第9話 文明との遭遇
「……あれ?」
と、私は瞑っていた目を開けた。
「……ねぇガイド?」
『はーい。』
まだそこに居たが変わらず返事をするガラス球。いやもうガラスちゃん。いやガイドちゃんか。
「なんか、行きたい場所イメージしても何も見えないんだけど……。」
『この星の別の場所への出口は、君の作った時空内からしか作れない。』
「……そうでした。」
そうでしたそうでした。そーでしたーー。ダメだな、まだ頭が整理できてない。
外からは隔離した空間作って入り口。内からは行きたい場所をイメージして出口。外、内、外、内。
このスキル便利だけど、慣れるまではややこしいなぁ。
……って言うか待って。
私この格好で行くつもりだったの?
……あっぶねー!まずはぱんついっちょうをなんとかしなきゃいけないんだってば!早く同類に会いたくて、気持ちが前のめりになりすぎてるな。
「とは言ってもなぁ……。」
うーん、とぱんついっちょうで腕を組み考える私。
服あるところ人間あり。人間無しところ服は無し。
……どーすんのよ。
仮に人間居るのは前提として、誰かからこっそり貰うとかもやだしなぁ。通貨もまだ持ってないから買えないし。とは言え通貨を手に入れるのに、例えばあの果物が売れたとしても、この格好じゃ……。服を買うのにもこの格好じゃ……。生き物仕留めて皮剥いで、なんてやったことないし時間かかるだろうし。一から織るなんて以ての外だし。……最悪人類居なかったらそうしなきゃいけないんだろうけど。
ああもう、なんでスカート使っちゃったの私。命かかってたからだよそうですよ起こったことは仕方がないのよ。
うーん。都合が良いのは、誰かが忘れていった、もしくは要らなくなった服がどっかに落ちてるとかだよなぁ……。
でも、この星の文明レベルがどうか分からないけど、あんまり発展してなかったら服なんて物凄く高価な可能性もあるし。
……まぁ、私のスキルなら探すだけならタダか!
よし、と気を取り直して、まだ消えずにそこにいたガイドちゃんに話しかける。
「この時空の入り口って、一度閉じてもまた別の場所で開けられるんだよね?」
『開けられる。君が覚えている限りは。』
またそれかい。……確かに思い出せなくなったらそこにしまったもの永遠に取り出せなくなるけどね。よし、忘れない。これは私のモバイル冷蔵庫。
がさがさと、時空への入り口に蔦や葉を被せる。中の空間が完全に見えなくなった時点で、目を閉じた。その入り口が閉じるのをイメージする。
イメージが固まって収縮した感覚を覚えて、目を開ける。ごくりと息を飲んで蔦を掻き分けると、そこには黒い影しかない。うろの中は、光の殆ど届かない空間と腐葉土の地面だけだった。
「すごーい……。」
いちいち自分のスキルに感嘆する私。だって凄くない?考えるだけで変化が起こるとか。まるで魔法じゃないですか。いや魔法か。そういう世界線か。
気がすむまで驚いてから、私はその空間を覆う葉っぱや蔦を元どおりに被せた。今度は、新しい空間をイメージする。
「えーと……快適で……六畳間くらいの小部屋……。」
その形が定まったように感じた瞬間に、目を開ける。やっぱり少し緊張しながら目の前の蔦を掻き分けると、そこにはまた白い空間が見えた。
「ははは……。」
そこに足を踏み入れて、私は驚くのを通り越して笑ってしまった。ここまできたら当たり前かも知れないが本当に出来てる。
試しに入り口の脇に手を伸ばすと確かにそこに壁があった。その向こうに白い空間が続いているように見えるが、透明な何かに遮られているようだ。硬質な平面の感覚が、四角い床を囲んでいた。うむ、狭いアパート暮らしが長い身としてはこのくらいの広さが落ち着くな。
「うふふふふ。」
なんか、自分の部屋が出来たみたいで嬉しい。ここを拠点に居心地の良い環境を整えれば、世界中のどこにでも繋がる私の城が出来る!
何はともあれまずは服である。私はまた目を瞑り、今度は人間がおらず、衣服だけがある場所をイメージした。こんなやり方で行き先が見つかるのか疑問に思いながら。
「……んん?」
浮かんでくるイメージを見ながら、目を閉じたまま眉をしかめる。
深い森の奥に……廃墟?いや……
神殿?
その奥に、なんだかガラクタだらけの部屋っぽいところが……その中のいくつかの箱に、確かに衣服らしきものがあるらしい。
人影は無い。
「もう廃れちゃったところなのかなぁ……。」
目を瞑ったまま誰にともなく呟く。
そしてまたうーんと考える。
まず、これでこの星にも少なくとも人知を持ったものかそれらしいものが居るのは確実となった。やったぜビバ智恵!ビバ文明!これで現代レベルとはいかなくとも、文化的な生活が出来る可能性は高くなった。
しかし、これが例えば何かの文明の神殿だとして、その敷地内を漁るのはどうなのか……。
多分見えてるコレ、宝物庫っぽいところなんだよなぁ。神様かその信者の所有物をくすねるのはちょっと気がひける。
だけど……
単純に見てみたい。
なんかとっても古代文明の遺跡っぽいところを。
「うふ、うふふふふ……。」
真っ白な空間の中、目を閉じてひとりほくそ笑む私。
お腹は満たせたし、食料は余裕がある。服は無いが、恥ずかしい思いをする心配は今は無い。寒くもない。
つまり、今の私は知的好奇心を満たしたい欲求がMAXだった。
以前の世界では、引きこもりにならざるを得なかった。
せっかく授かったこの能力、存分に使わせてもらおうじゃないの。
いざ、異世界探索!
私は、目的地のドアのひとつを出口に定めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます