18話:田舎に行こう
連休となり、俺たちは母方の実家へと向かっていた。
電車での移動なのだが、やけに視線が俺たちの方へと向けられていたのだが……
「勇夜、景色が変わっていく!」
「ああ、うん。そうだな……」
電車内で景色の移り変わりに逐一反応を示すアウラが原因だ。
「アウラ、景色を楽しむのはいいが、せめて――」
「お兄ちゃん見て見て! あんなに遠かった山がもうこんな近くにあるよ!」
高齢の老夫婦から生暖かい視線が向けられ、微かな話し声が聞こえた。
「私たちは都会に移り変わるのを見てはしゃいでいたわね。ねぇ、あなた?」
「そうじゃな。あの頃が懐かしいのう。でも他の娘に目移りしていましたけどねぇ?」
「……そんな記憶はないがのう〜」
うん。こっちの会話はどうでもいいや。
俺は騒いでいる二人に、少しは大人しくしているようにと言うのだが。
「別にいいじゃない。勇夜だって見ればいいのに」
「アウラちゃんの言うとおり、お兄ちゃんも見ればいいのに!」
注目を集めるから嫌なんだよ!
てか二人とも周り見えているのか?
それから説得すること数十分。二人は静かになった。
アウラはこっちにきて日も経っていないので兎も角、陽菜は中学生なんだから少しは周りを見てほしいものだ。
それから俺たちは電車を乗り継ぎ、数時間かけてようやく祖父母の家がある駅へと到着した。
駅も無人であり、周囲に人の気配はない。
離れたところに数件の民家があるくらいで、他は進まないと見つけることはできない。
そんなことは兎も角、やっと着いたのだ。
まずはそれを喜ぶとしよう。
「久しぶりに来たな」
「そうだね。ここは何にも変わってないや」
俺の言葉に頷いた陽菜は、懐かしそうに周囲を見渡し、そして深呼吸をした。
「う〜ん! にしても空気が美味しいね!」
「だな〜」
アウラを見ると、駅から出たところで目を見開いていた。
「アウラ。どうだ?」
「二人の言っている意味がやっと分かった気がする。確かに空気が美味しく感じるわね」
何度か深呼吸をしたアウラ。
それを見て俺と陽菜は顔を見合わせて笑った。
「よかったね」
「ああ。連れてきてよかった。存分に田舎の良さを教えないとな」
「うん!」
それから俺たちは祖父母の家へと向かって歩き出した。
祖父母の家は少し離れたところにある。電話した時に迎えに行くと言っていたが、ゆっくり景色を楽しみながら行くと伝えた。
それから俺と陽菜はアウラが「アレは何?」と聞いてくるので、それに答えていた。
気付けば俺たちは、祖父母の家へと着いていた。
「着いたか」
「二人とも元気かな?」
「電話した時は二人とも元気そうだったよ」
「よかった」
嬉しそうにする陽菜を見てから、俺はアウラへと顔を向けた。
「アウラ驚いたか?」
「そうね。こんな山奥に家があるとは思わないわね。でも、いいところね」
「嬉しいな。でも、来たばかりだ。ゆっくり楽しんでいこう」
俺たちは敷地へと入り、玄関のチャイムを鳴らす。
程なくして「は〜い」という初老の女性の声が聞こえた。
玄関を開けたのは、俺と陽菜の祖母、梅だ。
祖母は俺と陽菜を見るなり、顔を綻ばせた。
「久しぶり、おばあちゃん」
「久しぶりだね、おばあちゃん! 来たよ!」
「久しぶり。よく来たわね。あら、そちらの子は、勇夜が話していた子?」
祖母が隣にいるアウラへと顔を向けた。
「そう。アウローラだ。アウラって呼んでやってくれ」
「そう。アウラちゃんね。ゆっくりしていってね」
「アウローラです。お邪魔する」
「よろしくね。父さんもいるわ。それに駅から歩いて来たなら疲れたでしょ。さあ、上がって。お茶を淹れるわ」
祖母に促され、俺たちは家に上がった。
祖母に促されるまま居間に行くと、新聞を広げた祖父、伊助の姿があった。
俺と陽菜を見るなり顔に笑みを浮かべる。
「大きくなったな、勇夜、陽菜」
「久しぶり、おじいちゃん」
「久ぶりだね、おじいちゃん!」
「久しぶり。その子が勇夜の話していた子か?」
「そう。アウローラだ。アウラって呼んでやってくれ」
「祖父の伊助だ。よろしく。何もない田舎だが、ゆっくりしていってくれ」
「アウローラです。お世話になるわ。それに、ここまでに来る途中、楽しかったので問題はないわよ」
「ははっ、それは何よりだ」
そこに、祖母がお盆に人数分のお茶を持ってやってきた。
「はい。先ずはお茶にしましょうか」
俺たちはお茶を飲みながら、ゆっくりと話すのだった。
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