38話:また厄介ごと?

 帰りの日となった。


「これ、二人のために作ったんだ」


 俺は祖父母に、作ったお守りを手渡した。


「お守りか」

「うん。健康を祈っといたよ。後は厄除けだね」

「一応首掛けにもできるようにしてあるから」

「いつ作っていたんだい?」

「ばあちゃんとじいちゃんの目を盗んでね」


 俺の答えに、二人は笑い、そして守りを首にかけた。

 シンプルだが、しっかりと効果はあるだろう。


 腰が悪いと言っていたが、明日にでもよくなっているはずだ。

 また二人で山頂の神社に咲く、桜の木を見れることを祈っておこうか。


「もう、お兄ちゃん。言ってくれれば私も作るの手伝ったのに!」


 不満げな表情をする陽菜。

 陽菜の言う通り、声をかければよかったのだが、如何せんスキルを使うところを見られてはマズい。

 それ故に言わなかったのだが、お守り袋でも作ってもらえばよかったと後悔している。


「次何かする時は陽菜にも声をかけるから、それで許してくれって」

「アイス」

「え?」

「アイス買ってくれたら許してあげる」

「なら私も便乗しておくわ」

「アウラまで……はぁ……」


 ため息を吐く俺に、じいちゃんが俺の肩を叩いた。


「陽菜にも黙っていたのはダメだのう」

「うっ……分かったよ。好きなアイス買ってやるよ」

「やったぁ!」

「やったわね!」


 陽菜とアウラは嬉しそうにハイタッチする。

 そして、俺たちは祖父母に見送られ、帰るのだった。


 帰ってから数日。

 学校も始まり、魔物とも遭遇が少なく、平穏な日々が続いていた。

 放課後、陽菜とアウラを迎えに行き、家と帰る。

 夕食が食べ終わり、ゆっくりしていると、家での電話が鳴った。

 俺が出ると、電話の相手はおばあちゃんであった。


「ばあちゃん、どうしたの?」


 話を聞くと、俺たちが帰った次の日から、じいちゃんが腰の調子がいいと言っていた。

 さらに数日がすると、腰が悪くなる前よりさらに絶好調だという。

 それはばあちゃんも同じだったようで、今日、例の山まで向かったという。


「まさかまた、あそこに行けるとは思わなかったわ。勇夜から貰ったお守りのお陰かしら?」

「そう言ってくれると、俺も作った甲斐があったよ。それに、じいちゃんとばあちゃんが元気なら、俺と陽菜、それにアウラだって嬉しいからね」

「ありがとう。おじいちゃんも勇夜に「ありがとう」と言っていたわ」

「うん。でも絶好調だからって、普段やらないような無茶はしないようにね」

「分かってるわ。それじゃあそろそろ切るわ」

「うん。おやすみ」


 俺が電話を切ると、陽菜とアウラがこちらを見ていた。


「おばあちゃんだったの?」

「ああ。腰が治ったって」

「本当⁉」

「本当だよ。それで今日、あの山まで行ったそうだよ」

「元気になって良かったぁ~……」


 安心したように、それでいて嬉しそうな表情をしていた。

 アウラが俺を見ている。

 当然、アウラは俺が二人に渡したお守りの正体を知っている。

 陽菜に聞こえないように、アウラが俺に言う。


「身内には甘いわね」

「それが俺だよ」


 俺の答えにアウラは、やれやれと言いたげな表情をしている。

 そんなこんなで、今日は俺たちにとって、嬉しい日になったのだった。


 翌朝。

 俺が学校に向かっていると、彩華に遭遇した。

 向こうも俺に気付いたようで、手を振っている。


「おはよう」

「おはよう、勇夜くん」


 挨拶を返してくれる彩華ではあるが、表情が少し暗い。


「何かあったのか? 魔物関連なら力になるが」

「ありがとう。でも、今回は違うのです。いや、もしかしたらそうかもしれないのだけど……」


 いまいち要領が掴めない。

 何を言いたいのか。


「どういうことだ?」

「今日、転校生が来るのだけど……」


 今は春だ。

 来るにはちょうどいい時期だろう。

 それを伝えるのだが、そうではないらしい。


「その転校生が問題なのです」

「転校生?」

「そうです。実はその転校生は、ヴァチカンの悪魔払いエクソシストなんですよ」

「エ、エクソシスト……? 実在するのか……」

「実在しますよ」

「エクソシストってアレだろ? 悪魔を祓ったりする者たちだろ?」

「はい。概ねその解釈で間違いありません。世間一般ではそう言われてますからね」

「で、何が問題なんだ? そこまで顔色を悪くすることもないだろう?」

「実は――」


 彩華から告げられた言葉に、俺は素で驚くのと同時に、また厄介ごとに巻き込まれることになると考えたら、憂鬱になるのだった。


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