第5話 告白
僕と美津は彼女のお姉さんの車に乗せてもらい、ファーストフード店に向かった。
「お姉さん、すみません。僕が弱いばかりに」
「いや、それはいいのよ。それより悪化する前で良かった」
「ありがとうございます」
美津は、
「そんなにかしこまらなくてもいいよ」
と言ったが僕は、
「いや、申し訳なくて」
そう言った。
「大丈夫だよ、本当に」
お姉さんは言った。
「そうですか、わかりました」
美津は、
「和也は本当に真面目なんだから。まあ、悪いことではないけど」
感心したように言っている。
七、八分走り到着した。
「着いた、私も一緒に食べていい? 夕食まだでさ」
お姉さんは言った。
「もちろんですよ! なあ、美津」
彼女は頷いていた。なんだか不満そうだ。
僕ら三人は車から降り、店内に入った。中は少し混んでいた。奥に二十代くらいのカップルと中年の男女が四人、親子と思われる客が三人いた。僕がコーラとハンバーガーとフライドポテトで、美津はカルピスとフライドチキンにした。お姉さんは、ジンジャーエールとハンバーガー、チキンナゲットを注文した。会計は全て各々で払った。それから僕らは入口の近くに座った。窓側にお姉さんが座り、僕と美津は並んで座った。お姉さんは僕と美津を交互に見ながら微笑んでいる。美津は、
「お姉ちゃん、どうして笑ってるの?」
「なんだか、お似合いの二人だなって思って」
お姉さんがそう言うと、
「でしょ!」
と美津は叫ぶように言いながら微笑を浮かべている。
「もしかして、美津、和也君のことを……」
お姉さんは話しを途中で切った。美津は焦った様子で、
「ちょっと、お姉ちゃん! 言わないで」
と言うので、
「ああ、そう」
言うのをやめた。
「うん? どうしたの?」
僕は美津とお姉さんの会話がよくわかっていない。
「いやいや、なんでもないよ」
美津は必死になって打ち消した。なんだか赤面しているようにも見える。どういうこと? でも、お姉さんの発言を止めていたから訊かない方がいいのかな。
「和也くんも鈍感だねぇ」
「え?」
お姉さんにそう言われ、なおさら気になった。
「なになに? なんですか?」
「和也、なんでもないから気にしないで」
美津は制した。なんでそんなに必死になにかを隠そうとするんだ? やましいことでもあるのだろうか。でも、美津に限ってそんなことはないか。ひとつ思い当たるのが、もしかしたら彼女が僕のことを好きなのでは? ということ。でも、告白されたわけじゃないし、はっきりとしたことはわからない。
「うん、わかった」
一応、そう言っておいた。僕の視線に気づいたのか、美津は、
「な、なに?」
苦笑いを浮かべながら言っている。
「いやあ、なんでもないよ」
僕のことが好きなのかどうかを確認しようと思ったがやめた。自惚れている感じがしたから。でも、もしそうだとしたらなぜ、告白してこないのだろう。恥ずかしいのかな、それとも何か別な理由があるのか。わからないけれど。
「そう、何か思っていることがあったら言ってね」
「わかった」
僕は笑みを浮かべていた。
僕たちは食べ終わったので帰ることにした。外を見ると雪がちらついていた。歩道は圧雪になっていて、歩きにくかった。車道は融雪剤をまいているので、少し溶けている。僕らは車に乗った。
「和也、わたしの部屋においでよ」
「えっ、いいの?」
「うん!」
お姉さんは黙っている。だめではないのだろう。
「なら、行く」
「やったー!」
美津はわかりやすい子だ。僕のことを好いていることがすぐにわかる。お姉さんの顔を見ると、密かに笑みを浮かべていた。きっと、僕と美津の会話が面白いのだろう。
お姉さんの運転は雪道なのでゆっくりだ。美津の家まで行くのに十分くらいかかった。車内は暖房がきいているから寒くない。ダウンジャケットを羽織っていたので暑いくらいだ。
美津の家には来たことがあるが、中に入ったことはない。彼女を迎えにきて夏場ならそこから自転車ですぐに移動する。
僕としては、今までそうだったのが相手が僕を好きだったら僕も好きになる、ということが多い。なので、僕の方から好きになるのは少ない。女の子に興味はもちろん、ある。でも、熱しづらく冷めやすい。だから、中学生の時も付き合ったことはあったけれど、慣れてきて相手の嫌な部分が見えると冷めてしまって別れた。一方的な別れ方だったから、酷く傷つけてしまった。でも、仕方ないと思う。だって、気持ちが冷めてしまったのだから。
美津はどうだろう? もし、彼女に告白されたら僕の気持ちはどう揺れ動くだろう。美津となら、と思う。まあ、告白された場合の話だから、取り越し苦労というやつかもしれない。
僕は美津に促されて彼女の部屋に入った。綺麗に整頓されていて、レモンの香りがする。女の子の部屋って感じ。そういう部屋で彼女は、
「座布団いる?」
と気を遣ってくれた。嬉しい。
「うん、ありがとう。優しいね」
「いえいえ」
僕は周りを見ながら、
「綺麗にしてるね! 女の子の部屋って感じ」
「えっ! ありがとう! 嬉しい。初めて言われた、そんなこと」
「そうなんだ、よかった」
「和也は褒め上手ね」
僕は笑ってしまった。
「本当のことを言ったまでだよ。褒めようと思って言ったわけじゃない」
「そっかー、意識しないで言えるのもすごい!」
美津は上機嫌、良かった。
「まあ、座ってよ。立たせたままでごめん」
言いながら僕の近くに座布団を置いてくれた。
「ありがとう」
僕はその上で胡坐をかいた。美津は絨毯の上に座布団を敷かずに目の前に座った。なんだか少し恥ずかしい。美津は顔を真っ赤にしている。僕と同じ心境なのかな。なにを話そう。考えているうちに美津がしゃべりだした。
「和也、顔が赤いよ」
吹き出していた。
「美津も真っ赤だよ、恥ずかしいよね」
彼女は笑顔で頷いていた。
「なんだか、わたしたち付き合いたてのカップルみたいね」
僕は黙っていた。彼女の気持ちに応えられるかわからないから。でも美津は、
「和也、わたしのことどう思ってる?」
突然だな、と思った。正直に言うべきか、濁すべきか。
「うーん、逆に美津は僕のことどう思ってるの?」
「わたしからいうの……」
「うん、できれば」
「わたしは、わたしは和也のことが……好きだよ」
やっぱりか、と思った。
「今度は和也の番」
「正直に言うね。今のところ美津に恋愛感情はほとんどないよ。でも、これから変わるかもしれない」
「そうなんだ……でも、好きになってくれるかもしれないんだね」
「わからないけどね」
「そうかぁ」
言いながら笑った顔は引きつっていた。傷つけてしまっただろうか。でも、今後どうなるかはわからない。もっと交流を深めていって、僕のことを好きだというアピールをしてくれたら。僕も好きになるかもしれない。でも、僕には気になる子がいる。同級生の関谷明海せきたにあけみ。彼女は僕に対して生意気なことを言うけれど、Mの僕にとってはそういう態度は好きだ。明海はどう思っているのかわからないけれど。からかわれているだけだろうか。そのうち、明海と遊びたい。美津に、他に好きな子がいると言っておいたほうがいいだろうか。期待ばかり持たせて断るのもどうなのだろう。そう思いながら僕は美津を見つめていた。
つづく……
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