16話:誰にも言うなよ!

 無事に九尾を倒した俺は現在、安倍家の人たちに回復魔法で治療をしていた。


「朝桐くん、ありがとうございます」

「気にしなくていいよ。それに俺が遅れていなかったら、こんなことにはなっていなかったから」


 実際、俺とアウラが早く到着していれば、誰も傷付くことはなかったはずだ。

 とは言っても、流石に安倍家の人たちに俺とアウラの存在が、バレてしまうのはどうなのかと考えていた。

 それで俺は安倍さんにそのことについて聞いてみた。


「お父様なら誰にも言わないと思います。ですが、政府の人に朝桐くんとアウラさんのことを伝えれば、朝桐さんはともかく、異世界人であるアウラさんを狙ってくるかもしれません」


 俺はアウラに顔を向け、そして安倍さんへと戻した。

 そこで、気絶していたはずの安倍さんの父が起き上がった。


「うっ……、そうだ、九尾は!?」


 周囲を見渡すが、九尾が見当たらず、娘である安倍さんを見て駆け寄った。


「彩華、大丈夫だったか!? それに九尾はどこへ行った!」

「落ち着いてください、お父様。九尾はこの二人が倒してくれました」

「倒し、た……?」


 頷く安倍さんを見て、俺とアウラへと顔を向けた。


「私は安倍清玄。現在の安倍家当主です。それで、君達は一体……? 親しげに話しているが、娘の友達なのかい?」

「俺は朝桐勇夜。安倍彩華さんとは同じ高校のクラスメイトです」

「なるほど。それでここにいる理由を聞いても? ただの高校生ではあるまい。もしや土御門家の者か?」


 清玄の目が細められる。嘘を吐いたところですぐに見破られるだろう。

 なので俺は正直に話すことにした。


「俺は土御門家に関わってないし、話したこともない」

「お父様、朝桐くんの言っていることは本当です」

「そうか。では何者だというのだね?」

「俺は異世界で勇者をやっていた、ただの高校生だよ」

「私は向こうの世界の魔王の娘、アウローラ・グラナティスよ」


 清玄は俺とアウラが、何を言っているのか理解できないといった表情を浮かべる。

 そう簡単に信じることはできない。

 清玄が安倍さんを見る。


「本当です。実際に九尾を倒したのは彼です」


 しばらく無言になり、見つめ合うことしばし。


「どうやら嘘は言っていないようだ。異世界で勇者、か……それに魔王の娘」

「こんな事だってできる」


 そう言って俺は手のひらに火球を出現させる。


「陰陽術、な訳がないか。後でゆっくり君と話してみたいところだが」


 清玄は周りを見渡す。


「俺が倒したってことは全ての者に伏せておいてください。それと、俺とアウラの存在もです」

「お父様、お願いします」


 頭を下げる娘を見た清玄は口を開く。


「分かっている。政府にもこのことは話さない。それでいいのだな?」

「ありがとう。また魔法で記憶を弄るところだったよ」


 笑みを浮かべる俺だったが、記憶を弄るという言葉を聞いて二人の表情が引き攣っていた。


「朝桐くん。御礼だけど……」

「娘と、私たち一族を助けてくれたお礼をしたい。欲しい物があるならなんでも言ってほしい」


 二人の有難い申し出に、俺は拒否した。

 というのも、俺とアウラの存在を秘密にしてくれればそれでいいのだ。

 そのことを二人に説明する。


「理解した。だけど、何か用があれば言って欲しい。助けになろう」

「ならそれでお願いします。そろそろ夕飯なんで帰ります」

「勇夜、早く帰らないと陽菜が起きてしまうぞ」

「分かってるって」


 帰ろうとする俺とアウラを、安倍さんは呼び止めた。


「待って、朝桐くん」

「どうした?」

「その、今回は助けてくれてありがとうございます。あと、私のことは彩華と呼んでください」

「……え?」


 唖然とする俺に、アウラが俺に抱きついた。


「この女、やっぱり勇夜を狙っているのね!」

「ち、違っ……くわないけど! お父様もいるのだし、安倍と呼ばれるとややこしいからです」


 否定しないのか……と思うが、それは心の中に留めておく。


「それで、私も勇夜さんと呼びます。いいですか?」


 別に断る理由はない。


「分かったよ。彩華さん」

「さん、も必要ありません。呼び捨てで結構ですよ。勇夜くん」

「はぁ……分かったよ。彩華。これでいいか?」

「はいっ!」


 満面の笑みを浮かべた。


「勇夜がいいっていうから、特別よ!」


 俺はアウラに「何様だ」と言いたい。

 そして二人に見送られながら、俺とアウラは家に帰るのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る