24話:妖の里①

 カエデの後をついて穴を潜ぐり抜けた先は、月明かりで幻想的に里を照らし出していた。

 俺は目の前の、あまりにも綺麗で美しい光景を見て、目を見開いた。


「これは綺麗だ」

「ありがとうございます。人間の方にそう言っていただけるとは思いませんでした」

「事実を言っただけだよ」

「本当にありがとうございます。少し歩けば里です。ついてきてください」


 カエデに従い、俺は後をついて行く。

 程なくして、家々が見えてきた。

 里には魔力が漂っているが、向こうの世界とさほど変わらない魔力濃度であった。


 遠目から見ると、住人には人間とさほど変わらない者や、見てすぐに妖とわかる者までいる。

 多種多様な種族が存在していた。

 俺とカエデが里の入り口まで来たのだが、門番らしき者の目つきが変わった。

 俺を睨みつけるあの目は、よく見たことがある。

アレは紛れもなく、敵を見る目だ。


「カエデ。俺に敵意を向けられているようだが?」

「当然です。人間を連れてきたのですから。古来より、人間と私たち妖の関係は敵です」

「尤もな言葉だな」

「勇夜さん、できれば大人しくしていてほしいんですが……」


 カエデは懇願するような目を俺に向けている。断る理由はない。

 ここで俺が暴れてしまえば、妖たちから信頼されることはまずないだろう。

 

「わかってる。まあ、絡んでこなかったらだけど、な」

「それでお願いします」


 俺は一歩カエデの後ろを歩き、後について行く。

 そして里へ入ろうとして、門番に止められた。


「お待ちください。カエデ様」

「なんでしょうか?」


 門番が俺を睨みつける。


「コイツは人間です。入れられません、何のおつもりですか? それにその者が引きずっているのは、同胞ではないですか」


 カエデは睨みつける門番に、手短に説明する。

 睨んでいたが、カエデの説明を聞いていくうち、次第に敵意はなくなっていた。

 そして頭を下げた。


「人間よ、すまなかった」

「気にしてない。俺は通ってもいいか?」

「ああ。この反逆者は我らが預かろう。カエデ様、よろしいですか?」

「お願いします」


 里の中へと入ろうとしたとき、門番に肩を叩かれた。


「里の中ではフードか仮面でも付けておいた方が身のためだ。人間のことが嫌いな者たちが多いからな」

「忠告ありがとう。そうさせてもらう」


 俺は収納からマントを取り出して着て、フードで顔を隠した。


「では行きましょう。姉のところに行きながら、里を案内します」

「妖の里か。初めてだから少しワクワクするな」


 里の中へと足を踏み入れた俺は、想像以上の華やかさと賑わいを見せている里を見て、思わず声を漏らした。


「すごいな」

「いつもこのように賑わっていますよ。さあ、行きましょう。くれぐれも私からはぐれないでください」


 それからカエデに里を案内してもらったが、江戸時代より少々進んだ文明という感じだろうか。

 それでも現代で使われている物もあったりするが、基本的に電気の代わりに妖力を使っているようだった。


 俺は素直に、この妖の里がいいところだと感じた。

 里を進んでいくと、奥の方に一際大きな鳥居と社のような建物が見えた。


「カエデ。アレはいったい?」

「今向かっているところです。あそこに姉はいます」


 里を見ながら進んでいると、すぐに目的地へと到着した。

 長い階段が続いている。


「長いな」

「私も思いますが、社は神聖な領域なので、仕方がありません」

「そんなものか」


 カエデに続いて俺も会談を登り始める。

 しばらく乗ると、頂上が見えてきた。

 そこには宮殿ともいえる社が鎮座しており、迫力がものすごい。

 門番の妖がカエデを見てお辞儀をした。


「カエデ様、お疲れ様です、して、そちらの者は?」


 視線が俺に向けられるが、カエデは自然に答えた。


「外で私を助けてくれた流れ者です。お礼をしたいので通してください」

「そうでしたか。カエデ様を助けていただきありがとうございます」

「気にしないでくれ。たまたまだ」

「では、行きましょうか」


 カエデの後に続いて、俺は社へと足を踏み入れるのだった。



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