第7話 やってやるぜ
さて、いつまでもくよくよしてはいられない。
せっかく生きろと言われたのだ。(直接じゃないけど。)精一杯生きてやろうじゃないか。このスキル使えば、元の世界では出来ないことも出来るかもしれないし。
私は袖でぐいっと涙を拭って、広大な緑の森を睨みつけるようにもう一度見た。やってやろうじゃないの。
まずは更なる状況把握が必要だ。私の居るこの異世界は、一体どんな世界なのかを知らなければ。身の振り方を決めるのはその後だ。
似た世界だと言ってはいたけど……ドラゴンいたしな……。まずは『
調査に乗り出すにしても、食料は確保しておいて不便はないだろう。先ほどの果物を出来るだけ収穫しておこうと、私は立ち上がって元来た道を戻ることにした。……果物だけじゃ身体が持たなそうだけど、まずは有るものだけでも。
……そう言えば、ガラス球はこのスキルが『私に一番合った』ものだと言っていた。
一体何が私に『合って』いるのだろう?
「ねぇガイド。」
『はーい。』
しゅぱっ、と私の斜め前辺りに現れ、歩く私との距離を一定に保つようにすいーっと動き続けるガラス球。
……なんかちょっと愛着湧いてきたかもしれない。
「このスキルって、どこが私に『合って』いるの?」
『それは神が君を見て判断した。僕はその智恵を分けてもらってはいない。』
「分かんないってことかぁ。うーん。」
ひとりで納得して、色々想像を膨らませる私。
こんな元の世界では非現実的なことが可能なんだから、他にも色々凄いスキルがあり得たってことだよな……。
火とか水なんかの属性魔法とかがテンプレ中のテンプレな気がするけど……あとは相手のレベル分かっちゃうやつとか。今のところ選択肢が出て来る雰囲気はないから、多分ゲームの世界とかじゃ無いのだと思ってるけど、詳しくないから分かんないな。間違って連れてきたってはっきり言われたからには、特別な力を持ってる人間として召喚されたわけじゃ無いし。
……合ってるとは言われたけど、そういえばこのスキルが特別なのがどうかは分からないな。もしかしたら他の人もおんなじ魔法みたいなの使える可能性があるのか。全然チートじゃなかったりして。やっぱたまたまそういう相性だったとか、そういう話かなぁ。
考えているうちに、私はあの巨木の元に帰ってきていた。早速えっさほいさと果物をうろまで運びながら、今度は今後のことを考える。
この世界に文明があるのなら、出来るだけそれにあやかった生活をしたい。気温に合った服装と、快適な家と、あったかいお布団が欲しい。お湯に浸かれるお風呂と清潔なトイレがあればなおよろしい。洗濯機と冷蔵庫があれば更に……流石に無いかな……。ドラゴンのいる世界線に、工業革命が起こっているとか想像出来ないしな。
この世界の人類にファーストコンタクトを取ることを考えると、まずこの服装をどうにかしたい。
この格好のまま、知的生命体と顔を合わせることだけは絶対に避けたい。そんなことになれば異世界に来て早々トラウマになってしまいそうだ。この世界に来てまで引きこもりになりたくないしな。
「……あれ?」
と、うっすら汗をかきながら果物を運んでいた手を止める。
こんなに動き回ってるのに、そう言えば発作が起きてないな……。しかもなんか身体が軽い気がする。
「ねぇガイド。」
『はーい。』
しゅぱ、と現れるガラス球。うむ、やはりかわいくなってきてる。
「その、あの神さまが私のスキルをくれた時、私の身体になんかしたりした?」
『僕は君のスキルに関しての知識しか分けられていない。』
「んー……じゃあ、私のスキルに、『健康』とか含まれてる?」
『君のスキルは、君に最適なものが選ばれている。君の身体は、それを使い続けるのにふさわしいものであるはずだ。』
うーん、分からん。
もしかしたら、神さまがスキルくれた時に私の持病もなんとかしてくれたのかな、と思っている。だけどガラス球の言い方だと決定的じゃない。
……この先自分で色々なんとかしなきゃいけないとなると、ガラス球が健康体だと断定していてくれたら安心だったんだけどな。持病の心配しながらだと、色々とやり辛い。
まぁ、身体が不自由でも、自分で何とかしていかないといけないのは変わらないんだけど。
元いた世界では医療機関や制度が色々と支えてくれていた。だけどこの世界には、私が頼れる相手は一人として居ないのだ。
スキルの使い方を導いてくれるガラス球以外には。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます