36話:倒した後

 無事に茨木童子を倒した俺たちは、妖の里へと戻るため、来た道を戻っていた。

 帰る際、祠を確認したのだが、封印の祠は見事に砕けていた。

 壊れているからといって、今後何かが起こることはないようだ。


 二人のお気に入りの場所が無事なことに安堵した。

 後で回復効果のあるお守りでも作って渡しておこう。

 腰を悪くしたとか言っていたから、また散歩ができるといいな。


「ところ勇夜さん、少しお聞きしたことが……」


 里に戻りながら、どんなお守りを作ろうか考えていると、カエデが俺に聞いてきた。


「あの時の剣や、妖術のようなものは一体?」

「これのことか?」


 そう言って俺は手のひらに、小さな火の玉を出現させた。

 他の面々も不思議そうに見ているので、俺は説明する。


「これは魔法と呼ばれるものだ」

「魔法ですか。妖術とは違いのですか?」

「違うと言えば、違うが、原理はあまり変わらない。ただ魔法の方が上位互換なだけだな」

「原理が同じなら私にも使えるでしょうか?」

「やってみないと分からないな。俺がこの力を使えるのは、別の世界で戦っていたからってだけだ」

「別の世界、ですか?」


 余計なことを言ったかとも思ったが、この力を説明するならこのことを話さなければならない。


「まあ、このことは向こうについてから話すよ」

「分かりました」


 そんなこんなで俺たちは山を駆け、里へと戻った。

 里に戻ると、アウラが待っていた。


「終わったようね。にしても随分と派手にやったみたいだけど?」


 アウラにはバレていたようだ。

 まあ、魔力反応が分かるのだから、あれだけ派手にやればバレるのも当然だ。


「サクラが焦っていたわ。私が説明したから大丈夫だったけど」

「助かる。まあ、とりあえずサクラのところに行くとしようか」

「そうね」


 そのまま俺たちは向かい、部屋へと通される。

 サクラが無事な俺やカエデを見て安堵していた。


「よく無事に戻ってきました」

「これでもう、大丈夫だ。敵の首魁は倒した」

「首魁、ですか?」


 頷いた俺やカエデ。

 カエデが山頂での出来事を説明していく。


「まさか、封印されていたのが茨木童子でしたとは……」


 茨木童子がいたということに、驚きが隠せないでいる面々。

 確かに酒吞童子の配下、それも四天王となると動揺するのも仕方がない。


「ですが勇夜さんが茨木童子を倒したことで、魔物の大群もいなくなりました。姉様、これで里に平穏が訪れます」


 カエデのその一言で、本当にこれで終わったというのが読み取れた。

 安堵する面々に、カエデが俺に尋ねた。


「勇夜さん。それで、別の世界というのは?」

「そうだな。少し長くなるが話そうか。俺がこの力を手に入れるに至った経緯を」


 こうして俺は、異世界に勇者として召喚されてからのことを話した。


「それで、魔王の娘であるアウラをあのまま残していては、殺されると思って連れてきたんだ」

「そうでしたか。魔法は私たちに使えますでしょうか?」

「どうだろうな? 試しにカエデに詠唱させてみるか」


 みんなも魔法に興味があるようなので、どうにか会得できないか試すのだが、結果は失敗。

 発動することもできなかった。

 この結果から推測するに、魔法とは向こうの世界の者しか使えないのではないだろうか。

 あるいは、体の組織が向こうと混ざっているからとか。

 考えられることは沢山ある。

 それよりもだ。


「直に朝を迎える。俺とアウラは戻るが、多分、次に会えるのは当分先になりそうだ」


 俺の言葉に、カエデやサクラが、少し寂しそうな表情をする。


「まだ恩返しができていないのに、もう帰られるのですか……」

「何言ってる。これはあの時の借りを返しただけだ」

「私にとって、いえ。私たちにとって、これは返しきれない大きな恩です。そうですね、これを二人にどうぞ」


 そう言って俺とアウラは、サクラから二つの桜色のお守りを貰った。


「これは?」

「形はお守りですが、これがあればこの里が簡単に見つかると思います。基本は妖術を使って人間が近づかないように、遠ざけていますので」

「なら有難くいただいておくよ。あと、これは俺から」


 俺は収納から小さな水晶が嵌っているブレスレッドを渡した。


「『念話のブレスレット』という、それに魔力、ここでは妖力だったな。流せば俺に届くようになっている。会話ができるから何かあれば連絡をくれ」

「分かりました。有難く頂戴します」


 うっすらと空が白み始めた。


「それじゃあ俺たちは帰るよ」

「はい。一同、勇夜さんとアウラさんに感謝いたします。この御恩は忘れません」

「アウラ、帰るぞ」

「そうね。早く帰らないと怒られるからね」

「まったくだ」


 こうして俺とアウラは、妖の里を後にし、家へと帰るのだった。



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