34話:VS茨木童子②
山頂では、激しい剣戟が繰り広げられていた。
振るわれた太刀をしゃがむことで回避し、茨木童子の足を払う。
「チィッ!」
軽い舌打ちをすると、茨木童子は後ろに飛んで避けた。
距離を取った茨木童子は、俺に向けて火球を放つ。
俺は駆け出し、迫る火球を聖剣ですべて切り裂いた。
「なっ⁉ 斬っただと⁉」
「妖術を斬った⁉」
茨木童子のみならず、カエデたちすらも、俺が妖術を斬ったことに驚いていた。
向こうの世界で、何度も俺は魔法を斬ってきたので、この程度は普通だと思っていた。
火球程度の魔法や妖術ならば、容易に斬ることができる。
「これくらい普通だろ?」
「面白い。これぞ戦いというもの」
茨木童子は口元を釣り上げ、妖刀を構えた。
そして茨木童子の体から妖力が溢れ出たので、俺は警戒しながらも様子を見守る。
攻撃を行わないのは、何かあるかもしれないと考えている。
チラリとカエデたちの方を見ると、雰囲気が一変した茨木童子に顔を青くしていた。
「これほどの妖力とは……」
「復活してこれだと? 全盛期は一体どれほどの……」
茨木童子の妖力が広がっていく。
そして、山に蔓延っていた魔物たちが、妖力となって茨木童子へと吸収されていく。
俺たちはただただその様子を見守るしかない。
しばらくすると、俺の気配察知には、山に蔓延っていた魔物の気配が消え去った。
すべてを吸収したのだ。いや、この場合は生み出した魔物を妖力として取り込んだといった方が正しいだろう。
茨木童子は「ふむ」と呟き、手のひらを握ったりして感触を確かめている。
俺は茨木童子の妖力が格段と増し、強くなったのを理解した。
これほどとは思わなかった。
「私の力が戻ったのを感じる」
警戒しながら見つめる俺たちに、茨木童子は説明する。
「羅生門によって解き放たれた魔物だが、アレは復活したときの私の力の一部だ。それを取り込んだ今、私は封印前の全盛期に戻ったと言っても過言ではない。余裕にしているのも今のうちだけだ。覚悟はできているのだろうな?」
「覚悟だって? そんなもんとうにしているさ。来いよ」
茨木童子の太刀が紫色の妖力を纏い、刃こぼれが再生されていく。
加えて、一目見るだけで太刀が強化されているのを理解した。
互いに見つめ合い――動き出した。
茨木童子の太刀が眼前に迫るが、聖剣で弾き返す。
弾かれたことで隙が生じた茨木童子へと、俺は一歩を踏み出して斬りかかった。
キンッという甲高い音が響き、俺の聖剣は弾かれた。
予想以上の反射神経をしているようだ。
これには俺も驚いた。
「驚いているようだな? これだけじゃないぞ」
聖剣を弾いた茨木童子は、しゃがんで俺の足を払う。
体勢を崩した俺だが、迫る攻撃を転がることで躱し、腕の力で飛んで離れた場所に着地した。
茨木童子は着した俺目掛けていくつもの火球を放っていた。
「はっ!」
迫るすべての火球を切り裂き、爆発が生じた。
視界が遮られ、茨木童子の姿を見失った。
「――ッ! そこか!」
キンッと火花が散る。
煙が晴れた先にいる茨木童子は、驚いた表情で口を開いた。
「驚いた。遮られた視界の中で、私の攻撃を防ぐとは」
危機察知が働いたおかげで、攻撃に気付けたのだ。
だがそれを敵に教える意味はない。
「まあ、勘、とだけ言っておくよ」
「ならその勘がいつまで持つか見物だ」
繰り広げられる剣戟の応酬。
だんだんと俺の取れる動きが制限されていく。
「まだまだ! ――羅生門!」
茨木童子の背後に巨大な門、羅生門が顕現した。
ゆっくりと、閉ざされていたら門が開き、中から魔物が溢れだした。
「さあ、どうする? そこの娘も守れるかな?」
今の強化していない俺に、茨木童子と魔物を相手にするのは不可能だろう。
そう。俺は今、身体強化を行っていないのだ。
魔物が迫る中、俺はカエデたちに告げた。
「俺の後ろに」
「ですが、これほどの数は……! 茨木童子もいます! 逃げた方がいいです!」
カエデに同意するように他の妖もそう言ってくるが、俺は首を横にふぃって否定した。
「ここは俺にとって大切な場所だ。失わせるわけにはいかない。それに、このままヤツを放置していたら、妖の里を襲うに違いない」
「小僧の言う通り。お前たちを倒したら、次は妖の里だ。一度差し向けたのだが、全滅したので、次こそは滅ぼす」
俺の言葉に茨木童子がそう答えた。
カエデは絶望のあまり、膝を突く。
「まあ、安心しろ。大丈夫だ。もし、里にこの軍勢が向かったとしても、アウラがいる。この程度の魔物に負けるわけがない。どうせ鼻歌交じりに倒しているさ。それに、みんな俺を舐めすぎ――なんだよ!」
俺は聖剣に魔力を流して一閃。
迫っていた多くの魔物が一瞬にして消え去った。
「「「……は?」」」
誰もが一瞬で消え去った魔物に、目を点にする。
俺は聖剣に魔力を流して強化しただけだ。
呆然としている茨木童子だったが、ようやく口を開いた。
「小僧、すでに限界だったのでは?」
「誰が俺の限界を決めた?」
「な、ならその力は何だというのだ!」
俺は茨木童子に、いや、同じく驚いているカエデたちにも向けて答えた。
「俺はアイツを、アウラや家族を守るため、自重しないと決めた。だから――勇者の本気を見せてやる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。