第3話 家での時間
僕は、相変わらず独り、部屋で読書をしている。でも、寂しくはない。今日は、月曜日で学校に行く日だったけれど、無断で休んだ。だから、階下の電話が時々鳴る。きっと、担任の先生からだろう。僕は、電話に出る気はない。
この前、買ったミステリー小説は今、読み終えた。次は何読もう。三冊、中古で買ってあるので少しの間は読書に読みふけっていられる。趣味は読書。本さえあれば友達はいらない。
明日は登校しようと思っているが、担任の教師に会うのが気まずいな。まあ、いいか。留年さえしなければいいと思っている。でも、今のペースでいけば、もしかしたら留年になるかもしれない。それは、さすがにやばいな。
土日以外に一回は休んでいる。だからといって、体調が悪い訳ではない。ただのサボりだ。悪いことだとは分かっている。でも、学校に行きたくないのだ。嫌いだ。同じクラスでも、仲間とは呼びたくない。やはり、僕は一人でいるほうが好きだ。
母には、具合い悪い、と言ってある。馬鹿な母だ。息子の嘘を見抜けないなんて。でも、父は違う。元々、疑り深い気質の人だから、
「本当に調子悪いのか?」
と、訊いて来る。そういう時、僕はバレないように黙っている。寝ているフリだ。でも、父の目は節穴ではないようだ。何故、バレるのかは分からないが、
「お前、狸寝入りしても駄目だぞ」
淡々と言ってくる。これには、参る。でも、父の厳しい意見のお陰で登校が出来ているのかもしれない。ある意味、感謝しないといけない。でも、ありがとう、とは言いたくない。だから、正直、父のことはあまり好きじゃない。目ざといところが苦手。それなら、母の方が好きな部類に入る。母は馬鹿だけれど、優しいところがある。父は母の何処を好きになったのだろう。やはり、優しいところか。逆に母は父の何処を好きになったのか。男らしいところなのか。どちらにせよ、僕には理解できない。
今は、午後二時頃。家の敷地内に車が入って来る砂利の音がした。母だろうか。パートに出ていて、帰宅したのか。カーテンをチラリとめくり、二階の窓から外を見た。すると、
四トントラックが来ていた。宅配のようだ。少し、様子を窺っていると家のチャイムが鳴った。何を運んで来たのだろう。
僕は、玄関に行ってみた。
「はい!」
と、言うと、
「宅急便でーす!」
大きな声が聞こえた。なので、鍵を開けてからドアを開けた。やや大き目な段ボールを受け取った。
「サインお願いします」
言われ、フルネームで
僕は、カレンダーを見た。
「あっ、今日、母さんの誕生日だ!」
思わず口に出していた。あいつ、よく覚えていたな。さすが女子、細かいところにも気づきがあるな。中身はなんだろう? 段ボールに添付されている送り状を見ると、商品名の欄に「鞄」と書いてある。なるほど! と、思った。母さん、きっと喜ぶだろうなぁ。それにしても、妹は高校生なのに鞄を買うお金持っていたんだな。バイトでもしてるのかな、訊いたことがないけれど。僕は、母さんに何あげよう。とにかくお金がない。今月はまだ上旬だというのにあと三千円しかない。ゲームのソフトを買ったからだ。母さんの誕生月だということをすっかり忘れていた。僕は、毎月、一万円小遣いをもらっている。妹にはいくら仕送りしているのかな。
僕の趣味は、読書とゲーム。読書はミステリーが好き。ゲームはアクションが好き。
小学生の頃は、絵本を見ていた。文字は全て平仮名で書かれてあるもの。たまに、書店に母さんと行っては絵本をねだっていた。それでも、母さんは嫌な顏をせず、買ってくれた優しい母。そんな母に嘘をついて、馬鹿呼ばわりしてしまう性格の悪い僕。
今は午後三時過ぎ。母は確か、午後三時まで仕事のはずだ。真っ直ぐ帰宅したらもうすぐ来るだろう。
玄関は念の為、ロックしてある。変な宗教の勧誘などが来る時があるから。変な教えを書いた冊子を貰ったことがあるが、意味不明だった。それ以来、僕はそれを毛嫌いしている。だから、玄関のチャイムが鳴った時は、警戒してしまう。なるべく、「どちら様ですか?」と訊くようにしている。不要な客人は「結構です」と言い、断っている。たまに冗談で、父が帰宅してチャイムが鳴って「どちら様ですか?」と言った時、「俺だよ」と答えた時、「結構です」と言った時はウケた。父はムキになって、「俺だ! 俺!」と言っていたから。あんまりやると、マジ切れされても困るからほどほどにしておく。
父は、母さんの誕生日に何をあげるのかな。高貴な宝石か、それともブランドものの服か。
分からないけれど、何かはあげると思う。僕は、どこにでもいるような高校生で、沢山、小遣いを貰っているわけではない。だから、父のような高給取りが愛する妻に何をプレゼントするのか興味はある。僕が、愛する妻に、という表現をするのはいささか滑稽ではあるが。
少しして、家の前に車が停まった。中から見てみると、母が帰って来たようだ。もう少し小遣いが貰えないか交渉してみよう。月の上旬で残り三千円で来月まで過ごすのは、きつすぎる。もらえるかどうか分からないけれど。
少しして、家のチャイムが鳴った。僕は玄関から、
「母さん」
呼んだ。すると、
「和也、ドア開けて。荷物多くて」
そう言われ、鍵を解除してドアを開けた。
「ありがと。一袋持って」
面倒だな、と思いつつ買い物袋を一つ持ってあげた。確かに重い。よく持ってきたな。流石、おばちゃんパワー。これは言わないけれど。機嫌を損ねて、小遣いをもらえなくなったら困るから。
台所に重い荷物を二袋運んで、食材などを母が冷蔵庫などにしまって落ち着いてから、僕は話し出した。
「母さん」
居間にいて母はテレビを観ている。それに集中しているせいか、返事がない。もう一度、
「母さん!」
と、少し大きめの声で呼んだ。すると、ようやく気付いた。
「どした?」
テレビを観ながら母は笑っている。なので、余計言い出しにくい。
「……あの、小遣いをもう少し貰えないかなと思って」
「え?」
母は真顔になった。
「この前、お小遣いあげたじゃない」
いいながらこちらを見た。視線が刺さるようで痛い。
「ちょっとゲーム買っちゃって……。どうしても欲しかったのを今まで買わずに我慢してたんだ」
母の表情を窺うと、複雑な気持ちなのかな、と思った。
「全くもう! 仕方ないね! これで今月済ませなさいよ!」
母は五千円くれた。
「ありがとう」
と、礼を言ったが何も言われなかった。まあ、いいや。
今回、買ったゲームは欲しいというのもあるけれど、友人の大道隆と話についていくため。
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