第4話 僕の嘘と彼女の苦手な存在
今日も僕はズル休みをした。月曜日だからなおさらだ。土曜日・日曜日と連休があると登校したくなくなる。母には今日も、
「具合悪い」
と言ってある。相変わらず信用している様子。母の、鈍感さというか、息子を信用し過ぎているというのか、あまりにも痛い。
自分の部屋で僕はテレビゲームをしている。ドアにはかぎをつけてあるから、もし、母が来てもゲームを閉じる時間くらいはあるはず。
もし、うそがバレて母の信用を失いたくない。でも、父は僕が仮病で休んでいるというのは多分バレているだろう。
父は僕が気が弱いのは知っているはず。だから、責めないのかもしれない。傷ついたらかわいそうだと思っているからか。
ゲームは三時間、休憩挟まずにやった。さすがにつかれたので昼寝をした。目覚めたのは十六時を過ぎていた。寝すぎた、夜、寝れるだろうか?
そんな自分の心配をしつつ、夕食の時間になった。
父はすでに帰宅していて僕は、
「父さん、僕、今日具合い悪くて学校休んだよ」
と言うと、
「そうか、いまはどうなんだ?」
心配しているのかしていないのか訊かれた。
僕はさらに嘘をかさねた。
「まだ、具合い悪いよ」
父はだまっている。すると、
「おまえ、本当に具合い悪いのか?」
嘘がバレそうだ。どうしよう。
「ほ、ほんとうだよ」
思わずどもってしまった。
「イマイチ信用できんな」
今度は僕がだまる番だ。父は目ざとい、あいかわらず。
でも、このまま嘘を重ねるとなんだかまずいことになりそうで怖い。だが、ここで本当のことを言ったらどうなるだろう。嘘をつき続けなければならないような気もする。
それで、登校するようになれば結果オーライだ。うん、そうしよう。
翌日――。
僕は登校した。遅刻もせずに。
バレないうちに登校するのは要領がいい、というのか、ズルいというのか。
僕は勉強がきらいなので授業中も寝てばかりいる。そして、注意をされる。きっと内申点は低いだろう。テスト前には毎回、一夜漬けだ。友達のノートを写させてもらってそれを丸暗記する。
国語・数学・物理・英語・公民がテストに出る。期末テストは来月だ。今回は一週間前から準備しようと思う。
友人の木田康介きだこうすけはいま何をしているだろう? カラオケに一緒に行きたいのだが。LINEを送ってみよう。
<木田、オス! なにしてる? カラオケ行かないか?>
約一時間後、返信がきた。
<これからか? もう八時だぞ。行けないわ。親もうるさいし>
それを見て、がっくりした。まあ、木田も真面目なやつだから親には反発しない。僕とはちがうから。じゃあ、僕に好意を寄せていると思われる女子の高坂美津こうさかみつを誘うか。でも、美津を誘うと僕も気があるのではと勘違いされるかもしれない。どうするか。まあ、勘違いしても、そんなつもりはないと言えばいいか。僕は、ひどいやつかな。
とりあえず、美津にLINEをおくった。
<こんばんは! なにしてた? カラオケに行かない?>
彼女はスマホを観ていたのか、すぐに返信がきた。
<こんばんは!! LINEありがとう! うれしい。カラオケね。行きたいけど、ちょっと時間帯が遅いかも。一応、おかあさんに訊いてみるね>
少し待っていると、
<送ってってあげるから行ってきなさいって! やったー! すこし待っててね。支度してからいくから>
それを見てから僕も用意をはじめた。まず、シャワーを浴びてから着替えをした。白と黄色のグラデーションがはいったロングTシャツを着て、ダメージジーンズをはいた。その上からダウンジャケットを羽織った。
それから約一時間待って僕は自分の部屋からでた。<着いたよ!>というLINEがきたから。
僕は母に、
「でかけてくるわ」
と言って家をあとにした。母からの返事はなかった。聞こえているならなにか言えばいいのにと思うけれど。まあ、いいや。
僕の家のまえにジープが停まっていた。美津の親の車だろう。彼女はこちらを見て笑顔で手を振っている。なかなかかわいいじゃないか、と思った。
僕は車に近づき、運転席に美津のお母さん? と、美津が助手席にすわっていた。
美津は窓を開けて、
「こんばんは! 後部座席に乗って」
そう言った。僕は
「わかった」
返事をした。
ジープのうしろのドアを開けて二十代くらいの女性がこちらを見て、
「こんばんは。美津の姉です」
言った。
「こんばんは! 初めまして。押辺和也といいます」
「和也君と呼んでいいのかな? それにしても、めずらしい苗字ね」
「あっ、そう呼んでください。たまに言われますね、めずらしいって」
「でしょう? はじめて聞いたから」
「美津のお姉さんも一緒にカラオケどうですか?」
お姉さんは笑っている。そして、
「私はいいよ、誘ってくれてありがとう! ふたりで楽しんできて」
そう言うと僕は、
「そうですか、残念です」
「今度ね」
「わかりました」
地元のカラオケボックスには車で十分くらいで着いた。
美津は姉に、
「帰りもいい?」
と訊いていた。
「うん、いいよ。LINEちょうだい」
「わかった」
亜由さんが帰ったあと僕は、
「お姉さん、やさしいね!」
言うと、
「いつもは送り迎えしてくれないんだけどね」
「へー、そうなんだ。今日だけ特別かな?」
「うーん、わかんない」
言いながら店内にはいった。
なかは、派手な装飾で壁が明るい。高校生が十人くらい並んでいた。知っているやつらがいた。でも、僕は知らない振りをしていた。すると、知っているやつが声をかけてきた。
「おっ、押辺じゃねえか。今日は女連れか。うん? なんだ、高坂か。かわいくねえ女つれてるな」
僕は頭にきたので言い返した。
「おまえに関係ないだろ! 僕が誰と遊ぼうと!」
「けっ! 好きにしろ」
そう言ってそいつは伝票だけを持って三人で奥に向かって行った。
「誰? いまの。わたしのこと知ってるみたいだったけど」
「評判の悪い、酒井だよ。知らない?」
美津は不思議そうな顔をしていた。
「知らない。何だか怖いな。ここに居たくないよ」
彼女は怯えているように見える。
「じゃあ、何か食べに行く?」
「え、でも、和也君は歌いたいんでしょ?」
僕は困った。確かに歌いたい、でも……。
「いやあ、僕は今度でもいいよ。美津がそんなにアイツのことが嫌なら無理に居ようとは言わないよ」
「……ありがとう。わがまま言ってごめんね」
「ハンバーガーやフライドポテト食べたい?」
僕がそう訊くと、
「うん! 食べたい」
そう言ってから、カラオケボックスを出た。
歩いて国道沿いのファーストフード店に向かった。
そして、二十分くらい歩いただろうか、少し疲れた。
「美津は疲れてない? 大丈夫?」
「う、うん。大丈夫だと思う」
「そっか。なら、いいけど」
美津は僕に、
「和也君は疲れたの?」
訊かれた。
「少しね」
「実はわたしも」
「あら、大丈夫?」
「うん、大丈夫。もう少しだからがんばる」
「そうだね」
言わなかったけれど、僕は靴ずれを起こして痛かった。でも、美津は頑張ると言った。僕はそれに賛同した、だから頑張らなければいけない。そういう義務感だけが僕を支配していた。
そして、更に十五分くらい歩いた。僕は踵かかとに激痛が走った。
「痛っ!」
「ど、どうしたの?」
「靴ずれが痛くて」
「えっ! そうだったの? 言ってよー。お店まではまだ暫く歩かないといけないから、お姉ちゃん呼ぶよ!」
「わかった、ごめんね……」
「謝らなくていいから」
「うん、ありがとう」
きっと、これくらい歩いただけで靴ずれになるなんて、弱い男子だなと思われているかもしれない。でも、そう思われても仕方ない、事実だから。
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