25話:妖の里②

 社の中は和風建築であり、時代を感じる作りとなっていた。

 カエデの後に従い、奥へと進んでいく。

 通り過ぎる妖たちは、フードを被るを俺を見るも、隣にカエデがいるお陰もあり、絡まれることはなかった。

 挨拶をしてくるので、その度に軽く会釈をする程度に止めていた。


「この先です」


 俺が頷くのを見たカエデは、ゆっくりと扉を開いて中に入った。

 カエデの後に続いて俺も中に入る。


 俺は正面の上段の間には、一人の巫女が座ってこちらを見ていた。

 下段の間に座ったカエデに見習い、俺も座る。


「ただいま戻りました」

「お疲れ様、カエデ」


 透き通るような、凛とした声音がかけられた。

 俺は顔を見ようにも、頭を下げているので見ることできない。

 さすがにこの里で偉いという巫女だ。下手に嫌われるような真似はしたくない。


「話は聞きました。護衛がまさか、解放者だったとは……こちらの不手際です。許してください」

「いえ、姉様は気にしないでください」

「でもカエデに危険な思いをさせたのは確かです。ごめんなさい。それで、そちらの方が助けてくれたという方ですか? 里では見ない者ですね?」


 視線が俺に向けられるのが分かった。

 俺は顔を上げ、巫女と呼ばれる彼女を見て固まった。

 桜色の髪を腰まで伸ばし、ぱっちりとした金色の瞳。白く透き通る肌は、まるで陶磁器のように美しい。

 思わず見惚れてしまうが、自己紹介をしてないので、フードを取って口を開いた。


「朝桐勇夜。見ての通り、人間だ」


 人間というと、驚いたような表情をしていたがすぐに先ほどの表情へと戻した。


「普通の人間が妖を倒せるとは思えません。ですが、その身に宿す力はこの里の、いえ。今まで見てきた中でとても強大です。それほどの力をお持ちなら、容易に倒せますね。失礼しました。私は巫女のサクラと申します。この度は妹のカエデを助けていただきありがとうございます」


 人間の俺に頭を下げるとは思わなかった。


「気にしないでほしい。元々とは言え、山頂の神社が気になって見に来ただけだ。それで、単刀直入にいうが、これは君の母の持ち物では?」


 俺はカエデにも見せた『一族の証』をサクラに渡した。


「これは、確かに母様の持ち物です。ですがこれは……」

「そう。君の母が、俺の祖父に渡した物だ。お守りは祖父が今も大事にしているよ」

「わかりました。またあなたの一族には借りができてしまいました」


 だが、俺はサクラの言葉に首を横に否定した。


「覚えていないか?」

「え? 何がでしょうか?」

「まあ、覚えてないか。俺がまだ小さい頃だ。山で遊んでいた俺は熊に襲われそうになった。その時、まだ幼かった君に助けられた」


 思い出すように首を傾げたサクラだったが、思い出したようだ。


「そうでしたか。勇夜さんはあの時の人間の子供でしたか」

「覚えていてくれて嬉しい限りだ。まあ、そういうことだ。俺にとって、この借りは返し切っていない」


 だから助けを求められたのなら、俺は協力するつもりだ。

 サクラは申し訳なさそうな表情で俯いている。

 多分、俺に頼るのが申しわないと思っているのだろう。


「悩まずに頼ってくれ。この借りは返し切れないんだから」

「ですが、事情も分からず、関係もないあなたに頼るのは……」

「事情も知っているし、関係もある。解放者ってのは、多分だがあの祠の封印を解こうとしている者たちのことで合ってるよな?」

「はい。事情はカエデから聞いたのでしょう」


 俺は頷く、サクラは「ですが」と続けた。


「関係があるとは思えません」

「関係はある。それは、あの神社の近くには俺のじいちゃんとばあちゃんが住む集落がある。それに、あの神社はじいちゃんとばあちゃんのお気に入りの場所なんだ」

「それを言われては何もいえません、ね……わかりました。では勇夜さん。協力してただけるということでいいのですね?」

「ああ。君にこの借りを返そう」

「では最初から話しましょう。少し長くなります」


 そう前置きし、サクラはすべてを話した。

 解放者と呼ばれる者たちが現れた理由、そして封印を解いて何を企んでいるのかを。


「なるほどな。敵は妖を統一し、自由を手に入れる。そして邪魔になる巫女の排除か。邪魔者を殺すために、祠の封印を解くのか。一言でいえば、ただのバカ。愚か者だな」

「全くです。彼らの目的は外界での自由です。平穏を自ら壊そうとするなど、愚かとしか言いようがありません」


 俺は徐にスマホを取り出して時間を確認すると、午前5時になっていた。


「もうこんな時間か」

「帰るのですか?」

「妹もいるからな。それに急にいなくなったらみんなが心配する」

「わかりました。ではこれをお持ちください」


 手渡されたのは装飾の施された小刀であった。

 受け取るとサクラは説明した。


「それは私が、その者を信用しているという証です。見せればすぐに里へ入れてくれます。私の下にもすぐに来れます」


 俺はサクラにお礼をする。


「敵も動き始めています。くれぐれも、お気を付けて。カエデ、出口まで見送りをお願いします」

「はい。では勇夜さん、行きましょう」


 俺は妖の里を後にして、家へと帰るのだった。



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