの!




 異世界、最っ高‼︎




 子供の頃の夢は動物学者だと言ったが、中でも四つ脚哺乳類は私の大好物である。


 特にイヌ科の動物は。


 その中のキングオブキングである狼の姿をした力強く美しい獣が、目の前にいるのである。それも超巨大バージョンが。


 おまけに、意思疎通ができると来た。


 なんかちょっと光っていても、目が一セット多くても関係無い。




 私の興奮は最高潮だった。




「御目にかかれて光栄の極み!貴方様の御社おやしろと知らずここに足を踏み入れたのはかくも愚かな行いでした。どうぞ如何様いかようにも罰してくださいませっ!貴方様の御気の済むまで、煮るなり焼くなり御好きなように!……それともわたくしに何か出来ることは御座いますか⁉︎ 貴方様のためならこの乙叶おとか、全力を尽くしましょう!」

『……ふむ。まず反省の意は認めよう。』

「どうぞご遠慮なさらずに!貴方であれば、わたくしはこの身を差し上げるのも躊躇など致しません!……ハッ⁉︎ そうです!どうぞわたくしをお召し上がり下さい‼︎ その牙に噛み砕かれ、貴方の多肉となれるのであればそれこそ本望!さぁっ‼︎ 」



 両手をまた差し伸べ、私は膝をついた。



「どうぞお召し上がり下さい‼︎ 」

『……娘よ、我は今、全力で引いておる。』

「何故⁉︎ 」




 狼の言葉に、私は絶望を顔に浮かべたのだった。



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