第6話 ズルい考え
僕は高坂美津のことが好きになるかもしれない、と言ってしまった。反面、僕には気になる子がいる。それなのに、美津を好きになるかもしれないという発言は矛盾している、というか、彼女に失礼かもしれないと思った。気になる子がいるならあの発言はするべきじゃない。やはり、美津には正直に言うべきだろう。期待を持たせたまま一緒に過ごすのはやはりよくない。でも、これはズルい考えかもしれないが、美津のことはもしかしたら好きになるかもしれない。彼女の行動次第で。だから、簡単にフルのは控えたほうがいいのではないかと思った。僕は欲張りな人間だろうか。二人の女子を天秤にかけるような態度は。でも、失いたくない。二人のうちの女子がどちらか一方と付き合えたら嬉しい。でも、これは誰でもいいと同じ意味ではないか? もし、そう思われても仕方がない。僕は以前からこんな軽い男子だっただろうか。でも、中学生のときより今の高校生のほうが女子に興味津々かもしれない。思春期だからなのか。まずは明海にLINEを送った。
<こんばんは! 何してたの?>
返事は三十分程できた。
<どうしたの? 何でもいいじゃん!>
<相変わらずツンケンしているね。もっと穏やかに話せないの?>
<余計なお世話だ! 放っておいて!>
こりゃダメだ、僕のことが嫌いなのかどうかはわからないけれど、少し放っておこう。でも、いつもなんだよなぁ、僕に対しての態度は。やっぱり明海には相手にされてないかな。はーあ、溜息しかでない。
夜になって、
「母さん」
僕は呼んだ。
「なに?」
「母さんは父さんとどれくらい付き合ってから結婚したの?」
「どうしたの、急に」
「気になったから訊いてみた」
「うーん、何年くらいだったかなぁ。一年くらいかも。よく覚えていないよ」
「何歳で僕を産んだの?」
「そうだねえ、二十六のときかな。そうだ! あんたに見せたいものがあるんだ。忘れてた」
「なに?」
「こっちに来てごらん」
母の寝室に行った。すると、
「これ。あんたのへその緒よ」
「えっ! そんなの取ってあるの?」
「すごいでしょ」
母はそれを大切に保管してあるなんて感心した。それと共に嬉しくなった。
「お父さんがいればねえ……。馬鹿な人だよ、ほんとに……。自ら命を絶っちまうんだから」
言いながら母は悲しそうな表情を浮かべていた。
「思い出しちゃった?」
「ん。大丈夫だよ。気にしなくていいから。それにお母さんは現場を見てしまったから今でも鮮明に覚えているけど、あんたには見せられないよ、とてもじゃないけどあんな惨劇……」
「そんなに酷かったんだ」
「そりゃ、もう。この話やめよう。気分がよくない」
「そっか、ごめん」
「いや、大丈夫だよ」
「今日の夕食はなに?」
僕は訊いた。
「カレーだよ。あんた好きでしょ」
「うん、好き。辛めにしてね」
「わかってるよ」
さすが母親。僕の好みを知っている。
「明日の朝もカレーでしょ?」
「そうだね。たくさん作っておくから」
「うん!」
元気に返事をすると母は笑っていた。
「お風呂に入っちゃいなさい。その間にカレー作っておくから」
「わかった」
母に促されて、僕は自分の部屋に行き、下着とスウェットを持って風呂場に行った。
「寒いからお湯、熱めにしておいたからね」
「そっか、サンキュ」
気が利く母だ。
三十分くらいで風呂から上がった。
「ふーっ、気持ちよかった」
今は一月の厳冬期だから、湯舟に浸かっているのがとてもいい気分になれる。
「カレー、まだできてないわ」
母は苦笑いを浮かべていた。
「いや、まだお腹空いてないから大丈夫だよ」
「そう。今、煮込んでるから」
僕はリビングにある白いソファに座った。白いと言ってもだいぶ使っているので、汚れが目立つ。ぞうきんでこすっても落ちない。仕方ないからそのまま使っている。
「テレビでも観るか」
言いながらリモコンでテレビをつけた。バラエティ番組やNHKではニュースを放送していた。でも、面白くないと思ったので消した。そうこうしているうちに母に呼ばれた。
「和也、カレーできたよ」
「おっ! そうか。今、行く」
母さんのカレーは旨い。ルーが固すぎず柔すぎずで。食べてみると、やはりちょうどいいルーの固さだ。辛いし、美味しい! さすがだ! カレーのほかに唐揚げもあった。カレーは飲み物、という言葉がある。まさにそれだ。あまり噛まずに食べた。おかわりもした。とにかく旨い。
「ごちそうさま!」
「相変わらず食べるの早いね。ゆっくりかんで食べなさい」
母はいつも同じことを言う。
「それは無理だよ。カレーは飲み物だから」
「誰がそんなこと言い出しただろうねえ」
「さあ? わからない」
夕食をとったからか、眠くなってきた。なので、リビングのソファに座った。すると、いつの間にか寝ていた。気付いたときには二十二時になっていた。母の姿がない、寝たのかな。僕は起きてキッチンに行き、冷蔵庫を開けアップルジュースを一杯のんだ。再びリビングに戻り、電気を消して自分の部屋に戻った。
スマホを部屋に置いたままご飯を食べに来たので見てみると、LINEが一件きていた。開いてみると、美津からだった。本文は、
<こんばんは! 遅くにごめんね。何してた?>
という内容。
<ご飯食べてたよ>
<そうなんだ。明日、学校終わったらカラオケに行こう?>
<行きたいけど、今月の小遣いが残り少ないから、来月ならいいよ>
<そっか~。じゃあさ、今回はわたしがおごるから、来月おごってよ?>
<それなら行く!>
美津は笑いながら、
<ありがとう!>
と言った。
翌日になり、学校で何事もなく終わった。僕は美津のクラスに行き、笑顔で手を挙げた。
「今行く」
彼女も笑顔だ。
先に玄関で待っていると、五分ほどで来た。
「おまたせー」
「うん、じゃあ行こうか」
僕らは自転車に乗り、カラオケボックスに向かった。本当は危ないからいけないのだろうけれど、横一列に並んで走った。雪はまだ残っているけれど融雪剤がまかれていて溶けている。だから、滑ることはない。一応、僕が車道側を走り、歩道側を美津が走っている。配慮してあげないと。僕は男子だし。
「今日は天気がいいね!」
僕がそう言うと、
「そうだね! 良かった」
彼女は嬉しそうだ。
明海より美津のほうが性格もいいし、見た目は明海のほうがタイプだけれどでも、性格重視にしているから、もし付き合うなら美津のほうがいいのかもしれない。僕は気分屋だからコロコロと変わる。よくないと思いつつ、気分屋を変えることがなかなかできない。
好きな女子とは付き合いたい。でも、頭で考えて好きになるだろうか。そこが問題。恋愛感情という言葉があるくらいだから、きっと気持ちの問題なのだろう。
カラオケは三時間歌った。少し疲れた。
「楽しかったね! ありがとう」
「いえいえ」
「僕、バイトしようかな。小遣い足りないよ」
「そうなんだ。一カ月いくらもらってるの?」
「一万円さ」
「そうなんだ。もう少し欲しいよね」
美津は苦笑いを浮かべながら言った。僕は頷いた。
「美津はいくらもらってる?」
「わたしはバイトしてるからもらってないよ」
「あっ、そういえばそうだったね」
「うん、大変だけどね」
彼女は僕よりつらい思いをしている。えらいなぁ。でも、辞めないのはやっぱりお金が欲しいからかな? それとも、別な理由があるのか。あまり、お金に関して深く突っ込んで話したことないから、よくわからないや。
つづく……
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