第2話 わたしはだれ
「はぁ、はぁ……。」
一番近場の岩場まで歩いて、私は既にぐったりしていた。岩というか崖の壁に手をついて、息を整える。まぁ、動いたから寒くなくなって助かったけど。
カメラが隠れてるとしたらここかなとアタリをつけたのだが、ここまででもかなり距離があった。思ってたより岩でかいし。っていうか撮影陣何処だよ。いつまで続くの?このドッキリ。ドローンも飛んでないし、何処からどうやって撮ってんの?何がゴールなんだ?
もしかしたら、アレか。ミッションクリアしていかなきゃいけない謎解き系か。体力には自信ないんだけどなぁ。風を防げる岩陰を見つけて、座り込む。少し汗ばんだから、体が冷えると良くない。
広大な風景を見て、こんな場所に出たのはいつぶりだろうと考える。
いや、こんなスケールの大きいところに来たのは初めてだ。
ずっと夢だった。
世界中の大自然を巡るのが。
私には、生まれつき疾患があった。
あまり無理をすると発作が出るから、普通の仕事も難しい。今は指定難病の補助と、内職で細々と生活をしている。学校だってギリギリ卒業できたくらいだ。外出は近所へ買い物へ行くのがやっとで、たまに奮発して食べる、近所の惣菜パンと菓子パンが楽しみだった。
おまけに天涯孤独の身。
母は一人で私を育てたが、心労がたたったのか私が成人して暫くして亡くなった。私の身体が弱いのは、母譲りなんだろう。外出が少ないので、必然的に友人も少ない。
小さい頃の夢は、動物学者だった。
図鑑で見た様々な動物に魅せられ、彼らと会話できる物語の中のドクターに憧れた。いつか、彼らに出会うために世界を旅したいと思っていた。
だけど私は、それをこなすための土台を持っていなかった。
学者としての研究やフィールドワークをこなすための体力はもちろん、教育を受ける経済力も無い。私に出来ることと言えば、動画アプリで飼育系動画を巡ったり本を読み漁ったりして、癒されつつ知的好奇心を満たすことぐらいだ。動物を飼うのはお金が掛かるだけじゃなく、大きな責任を伴う。私ではそれも無理だった。
だから、私はこんな場所に連れて来られたことに対し、強制的ではあっても有難いとすら思っていた。
自分一人じゃ、こんなに遠出なんか出来ない。
ここが何処であっても、私の今まで住んでいた環境とは違うことが嬉しかった。
ここにはどんな生き物が住んでいるんだろう。
乾燥していて、降水量は少なそうだ。緑も少ないし、こんな場所に住める生き物は少ないかもしれない。でもここに適応した生き物がきっといるはず。虫や、硬いうろこに覆われた爬虫類は見つかるかな。距離を飛べる鳥なら姿が見られるかも。近くに水場があれば、きっともっと沢山の生き物が見つかるだろう。夜になれば、夜行性の生き物が活動を始めるに違いない。
暫く物思いと想像に浸っていた私は、お腹の音で我に帰った。
そうだ、パンを買ってお昼にしようとしてたんだった。
移動にどれだけ時間をかけたのかは知らないが、これ、このまま放置されてたら辛いなぁ。がっくり項垂れてため息を吐く。空腹は弱気を招くものである。もしかしてこれ、自分で難題解かないとご飯にもありつけないの?やだなぁそれ。
心細く感じながらも、必死で考えを巡らす。
あんまり動き回っても発作が怖いし……そういえばここまで歩いても、大丈夫だったな。ラッキーだ。撮影陣は私が疾患持ちなの知ってるのかな。医療班も付いててくれると良いのだけど。
さて、これが謎解きゲームなのだとしたら、ヒントは多分既に貰ってるはず。さっき出てきたあの鏡の球みたいなのがそうかな。なんて言ってたっけ。
スキルと –––
「……ガイド?」
と、私が呟いた瞬間、
『はーい。』
という声とともに、目の前に透明な球体が現れて、私は息を飲んだ。
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