27話:魔物の大群

 夜。

 俺とアウラは家の外に出た。


「結界を張るのよね?」

「ああ」


 俺は魔法を発動させ、家の全体を覆うようにして結界を展開させた。

 これは魔物などへの認識阻害と、バレたとしても、最上級の魔法から何度も守ることができる。

 よほどのことがない限り問題ないだろう。


「よし、行くか」

「そうね。だけど……ねぇ?」

「なんだ?」

「なんだじゃないわよ! また私におんぶされろと言いたいの⁉」


 そう。俺はしゃがんでアウラの乗りやすいようにしていたのだ。

 だってこの方が速いし、妖の里の場所を知っているのは俺だし。

 などと言い訳を述べると、アウラは顔を俯かせた。


「どうした? 顔が赤いけど熱か?」


 俺がアウラのおでこに手を当てて自分と比べるのだが、確かに熱い。

 もしかしたら俺が無理をさせていたのかもしれない。


「体調が悪かったなら早く言ってくれれば。待ってろ。すぐに回復魔法を――」


 バチンッと右頬を叩かれた。


「違うわよ! いいから早くしなさい!」

「俺はただ、心配しただけなのに」

「余計なお世話よ!」

「ならこのビンタは?」

「気分!」

「理不尽なっ⁉」


 俺は右頬に、可愛らしい小さな手跡がついたまま妖の里へと向かうのだった。

 山を駆けることしばし、俺はお地蔵様を見つけた。


「ここだ」

「この石像。少し魔力を感じるわね。というか、っこれ、結界じゃないの?」

「結界? そう。多分、隠蔽と惑わす結界が、里の周囲に張られているんだと思う」

「なるほどな。人に見られたら何されるかわからないからな」

「全くもって、その通りね」


 目の前に、妖の里へと続く穴が現れ、俺とアウラは入って行った。

 穴を抜けると、目の前に広がる光景に目を疑った。

 家などが燃えていたからだった。


「昨日もこうなのか?」

「そんなわけないだろ。一体何が、起きている……?」


 アウラの言葉を否定する。

 何が起きているのか、現状では何も情報がないので知らない。

 急いで入り口まで向かうと、そこには異形の魔物の集団が里を襲っていた。

 異形の魔物から逃げる者たち。

 そんな中、目の前で小さな狸のような耳を生やした子供が転び、魔物に襲われかけていた。

 考えるよりも前に、俺の体は自然と、目の前の少年を助けるべく動いていた。


 魔物を斬り倒した俺は、少年に手を差し伸べた。


「大丈夫だったか?」


 驚いていた少年は、差し伸べた俺の手を取って立ち上がってお礼をする。


「あ、ありがとう」

「親は? はぐれたのか?」


 少年が首を縦に振って頷いた。

 周囲を見渡すが、逃げ惑う妖たちが多く、通りには血だらけで、すでに息絶えた妖の姿もあった。

 少年をどこかに安全な場所に送り届けよう。

 そう思った直後であった。


 俺は背後から迫る数多な魔物の気配を感じ取って、振り向いた。

 そこには、周囲の建物を破壊しながら迫る異形の魔物の姿があった。中にはゴブリンやオーガなどの、向こうの世界でも見られる魔物の姿までもが見受けられた。

 俺はチラリと振り返る。


 迫る魔物を見て、絶望の表情をして立ち止まっている妖。

 到底逃げられないだろう。

 俺がアウラを見ると、コクリと頷いた。


「君、まだ走れるな?」

「う、うん」

「よし。ならみんなと一緒に巫女さんのところまで逃げろ」

「え? でも……」


 妖の少年は不安そうな表情で俺を見た。


「な~に。この程度大丈夫だ。ほら。みんなと一緒に逃げるんだ」


 俺は少年の背中を押し、立ち止まっている妖たちに告げた。


「聞け! 俺が食い止めて時間を稼ぐ。その間に早く巫女のところまで逃げるんだ!」


 声が届いたのか、ハットとして俺の言われた方へと逃げ出した。

 逃げたのを確認した俺の隣にアウラが並び立つ。


「勇夜、やるのか?」

「借りは返さないとだからな。彼女の里を見捨てるわけにはいかない。それに、協力するって言った手前、逃げるなんてできないだろう?」


 アウラは満足そうに笑みを浮かべた。


「ほんと、お人好しね?」

「勇者だから、かな?」

「確かに。じゃあ……」

「ああ。いっちょ、暴れてやりますか」


 俺は聖剣を構え、アウラは両手に黒い炎を作り出し、迫る魔物を見据えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る