スキル『箱庭』で、私だけの楽園を作ります‼︎ 〜異世界転移した動物好きは、時空操作能力で理想の飼育環境を作りたい〜

瀬道 一加

第1章 突然過ぎて何が何だか

第1話 ここはどこ


 気がつくと、荒野にいた。


 地平線にかろうじて山の稜線が見える、土がむき出しの見渡す限りの荒野。


 ヒュオオオオーーーッと風の吹く荒野。


 何故。



 ところどころ枯れた草が地面から伸びていて、少し先には地層のしましまが見える崖っぽいところも見える。


 空は薄い雲に覆われていて、古いウェスタン映画で見た光景にそっくり。


 砂埃が舞って、私の履いていた長いスカートがバサバサはためく。



 私は、近所のパン屋に買い物に出たはずでは。


 何故、突然こんな場所に来ているのだろう。


 まさか噂の異世界転移?



 んなわけねーよな多分あれか、催眠術かけて別の場所に連れてって、はい瞬間移動しましたっていう大掛かりなドッキリ。映画とか海外の動画で見たけど、日本でもやるんだ。どこの局だろそれだけ予算出せるの。ってか私選ばれたんだ凄い。どうしよう、気づいてないリアクションしなきゃ。ここ、日本のどこだろう。



 とか考えていると、目の前におかしな浮遊物が現れた。


 鏡みたいに周りが写る球体に見えるが、その空気との境界付近の空間が歪み滑るように動いていて、まっ黒い溝がある。すごい、見たことない視覚効果だ。映像技術の進化は目覚ましいなほんと。



『あちゃー、連れて来ちゃったかぁー。』


 自販機でブラックじゃなくてカフェオレ押しちゃったしまったぁぐらいのノリの声が聞こえてくる。振動を、身体全身で聴いてる感じの聞こえ方。低音の効いた音響を聴いてる時の感覚に近いけど、音量はそこまで大きくない。どういう仕組みだ。


『すごいね、君。耐えられたのは運が良いよ。』

「はぁ。」

『行き先が君のいる世界と似てて良かったね。ぜんぜん大丈夫そうじゃん。』

「……そうですか?」


 この光景は、私の住んでる町とは随分違うのだが。ついつい眉間にしわを寄せてしまう。あと風が強くて寒い。



 あ、しまった。ドッキリっぽいリアクションしなきゃ。こんなに大掛かりな仕掛け、撮り直しになったら気の毒だ。


 と、思いついて、おきまりの質問を投げることにする。ちょっとうろたえてる風で。


「あ、あの、ここ、何処ですか?」

『ここ?ここは、君のいた世界とは別の世界。』

「はぁ。」


 しまった、微妙な反応しちゃった。いや、逆にその方がリアリティがあるか。


『君、僕が飛ぶときにたまたま一緒に連れて来ちゃったんだよね。ごめんごめん。』

「はぁ……。」

『気の毒だから、スキルとガイドつけてあげるよ。はいどうぞ。』


 ブオッ、と、風が身体のに吹き込んだような感覚がして、よろけてしまう。



 なにこれ。なになにこわい。どういう仕組み?なんだったの今の?



『じゃ、あとは僕の分身に聞いてね。じゃーぁねー。』


 ひゅん、と、鏡の球は消え失せる。



 ヒュオオオオ、と吹く風。



 なんなんだ。なんだったんだ今の。どういうリアクションが正解なんだ。一体何を期待されているんだこのドッキリ。




 と、ひとり残された荒野で、私は暫く呆然としていた。


 これがドッキリなんかじゃなく、自分が一人きりで異世界にやって来たことにはまだ気づかずに。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る