33話:VS茨木童子①

 茨木童子の武器は太刀だ。こちらは聖剣だが、太刀を持っている向こうにリーチはある。

 得体の知れない力を、あの太刀から感じる。

 妖刀の類だろうと、俺は推測し、鑑定を発動した。

 すると、太刀の名前と効果が判明した。


 名前は『妖刀羅刹丸』。数多の血を吸い、呪われた太刀であり、その効果は所有者の戦闘能力を向上させるというもの。その分、呪われた太刀ということもあり、所有者を狂わすらしい。

 俺は茨木童子を観察するが、狂ったような雰囲気は感じられない。

 元々の所有者であるからなのか、定かではない。


「来ないなら私から行くぞ!」


 発せられた言葉と同時、茨木童子が切り込んできた。迫る太刀を受け流すと、茨木童子は距離を取って驚いたように目を見開いた。


「驚いたぞ、小僧。まさかこの一撃を受け止めるとはな」

「この程度か?」

「ふんっ、殺し合いも知らない小僧がっ!」


 訳が分からないとでも言いたげな表情の茨木童子は、ふっと鼻で笑い、詰め寄って連続で俺を攻撃し始めた。

 連続で繰り出される太刀を、一撃一撃を往なしていく。

 何回も攻撃を繰り出す茨木童子の顔に変化が起きた。


「どうして私の攻撃が当たらない!」


 俺は太刀を受け止めながら答えてやった。


「お前の攻撃は軽いと言っている」

「なんだ、この力はっ⁉」


 力任せに茨木童子を吹き飛ばされ、地面を転がる。

 すぐに立ち上がり、太刀を構える。


「人間の小僧にどうしてそこまでの力がある!」

「さあ、どうしてだろうな?」

「――ッ!」


 見るからに怒りを露にする茨木童子は、刀を強く握って俺を睨みつけた。

 茨木童子は何度も何度も刀を振るうが、俺はその悉くを受け流し、時には弾いていく。

 何度も何度も何度も。

 次第に妖刀羅刹丸が刃こぼれを起こす。


「何故だ! どうしてだ! 私の刀が……!」

「答えてやろうか? それは俺の剣の方が、そんな妖刀よりも優れているからだよ。そもそもの話、この剣は魔を祓う力が備わっている」

「まさか⁉」


 分かったのだろう。

 人の血を吸い、怨念を吸い続けたことで妖刀の強度が増していた。

 だが、俺の持つ聖剣は邪気をも祓う力が備わっている。打ち合うことで徐々にその邪気を祓っていたのだ。

 祓われていくことで妖刀の強度が低下し、刃こぼれが生じたのだ。


「なんだ! その不気味な刀は何なのだ! そのような物、私がいた時はなかった」


 そりゃあそうだろう。なんせ女神様から授かった聖剣だから、神聖属性は相当に高い。


「刀じゃない。これは剣だ。それもとびっきり最高のな」


 このまま打ち合うのは分が悪いと判断したのか、俺から距離を取った。


「私は妖術も使えるが、小僧の方はどうかな?」


 茨木童子は片手の手のひらに小さな炎を灯し、微笑を浮かべた。

 妖なら当然、妖術が使えるだろう。

 茨木童子は俺が妖術を使えないと思っているのだろう。

 だが残念かな。


「死して悔やむがいい」


 放たれた火球が俺へと迫り――爆発した。


「勇夜さん!」


 カエデが俺の名前を叫ぶ。


「無駄だ。すでに私の炎に焼かれ死んでいる。残念だったな」

「そんな訳ないです! 勇夜さんは死んでなんかいません!」


 いいことを言ってくれる。

 そんなこと言われたなら、勇者として期待に応えなくちゃいけないな。


「その程度の炎でどうやって死ねって言うんだ?」

「勇夜さん!」

「何っ⁉ 生きているだと⁉」


 この場の全員の視線が、土煙が上がり、燃えている場所を注視した。

 土煙と炎が、振るわれた聖剣の風圧で晴れる。

 俺は驚愕で目を見開いている茨木童子へと聖剣を突き付けた。


「――第2ラウンドといこうか」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る