15話:勇者VS九尾

 ◇ ◇ ◇


 山の麓へと到着した俺は、安倍家が張っている結界を潜り抜け、山頂にある封印場所へと駆ける。

 半分当たりの場所まで来ると、山頂付近で大きな魔力反応があった。

 だが、それはこの世界での話。向こうの世界ではこの程度、大した魔力量ではない。


「少し急ぐか」

「この程度魔力反応で? 少し大げさじゃないの?」

「俺たちにとってこの程度でも、向こうからしたら強敵だろうよ」

「ふ~ん。って、ちょっと、どこ触っているのよ!」

「ぐふっ、ちょっ、誤解だ! てか背負っているんだから文句を言うな! てか、殴るな! 転んだらどうするんだ!」

「勇者でしょ! この程度で転ばないで!」

「理不尽だろ!? この野郎!」

「――ちょっ!?」


 俺が加速したことで、背中からアウラの驚く声が聞こえたが、可愛かったので目的地まではそのままにしたのだった。

 山を駆け、程なくして山頂が見えてきた。

 その瞬間、何やら爆発音が聞こえた。

 山頂に到着すると、尾が九つに揺らめく白い狐の姿があり、安倍さんの声が聞こえた。


「助けて、朝桐くん……」


 俺がアウラに顔を向けると頷いたので、加速して安倍さんと九尾の間に割って入った。


「すまん、待たせた」

「待たせたわね!」


 宙に浮かぶ九尾が俺とアウラを見る。


『……何者ですか?』


 俺とアウラを見る九尾の目がスッと細められた。

 九尾は邪魔されたことで怒っているのだろう。俺にその感情がヒシヒシと伝わって来る。


「俺は――勇者だ」

「私は魔王の娘よ!」


 アウラは手のひらから出現させた火球を九尾に向けて、俺はいつの間にか取り出していた木刀を九尾に突き付けた。


「さあ、俺に――」

「さあ、私に――」

「「黙って倒されろ(なさい)!」」


 俺は内心で「これは決まったぜ」と満足げにしていると、アウラからジト目が向けられる。


「キモい」

「それは酷い!?」


 ガクッと肩を落とす俺だが、九尾に告げる。


「今なら見逃してやる。さっさとどっかに行け」

「勇夜の言う通り。雑魚は倒してもいくらでも湧いてくるものね。いくらいても無駄だけど」

「アウラ、それはあまりにも酷くないか? 九尾だって生きるために頑張ってるんだぞ」

「でも雑魚じゃない」

「それは、まあ……否定できない。こんなのが九尾とか、尻尾が多いだけの狐だろ」


 俺とアウラの散々の言われように、九尾の怒りが限界に達したのか、九つの火球が飛来した。


『――死になさい!』


 俺は迫っている火球を木刀で斬り払い、アウラは出現させていた炎を放つことで爆発させた。


「でも狐って可愛いじゃない」

「アレが可愛いと思うか?」

「う~ん、可愛くないかも……?」

「なんで疑問形なんだよ……」


 口元に指を置いて首を傾げるアウラを見て肩を落とす。

 だがその仕草が可愛かったのは黙っておく。

 口に出して言ったら後が怖いからである。まあ、照れ隠しするアウラが見れるのはいいのだが。


『――なっ!? 私の攻撃が……全てを屠ってきたこの私の攻撃が効かぬだと!』


 そこでようやく、俺とアウラが九尾へと顔を向けた。

 まだいたのかという顔を向けながら。


「まだいたのか」

「狐の話をしてから早く帰って狐の動画を見たいわ。それか狐探しでもしたいわ」

「散策もアリだな」

「勇夜、今度一緒に行く?」

「俺の実家が田舎にあるから、久しぶりに会いに行ってくるか。丁度連休も近いからな」

「いいわね! 約束だからね!」

「おう!」


 そんなのほほんとした会話をする俺とアウラに、唖然としていた安倍さんが声をかけてきた。


「朝桐くん、その大丈夫ですか?」

「安倍さん。大丈夫だよ。九尾って言うからどんな化け物なのかと思ったよ」

「いえ、それでもあの九尾は膨大な妖力を……それに先ほどのような攻撃も」

「ん? アレはちょっと火が使えるだけの狐だろ。まあ、尻尾の数は普通じゃないけどな」


 俺はそう言って笑ってやる。

 そんな中、除け者にされて怒ったのか、九尾が吠えた。


「なんだ?」


 見ると九尾に妖力が集まっていくが、安倍さんが青い顔をしている。


「どうした? 体調が悪いのか?」

「――逃げて下さい! あの攻撃は、かつて京を炎の海にした妖術です! せめて二人だけでも先に!」

『遅いですよ。この私を侮辱した罪、償っていただきましょう』


 九尾が口を開くと、直径三メートルほどの火球が形成されていく。

 俺は木刀を構えるが、九尾はそれを見て鼻で笑う。


『その程度の木の棒、すぐ灰になりますよ!』

「なら試してみるか」


 俺は木の棒へと魔力を流し、強化する。

 これ以上する必要もないが、一応、加減しながらも身体強化のスキルも発動しておく。


『――妖爆炎』


 放たれた巨大な火球は俺たちへと迫る。

 アウラが俺を見る。


「防御はいる?」

「一応、安倍さんを守って」

「分かったわ。世話の焼ける娘ね……」


 やれやれと言った感じで申し訳程度の障壁を張るアウラだが、これだけは言わせてほしい。お前が言うな、と。


「朝桐くん!」


 焦った表情で俺の名前を呼ぶ安倍さんに、アウラが安心させるように言った。


「心配しなくていいわ。だって勇夜は――世界最強のなんだから!」


 そして俺は、迫る火球に向かって一閃。

 剣閃が走り、空に爆炎の華が咲いた。

 九尾から驚きの声が聞こえた。


『――私の、最強の一撃が。全てを屠ってきた最強の妖術が、小僧に敗れたの、ですか!? ですがまだ私は闘え――』

「いや、終わりだよ」

『何を言っているのですか! この通り、私は無傷――が、がぁぁぁぁぁぁぁあ!?』


 九尾の体は両断され、紫色の炎に包まれた。


「大人しく暮らしていれば良かったものを。人々を不幸にした自分を呪うことだな」


 そして九尾は、塵となって空に消えていくのだった。

 俺は安部さんに振り返る。


「これで依頼達成だな」


 そう告げて俺は、彼女に手を差し伸べるのだった。

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