第8話 ここまでのおさらい
「ふー……こんなもんかな。」
白い空間に、私の腰ほどの高さに山盛りになった果物を見て、額の汗を拭う。自分ひとりしか居ないので、持病のことなど考えないで作業に集中することにしていた。もうこの際、治ったと思ってしまおう。
さて、時空を操るという私のスキル、早速便利に活用させてもらうぜ。時間の流れを遅くして、果物をぷるぷるジューシーなまま保存するのだ。これでいつでもどこでも、新鮮な果実が味わえる!
木のうろの外に立って、私が作った空間の中の時間の流れをイメージする。時間は、体感できる温度や目で見える広さとは違って想像しにくい。だけど出来るって言ってたんだから出来るはず。
時間、じかん……難しいな……。時間、が、遅くなるイメージ……。ゆっくり……ゆっくり……あ。
「できた……。」
かな?たぶん、出来た、と思う……。が、目を開いて木のうろの中の空間を見ても、光景は変わらない。時間なんて目に見えないもんなぁ。
どうやったら確認できるか……。
「あ。」
思いついて、足元にあった枯葉を数枚拾ってぽいっと投げ入れてみた。
「おおっ!」
思わずその光景に感嘆の声を上げてしまう。
枯葉は、何もないはずの空間の入り口に張り付いたように動かなかった。
地面に落ちるまでの過程で時間が止まってるってことか!
「すごい!」
思わずひとりで両手を打ち合わせてしまう。だって元の世界じゃこんなの見られないもん。
これで中の果物を、かなりの間腐らずに保存しておける。便利すぎだなこのスキル……。冷蔵庫要らずじゃん。
あまり必要無いかもしれないが、中の空間の温度もひんやりするくらいまで下げておいた。これで頻繁に私が出入りしても安心だ。
「……あれ?」
そういえば、ここを保存庫として使ったら、私はどこから他の場所に移動したら良いんだ……?
快適な隠れ場所としても、この時間の流れと気温じゃ使えないんじゃ……。私、バカかな?
……いや、まてよ。ここまで都合が良すぎるくらい便利なこのスキル、もしかして……。
「……ガイドさーん。」
『はーい。』
私が暫く質問しないで放置しておくといつのまにか消えているガラス球だが、呼べばあっという間に現れる。うむ、苦しゅうない。
「あの、もしかして、なんだけど……この空間……じゃなくて時空って、いくつも作れたりする?」
『出来る。君が認識できるだけ、幾つでも。』
出来るんかい。マジで便利すぎるだろ。
「……ついでに、なんだけど、もしかしてひとつの時空に、外側からでもいくつも入り口作れたりする?全く別の場所からでも。」
『出来る。君が認識出来るだけ、幾つでも。』
「……その入り口って自由に作ったり消したり出来たりする?」
『出来る。』
すごいな……ほんとに自由自在じゃん……。
ここまでの情報を、頭の中でおさらいしてみよう。
・私の能力は、別の時空を好きなだけ作り出すもの。
・この世界のどこからでも、幾つでもその入り口を作れるし、消すこともできる。
・外側から入り口を作るときは、ある程度隔離された空間を作って、その中に理想の環境をイメージする。
・内側から出口を作るときは、頭の中で欲しい条件を思い浮かべれば、それに合致した一番近い場所に繋げられる。
・時空の中の環境は、自由に変えられる。気温、広さ、重力や時間の流れに至るまで。
「あとは……ある時空の中から、別の時空に繋がる出入り口って作れたりする?」
『出来る。君が認識出来るだけ、幾つでも。』
あんたさっきからそれしか言ってないな。まぁそれが事実なら問題ない。
結論。このスキルはめちゃくちゃ便利そうだが、それがなぜ私に『合って』いるのかは未だに不明でございます。
やっぱり私が病弱だから、攻撃スキルみたいな体力使うやつ以外になった……とかなのかなぁ……。
何にしろ、この場所で出来ることはひと段落した。
そろそろ次の場所に移動しよう。
このジャングルを探索して野生動物の観察をするのも魅力的だが、まずは私の生活環境を安定させなければ。
そう、ついにその時が来たのである。
この世界の人類との遭遇。
私は目を閉じて、私自身と似た生き物をイメージした。
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