37話:お守りと山頂の神社
戻った俺とアウラは、陽菜と祖父母と朝食を食べていた。
「勇夜、今日帰るのか?」
「そろそろ帰ろうかなって思ってた」
「お兄ちゃん! もうちょっといてもいいでしょ?」
陽菜が頬を膨らませて反論する。
俺は困った表情をして、アウラと祖父母を見た。
一度駄々を捏ねた陽菜を止めるには苦労するのだ。その意味を込めて、助けを求めた。
「陽菜も分かっているでしょ? 明後日から学校なのよ」
「うっ……」
アウラの言葉に、祖父母も頷いた。
「陽菜、あまり駄々を捏ねるではない。また戻ってこれるであろう?」
「そうよ、陽菜。我儘を言ってお兄ちゃんに迷惑をかけないように」
「はい。ごめんなさい……」
陽菜が祖父母の言葉にシュンと落ち込む。
「また近いうち来るさ。俺もここは好きだからな」
優しく頭を撫でてやると、陽菜はフンッとそっぽを向いてしまった。
「当たり前じゃん! 私だっておじいちゃんとおばあちゃんがいるこの場所が大好きだもん!」
陽菜の言葉に、俺はプッと吹き出してしまう。
「ちょっ、お兄ちゃん! なんで笑うの⁉」
そしてアウラと祖父母も笑い出したのだった。
その後、アウラと陽菜は祖父母の畑の手伝いをしていたが、俺は途中で用事があると言って近場の森へと入った。
アウラは知っているが、俺は祖父母にお守りを作ろうと思っていたのだ。
山へと入り、あの桜の木がある山頂へとやってきた。
すると、桜の木の下に人影があった。
どうやら一人のようだ。
よく目を凝らして見てみると、桜の木に座っているのは巫女服を身に纏っていた。
俺はこの人を知っている。
声を掛けようとするよりも早く、彼女が先に口を開いた。
「勇夜さん、ですね?」
「気付いていたか」
「はい。これほどの妖力を持っている方はあなたくらいですからね」
彼女、サクラはそう言ってクスクスと笑った。
「失礼な。俺は普通だよ。サクラ、隣に座ってもいいか?」
「どうぞ」
俺はサクラの隣に腰を下ろし、桜の木に背を預け、景色を眺める。
いつ見ても綺麗な場所だ。俺はこの場所を守れて良かったと思う。
「ところで勇夜さん。ここに何用ですか? アウラさんの姿が見当たらないようですが……」
見渡すサクラに俺は答えた。
「今日は俺だけだ。ここに来ることも誰にも伝えてない」
「ではどうして?」
「俺のじいちゃんとばあちゃんにお守りを作ってあげようと思ってな」
「お守りですか。いいですね」
「サクラは一人か?」
サクラは景色を眺めながら、懐かしそうに口を開いた。
「はい。社を抜け出して来ちゃいました」
「抜け出したって……大丈夫なのか? 特にカエデとか、心配しているぞ?」
「してると思います。でも、私も勇夜さんと同じく、この場所が大好きだったんです」
「そうか。隣でお守りを作っていてもいいか?」
「どうぞ。どうやって作るのか興味があります。見ていてもいいですか?」
「作るって言ってもすぐだ。スキルを使うからな」
「すきる?」
スキルという言葉に首を傾げるので、俺はサクラに、スキルについて簡単に説明する。
「スキルというのは――……」
サクラに説明し、俺は質問にも答えた。
そして収納魔法から素材を取り出すのだが、そこでまた、サクラから質問があった。
「あの、それは……何もないところから物が」
「これは収納魔法といって、モノを別の場所、異空間に保管できる魔法なんだ。容量はその人の魔力量、妖力の量に依存するけどな」
「異世界の魔法となるものは、凄いですね」
「だな。俺も最初見た時は驚いたよ」
素材を取り出した俺は、様々なスキルを駆使してお守りを作成していく。
とはいっても、ものの数分で完成した。
お守り袋に中には、魔法を付与した紙を封入してある。
効果は所有者の健康と魔除けだ。
出来はまあまあだろう。
サクラは俺の手際を見て感嘆の声を漏らしていた。
「凄いですね。普通の魔物や妖は近づけない代物ですよ。こんな短時間でこんなものを……」
「まあ、こんなものだよ。そうだ。ちょっと待っててくれ。サクラの分も作るよ」
「私の分ですか?」
「ああ」
俺は収納魔法から素材を取り出してスキルで加工していく。
それからしばらくしてできたのは、二つの耳飾りだった。
「サクラとカエデの分だ。俺からのお礼も込めて、プレゼントするよ」
「わぁ~、ありがとうございます」
受け取ったサクラは俺を見る。
「あの、これにはどういった効果が?」
「それに魔力を、妖力を流すと結界が発動する。まあ、防御だな。茨木童子くらいの攻撃からなら余裕で防げる」
「それは強力ですね……いいのですか?」
「言っただろ? お礼を込めたプレゼントだよ」
「では有難く頂戴します。カエデにも渡しておきます。ありがとうございます」
優しく微笑みお礼をするサクラ。
それから少しの間、サクラと談笑し、昼前には帰るのだった。
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