第2話 彼女と過ごす時間

 俺は、大道隆。押辺和也おしのべかずやと友達。彼も俺しか友達がいないようだが、俺も友達は押辺しかいない。でも、彼女はいる。皆藤恵かいとうめぐみという子で、ぽっちゃりしているものの、すごくやさしい。俺は恵のやさしいところが気に入っている。同級生だ。卒業後も付き合いたいと俺は思っているが、お互いの進路に寄ってはどうなるか分からない。この前、話した時は大学に進学して、看護師になりたいと言っていた。地元に大学は無いので、地方に出るしかない。俺の進路は……頭が悪いから、進学は無理だと思う。だって、留年ぎりぎりだから。赤点の教科が多い。だから、就職だろう。親も進学しないで、就職して、家にお金を入れて欲しい、と言ってるし。貧乏な家庭だから、大学に行くお金もないようだ。


 大学なんて行かなくたって、生きていける。負け惜しみに聞こえるかもしれないが、事実そうだ。


 彼女の恵は今、何をしているだろう。友達と通話でもしているのかな。会いたい、なので、LINEを送った。


<恵、何してた? これから会わないか? 会いたいよ>


 暫く返信はこなかった。何をしているのだろう。だんだん、苛々してきた。短気なのが俺の悪い癖。


 待ちきれなくなった俺は電話をかけた。呼び出し音も十回くらい鳴らした。


 そして、ようやく繋がった。

「もしもし? 恵」

『はい、電話かい。まあ、いいけど』

「LINE送ったんだけど、気付いていないの?」

『え? そうなの? ごめん、見てなかった。今、見るね』

 俺は、チッと舌打ちをした。やっぱ、見てなかったか。

「お前、もしかして俺のこと無視しているのか?」

 あっ、お前って言ってしまった。でも、謝らないぞ。

『あっ! お前って言ったー! お前って言わないでよ! 名前あるんだから!』

 その言い方に腹が立ち、俺は、

「なんだよ! 俺のLINEに気付かなかったくせに!」

 そう言うと、恵は、

『何よ! そんな言い方しなくたっていいじゃない!』

 俺は、言ってはいけないことを言ってしまった。

「俺の言い方が気に食わないなら、別れるか!?」

 恵は、ため息をついた。

『何でそうなるわけ? ちょっとしたことで、別れるなんていうのは精神年齢が低い証拠よ!』

「お前というやつは……!」

俺は今すぐにでも、彼女を張り倒したかった。

『ほら! また、お前って言った!』

「うるさい!!」

 俺は気持ちに歯止めがきかない。これ以上、言い合ったら本当にやばい、と思った。なので、電話を切った。

 落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせた。ふーっと、深呼吸もしてみた。だが、なかなか怒りが静まらない、どうしよう。

 恵はいきなり電話を切られて尚更、怒っているのでは。なので、LINEを送った。

<お互い、頭を冷やそう。このまま言い合っても、埒があかない>

 だが、返事はなかった。なぜだ。俺に精神年齢が低いとか言っときながら、自分はLINEを返すこともしないのか。それとも、また気付いてないとか。

 それから約一時間後。

 恵からLINEがきた。

<ごめん、またLINEに気付かなかった。ごめんね……>

 彼女は謝ってきた。少しは頭が冷えたかな。俺は、返事を送った。

<どうやったら早めに気付くかな? いきなり通話か?>

<それは、やめてよ。親がいる時もあるんだから。少しくらい待ってよ>

 俺は、心の中で、少しじゃないから言っているのに、と思った。でも、それは言わなかった。また、揉めるのも嫌だし。

 俺と恵は、十六の頃から付き合って、約一年になる。こういうふうにかなり酷い口喧嘩をする時もたまにある。でも、最後は恵が謝る。そこが、可愛いと思う。結局、素直なやつなのだ。

 俺は再度、LINEを送った。

<今から会おう?>

 今度は返信が早かった。

<うん。私も会いたい>

 よし! と、俺は思い、

<冬休みだから、恵の家まで迎えに行くよ。時間はあるから、徒歩でと、送った。

<わかった、ありがとね>

 三十分くらい歩いて、恵の家に着いた。チャイムを鳴らすと、お母さんが出て来てくれた。

「あら、隆君。久しぶりね! 元気にしてた?」

 相変わらず、明るいお母さんだ。優しいし。そういうところが恵は似たのかな。

「元気ですよ!」

「なら、良かった」

 俺は、彼女に言った。

「さっ、行こうか。恵」

「うん!」

「お母さん、ちょっと出かけてくるね!」

「あいよ」

 恵のお母さんは笑顔で送り出してくれた。

 今は、午後一時三十分過ぎ。

「マックに行くか?」

「うん、いいよ」

 俺は手を差し出した。彼女はスッと俺の手を握った。俺は嬉しくて笑みを浮かべた。恵も同様に。大好きな彼女だから、大切にしたい。守りたい。そう思っている。

 それにしても雪道だから、歩きづらい。たまに、雪の下に氷が張っているので、油断すると危ない。

「転ばないように、気をつけろよ」

「うん、ありがとう。隆もね!」

 俺は、ふと思った。押辺とは最近、話してないが、元気にしているのかな。あいつの性格は暗いけれど、大丈夫だろう。孤独を愛するやつだから。

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