32話:封印されし鬼

 俺たちは次々と魔物を倒しながら山頂へと向かう。

 とはいっても、ほとんどは俺が倒している。

 山の中腹ほどまで来ると、魔物が強くなっていく。

 山頂に到着するころには、さらに強くなっていることだろう。


「邪魔だ、そこをどけ!」


 進行方向に立ちふさがった巨体な魔物を聖剣で一刀両断し、魔物は塵となって消えた。


「マジかよ……」

「今の、一カ月ほど前に里近くに現れて、大きな被害が出た魔物なんだが……」


 一撃で倒したのを見て唖然としていた。

 今の魔物も、最後の戦いで何度も倒してきた相手だ。

 デカいだけで強くはなかった。事実、連合軍の兵数名で倒されていたのを、俺は目撃している。


 倒しながらも、俺は山頂のいる存在の気配を確認する。

 その妖だろう存在は、一歩も動いてはいなかった。

 復活したてで力が弱まっているのか、あるいは数百年ぶりの外界で安定していないのかだ。

個人的には前者であってほしいが、どうにも感じる気配と魔力から推測するに、後者な気がしてならない。

思わずため息が出てしまう。


「勇夜さん、何かあったのですか?」


 カエデが俺のため息に反応して聞いてきたので、山頂の存在のことを話す。

 すると、カエデが焦った表情となる。


「ほ、本当ですか? その、山頂にいる妖だろう存在は」

「事実だよ。俺の気配察知は優秀だからな。もう少しのんびりしてくれたら嬉しんだけどな」


 俺の呟きに引き攣った表情をするカエデたち。

 これは俺の本音だったりする。

 ヤツがのんびりしていることで、被害が食い止められるのだから。

 でも、俺たちはのんびりしていられない。

 ヤツが移動するかもしれないから。


「少し急ぐぞ」


 俺の言葉に表情を引き締める面々。

 魔物を倒しながらひたすら進む俺たちは、程なくして山頂が見え始めた。

 そこでようやく、カエデたちもヤツの魔力を感じ取ったのだろう。表情が青くなっていた。


「これほどの妖力とは……」

「なんて濃密な妖力。封印されていたのは、本当に私たちと同じ妖なのか……?」


 青い顔をしながらも、俺の後について来る。

 そして山頂に出た俺たちが目にしたのは、桜の木の根元で座って風景を眺める、黒い者であった。

 その者から溢れ出る魔力は、次々と魔物を生み出していた。


 そうか。あの大量の魔物は、こいつが原因だったのか。

 その存在はゆっくりと立ち上がり、目の前の月下に照らされる景色を見ながら口を開いた。


「実に美しい景色だ。キミもそうは思わないか?」


 振り返った者は、古く、黒い袴を着た、額から二本の角を生やした鬼の妖だった。

 傍らには太刀が突き刺さっている。

 そして男に俺は答えた。


「まったくだ。綺麗だから俺も気に入っている」

「そうかそうか。人間のキミもそう思うか」


 どうやら俺が人間ということはバレバレのようだ。

 でも問題はない。


「私の名は茨木童子いばらきどうじ


 その言葉に、この場の全員が驚愕の表情となった。

 俺だって例外ではない。

 茨木童子といえば、かの有名な羅生門に棲みついていた鬼だ。

 倒されたとは言われてない。

どこかに逃げ延びていたという話はこの前、九尾を倒す前に調べたときに出てきたのを覚えている。

そうか。僧侶は倒せないと分かって封印したのか。


「い、茨木童子といえば、京の都の……」

「娘。私を知っていたか」

「知っているも何も、茨木童子は酒吞童子の配下で、四天王の一人でもある、大妖怪ではないですか……どうしてこんなところに」

「そうだ。私は酒吞童子様の配下が一人だ。酒吞童子様が倒され、次々とその配下が倒されていくさなか、私はヤツに殺されかけ、ここへと逃げ延びた」

「それで流れ着いたこの山で、弱っていたところを封印されたと」


 俺の推測に茨木童子は「その通り」と頷いた。


「事情は分かった。ところこの魔物はお前が?」

「京から逃げた私は妖術で、羅生門を生み出すことに成功した。羅生門は悪鬼や魔物を生み出す力がある」

「なるほどな。それで封印されていた中でそれらを増やしたと。目的は復讐か?」


 茨木童子はクックックと笑い出す。


「その通りだ。私は今度こそ、京の都を手中に収めて見せる」

「京はないけどな」

「……なに?」

「昔あった建物も壊され、今では様変わりしている。名前も京から京都。首都も昔の江戸。現在の東京になっている」

「それほどまでに様変わりしたか。だが私の目的は変わらない」

「そうか。じゃあ、ここで死ぬってことでいいんだな?」


 俺の言葉に、茨木童子の目が細められた。


「人間にしては面白い冗談を言う。私に敵うとでも?」


 太刀を引き抜いた茨木童子が、俺を見据える。


「余裕だね」

「生意気な小僧だ。この景色を好いてるから見逃してやろうと思ったが、いいだろう。ここで殺してやる」

「そうか。なら茨木童子。俺がお前に引導を渡してやる」


 そして互いに武器を構えるのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る