13話:約束通り助けに行こうか

 儀式当日の昼時。


「お兄ちゃん、テレビのリモコン取って~」


 リビングのソファーで寝転がっている愚昧、もとい陽菜が俺に命令する。


「……動きたくない」

「勇夜、取って」

「絶対に嫌だ。語尾に『にゃん』付けたら取ってやる」


 陽菜に交じってアウラも命令してきたが、そこは俺だ。

 それにアウラが「にゃん」とか言ったら絶対に可愛いに決まっている。

 だから何が何でも動くわけが――


「「――取れ」」

「はい! 直ちに!」


 二人に凄まれた俺は反射的に立ち上がってリモコンを取った。

 そしてリモコンを差し出す俺を、陽菜はまるでゴミを見るような目で見下ろしていた。


「キモい」

「助けてアウラちゃ――」

「キモい!」


 パチンッと頬を叩かれた。

 叩かれた頬がジンジンと痛み、赤い手のひらの後が浮かぶ。


「うぅ~……」


 俺はショックのあまり、涙を浮かべる。


「お兄ちゃん、邪魔」

「勇夜、テレビが見えない」

「はい。すみません……」


 散々であった。

 俺の防弾ガラス並みに厚い心にヒビが入った。

 そして俺は自室に籠るのだった。

 あの後、コンビニでお菓子を買ってきたら陽菜とアウラは機嫌を直した。

 それでいいのか、愚昧よ。魔王の娘よ……。


 俺は窓の外を見た。

 空はほのかにオレンジ色に染まっていた。

 そろそろ時間だ。


 部屋を出ようと立ち上がると、俺の部屋の前に気配がある。

 気配からしてアウラである。


「入るわよ」


 有無を聞かずにアウラが部屋に入って来た。


「せめて返事してから入ってくれよ」

「別にいいじゃない。それよりも時間よね?」


 アウラの言葉に俺は頷いた。


「それと陽菜は何してた?」

「ゴロゴロしてたわよ」

「ぐーたらなのは相変わらずか……」


 俺とアウラは一家に降りる。

 すると陽菜はソファーで寝転がって寝息を立てていた。

 どうやら寝てしまったようだ。


「勇夜、どうするの?」

「どうするって言われてもな……そうだアウラ。深い眠りに着かせることは可能か?」

「できるわよ。いいの?」

「夕飯までには戻るから、そのつもりで」

「分かったわ。――スリープ」


 アウラの魔法によって陽菜は深い眠りへと落ちた。

 何やら寝言で「もう食べれないよぉ~」とか言っているので、沢山食べている夢なのだろう。

 気持ち良さそうに寝る陽菜の頭を優しくなでた。


「さあ、行こうか。夕飯までには戻って来ないとな」

「そうね。さっさと片付けましょう。私、見たい番組があるんだから」


 俺はもしものために家に結界を張り、アウラと共に儀式が行われる封印場所へと向かった。

 向かうと、交通規制がかかっているようだった。

 内容を見ると、近くで不発弾が見つかったとのこと。

 だが。これは不発弾などではない。


「なるほど。周辺も近寄れないようにするためか」

「用意周到なのね」

「それだけ今回の件を重く見ているんだろうな。時間はまだあるし迂回でもするか」


 俺とアウラは山へと入れる場所を探すのだが、どこも警察やら自衛隊が周囲を固めているために入れない。

 ふと空を見上げる。

 陽は少し落ちかけており、そろそろ儀式が始まる時間だ。


「仕方がない。上から行くか」

「そうね。他に方法はあるけど」

「人は傷付けられない」

「そう言うと思ったわ。早く行くわよ」

「おう。んじゃ、アウラ、俺の背中に」


 固まるアウラ。

 数秒待っても動かないアウラに、俺は訪ねる。


「どうした?」

「どうしたって……私が勇夜におんぶされろと?」

「その方が速いだろ?」

「確かにそうだけど……その……」


 ほんのりと顔を赤く染めるアウラを見て、俺は首を傾げる。

 どうして恥ずかしがっているのだろうかと。

 少ししてアウラは俺に人差し指を向けた。


「いい、勇夜! ヘンなところ触らないでよね! 触ったら殺すから!」

「ヘンなところ? まあ、分かったから、時間がない」


 俺の背中にアウラの感触がする。

 そこでようやく、俺はアウラの言った意味を理解するが、ヘンに気にしないことにした。


「――行くぞ!」


 アウラを背負った俺は一気に跳躍し、加速するのだった。


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