35話:VS茨木童子③

 俺は戦闘系のスキルを発動。

 茨木童子が俺の雰囲気の変化に気付き、小さく「ほう」と声を零した。

 互いに睨み合う。

 静寂の中、先に動いたのは茨木童子だった。


 迫る切っ先はとてもゆっくりで、俺は顔を僅かに傾けることで躱す。

 驚いた顔をする茨木童子だが、攻撃の手は緩めなかった。

 立て続けに攻撃を続けるが、それでも俺に掠り傷一つすら付けられていない。

 茨木童子が大きく距離を取ったが、俺は見逃さずに詰め寄った。


「――なっ⁉」


 10メートルほど距離があったのにも関わらず、一瞬で間合いに詰め寄った俺を見て驚きの声を漏らした。


「はっ!」


 振るわれた聖剣に反応が遅れた茨木童子だったが、キンッという甲高い音が響いた。

 何とか弾いたようだが、それだけだ。

 俺の攻撃はまだ終わっていない。

 茨木童子が妖術を使えるように、俺は魔法を使える。

 そして茨木童子の体勢が崩れ、足元に視線を落とした。


「んなっ⁉ これは一体!」

「知らないか? 魔法だよ」


 俺は茨木童子の足元の一部に、ぬかるみを作ることで体勢を崩させたのだ。


「魔法だと⁉ 可笑しな妖術を使う!」


 振るわれ妖刀を下がることで躱す。

 ぬかるみから脱した茨木童子に、俺は答えた。


「まあ、妖術よりは魔法の方が応用力などもあるからな。こうした小技は妖術じゃあできないだろ?」

「小癪な! ――羅生門!」


 羅生門が現れ、無数の魔物が出現し、俺へと迫る。


「――エアカッター!」


 俺が腕を振るうと、迫っていた無数の魔物が上下に切断された。

 だが、今までの魔物とは違い、斬られた個所から再生を始めた。


「無駄だ。それらは蘇る不死の魔物よ」


 黒い笑みを浮かべる茨木童子ではあるが、残念かな。

 たとえ再生しようと、魔は聖には敵わない。


「無駄というなら教えてやる。不死など存在しないと。――浄化の炎ホーリーフレア


 手のひらを向けると、そこから青白い炎がブレスのように魔物たちへと燃え広がる。


「無駄だ! たとえ炎だろうと再生する!」

「そうかな? よく見てみることだ。浄化という言葉の意味を理解するはずだ」


 言われて見たのだろう。炎に包まれた魔物は塵となりながら、再生することなく消えていく。


「再生しない……浄化。そうか、なるほど。だが、それがどうした! まだ私がいる!」

「お前に勝ち目はない」

「なに?」


 俺は聖剣を茨木童子へと突き付けて言い放った。


「お前は俺よりも――弱い」

「――ッ!! 小僧が調子に乗りよって!」


 迫る茨木童子の右腕が飛んだ。


「は?」


 俺に斬られた肩を見て、次に落ちた腕に視線を落とした。

 切断されて地面に転がる腕は、切断面から徐々に塵となって消えていく。


「一体なにが起きた……? 何をした?」


 痛みを感じないのは妖怪だからだろうか。

 そんな疑問はさておき、俺は茨木童子の疑問に答えた。


「斬った。それだけだ」

「見ればわかる! いつ斬った! 私には貴様が動いたのが見えなかった!」


 それもそのはずだ。だって実力が違いすぎるのだから。

 本気を出した今の俺なら、かつての魔王すらも少しは苦戦するだろうが、確実に倒すことができるのだ。

 そんな魔王、いや。魔王軍の四天王にすら及ばない茨木童子など、俺の相手ではない。


「それがお前の限界だ。どれだけ強くなったとしても、今の俺には敵わない。そろそろ永久の眠りについたらどうだ? 俺が茨木童子、お前に引導を渡してやるよ」

「――くそがぁぁぁ!」


 詰め寄ってきた茨木童子の首を一閃。

 ゆっくりと落ちる。

 首が落ちながら、ヤツは嗤った。


「命転じ、かの者らに禍の祝福を――……」


 茨木童子の体が紫色に燃え、そこから羅生門から現れた。

 どうやら最後最後に。要らない置き土産をしていったようだ。

羅生門から大量の魔物が解き放たれた。


「勇夜さん!」


 声を荒げるカエデ。

 雪崩のように羅生門から解き放たれる魔物を見て焦っていた。

 カエデたちに俺は安心するように告げ、聖剣に魔力を込め始める。


「安心しろ。この程度なら問題ない」


 俺は聖剣に意識を割く。

 深く瞑目し、紡いでいく。


「――汚れ無き清浄の光よ。不浄を祓い、魔を討ち滅ぼせ!」


 目を開き、聖剣を地面に突き刺す。

 すると巨大な幾何学模様の魔方陣が、山の上空へと出現し、山を照らし出した。

 これは聖剣と神聖魔法の組み合わせた技。

 現れた魔物たちが一瞬して塵と化し、出現していた羅生門が青白い炎に包まれた。


「これは……」

「これは俺の使える技の一つで、魔だけを滅するというものだ」

「もしかして私たち妖も⁉」


 魔と言われて自分たちもと考えたのだろう。

 俺はカエデの言葉に首を横に振って否定した。


「違う違う。そんなことはないから安心してくれ。これは俺の認めた悪しき存在だけを浄化する技だ」

「そうでしたか……危うく消滅するところでした」

「大げさな……」


 苦笑いを浮かべる俺は、塵となって消え始めている羅生門を見つめる。


「終わったな」

「はい。これで終わったのでしょうか?」

「ああ、茨木童子は消滅させた。それに里の方に影響はないと思うが、一応早めに戻るとしよう」

「ですね。早く皆さんを安心させなくては」


 そして俺たちは早々に戻るのだった。



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