28話:サクッと倒そう

 サクラは報告を聞いていた。


「大量の魔物が、里を襲っているようです。住民たちは逃げ惑い、ここへ避難しに来ているようです」

「避難してきた住民は速やかに受け入れ、迎撃態勢を整えてください」

「直ちに!」


 武装した妖が去っていく。

 入れ替わりにカエデがサクラの下へとやってきた。


「カエデ、現状は?」

「はい。戦える者を集め、住民の避難に当たらせてます。でも、魔物の数が多くて……」

「厳しいですか?」

「恐らく。あの数相手に、そう長くは持たないと」


 妹であるカエデの言葉に、サクラは眉間にシワを寄せる。


「姉様、恐らく、奴らが起こしたものかと」

「やはり……対処が遅れた私のせいですね」

「そんなことはありません! 姉様は十分に責務を果たしています!」

「ありがとう。でも、こうなると分かっていて対処が遅れたのは私の失態です。許してください」

「違います! 私たちにも責任はあります! 姉様のせいじゃないです!」

「ありがとう、カエデ。それで、これからですが……」


 その時、一人の武装した妖が息を切らせながら、報告へとやってきた。


「失礼します! 報告です!」


 サクラにカエデ、この場にいる他の面々もその報告に耳を傾ける。


「里を襲っている魔物ですが、謎の二人組によって次々と数を減らしております!」

「なんだと⁉ それは本当か⁉ その二人とは何者だ!」


 一人の妖の質問に、その者はどう答えればいいか迷っていた。


「それが、私にもわかりません。ですが、魔物を倒しながら住民の避難を手伝っております」


 サクラとカエデには、その人物の正体が勇夜であると予想していたが、ただ一つ、疑問があった。

 もう一人とは、一体何者なのかと。


「わかりました。カエデ」

「はい」

「戦える者を引き連れて、その者たちと合流し、そのまま魔物の排除を行ってください」

「直ちに!」


 カエデは足早に、伝令の妖とともに去っていった。

 急ぎ手の空いた、戦える妖を集めて二人の下へと合流するべく走り出す。

 向かっている最中、様々なことを考えていた。


 一人が勇夜なのは確かだ。それは昨日、ここに来ると約束していたから。

 だが、もう一人は一体誰なのかと。

 その場にいた妖なのか。

 あるいは、勇夜の知り合いなのか。


 様々な憶測が脳内に飛び交う。

 その時、少し離れた場所で黒い炎が吹き上がった。


「カエデ様、アレは一体……」


 部下の言葉にカエデは首を横に振った。

 知らない。あのような強大な妖術を使える者は知らない。

 数秒遅れて、多くの魔物が上空へと舞い上がり、斬り刻まれた。


「急ぎましょう」


 速度を上げて、道を進む。

 その道中、明らかに強敵と思われる魔物が、一撃で仕留められていたり、黒い炎で灰すら残さずに燃えていく魔物。

 どう考えても、今戦っている二人は圧倒的な強者ということが見て取れた。


 数分後、その場に到着したカエデたちは立ち尽くし言葉を失っていた。

 それは、数百もの魔物の死体が、道に転がっていたから。

 その先で、まだ残っている数百ものもの相手に佇む二人の姿。

 一人はマントをしていても勇夜だということが見て取れ、もう一人はマント越しからも、まだ子供とでもいえるような身長だった。

 それでいて、体格から女性だと理解できる。


「あの。勇夜、さん。ですか……?」


 カエデの言葉に、振り返った。


「カエデか。それで、一体全体どうなっているんだ? 来たら里が燃えているとか、魔物がいるとかわけわらんのだが?」

「人間⁉」


 振り返った勇夜を見て、人間ということで警戒心を上げる妖たちだが、カエデが手で制する。


「ですがカエデ様! 相手は人間です! この騒ぎもきっと――」

「違います」

「なぜそう言い切るのですか!」

「この者は姉様のお知り合いです」

「信じろと仰られるのですか?」

「勇夜さん、アレを」


 言われた勇夜は聞きたいことがあったのだが、とりあえず昨日もらった短刀を見せた。


「これでいいか?」


 見せた短刀を見て、目を見開く妖たち。


「これで理解しましたね? 彼が敵ではないと」

「……はい」


 渋々といった感じ引き下がる妖たち。

 カエデは勇夜の質問に答えた。


「遅れましたが、これは奴らの仕業です」

「ああ、昨日話していたやつね。動きが想像より速かったのか」

「はい。それで何も対策ができずに」

「まあ、事情はわかったよ」

「あの、聞いても?」


 カエデやほかの者の視線が勇夜の隣で、魔物へと黒い炎を放っている者へと向いた。

 気付いた彼女は、攻撃の手を止めて自己紹介をした。


「私はアウローラよ。アウラって呼んでくれればいいわ。あとそうね、勇夜の友達と思ってくれればいいわ」

「まあ、間違ってはいない、のか? 悪いなカエデ。でも、どうしてもアウラの力も必要になるかもしれないって思って声をかけたんだ」


 事情を話す勇夜に、カエデは頷いておく。

 戦力が多いに越したことはないから。


「アウラさんですね。私はカエデと申します。よろしくお願いします」


 勇夜はカエデに尋ねた。


「なあ」

「はい、なんでしょうか?」

「とりあえず、アレは殲滅してくるから待っててくれ」

「……は?」


 言っている意味が分からない。

 どう考えてもあの数相手にするのは無茶が過ぎる。

 だが、勇夜は簡単そうに言い放ったのだ。


「だから、あの魔物を殲滅してくるから、話はその後ってことで」

「え? あ、はい」

「じゃあ、アウラ。さっさと片付けるぞ」

「言われなくても。雑魚を集めたって意味がないのにね」

「全くだ」


 そして二人は駆けだすのだった。



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