第2話 怪獣

「障害や難病、病気とともに生きる。」

 今日のリハビリでの講義資料の表紙には、デカデカとそう書いてあった。

「誰が障害と一緒に生きたいもんか」

 たえはそう呟きながら教室を出た。


 障害は一瞬も休んでくれない。一瞬たりとも私を許してはくれない。ただただ責めるだけだ。夜も昼もなく責め続けるだけだ。死ぬまで私について回り私の歩を止めるだろう。いままでもそうだった。それが原因で学校でも社会でもイジメ抜かれてきた。実際イジメなんかどうでもいい。生活、生きることそのものが困難なのだ。そんなものと一生一緒に生きる気はもうサラサラない。



 誰も彼もがたえを抜いて行く。ごく自然にすり抜けてゆく。当たり前だ。彼らに着いていける訳がないし、まして追い抜けるはずもない。強い薬の影響で足はつんのめり思うように歩けない。自然とよだれが糸を引くように口角から落ちる。電車の中で妙に近づく者はいない。



 発病したのは二十代。それから三十年。

 職に就いたことは何度かあったが、ことごとくクビになった。上がったり下がったりの精神は手に負えず当然、雇い主の手にも負えない怪獣だったからだ。さほど行政サービスの知識もなかったために死にかけたことも、死にのぞんだことも一度や二度ではなかった。

 死ぬ時って全然怖くないの。ただ寂しいの。心が凍り付くくらい寂しいのよ。生きのびちゃったけどね。いまでもいつでもその気はある。一瞬で終わるの。ただ許さない。だれひとり許さない。



(つづく)


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