12話:丁寧なお話です!

 翌朝、俺が教室に入ると視線が集まる。

 一体何があったのかと思うが、一人のクラスメイトの男子が俺に聞いてきた。


「なあ、朝桐、昨日体育館裏で何があった?」

「何って、なんかあったのか?」

「どうして例の有名不良グループがお前に怯えているんだよ。昨日何があった?」


 周りを見ると、みんながその話を聞きたいようだった。


「まあ、その、なんだ。案外いい奴等だったよ。俺達のクラスにちょっかい出すなよって脅……話したらブンブン首を縦に振ってたし」

「おまっ、今脅したって」


 おっと、危ない危ない。


「……そんなわけないだろ。俺がアイツらに丁寧に話した結果だよ。陰キャな俺にはそんな真似できるわけないだろ」

「そ、そうか?」


 誰もが疑いの眼差しを俺に向けている。

 そこに、昨日ボコした不良グループに属してる、隣クラスの奴が通りかかったので、声をかけた。


「おい、お前」


 俺の声に、男はビクッと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを振り返る。


「な、なんでしょうか?」

「なんで敬語なんだよ。昨日お話した仲だろ? な?」

「は、はい。そうです、ね……」


 めちゃくちゃ俺に怯えていた。

 クラスメイトの誰かが「滅茶苦茶怯えているじゃん……」と小言を漏らしていたが、俺は聞こえない。


「しっかり制服着ろ。先生に迷惑だろ。注意されなかったか?」

「その、されました」

「アイツらにもしっかり言い聞かせておけよ? 規則はしっかり守れって。じゃないと、また話し合いをする羽目になるからな?」

「は、はい! しっかりと先輩達にも伝えておきます!」

「おう」


 俺は見送って、再び席に着くと、視線が注がれている。

 そこに安倍さんが俺にジト目を向けている。


「朝桐くん、昨日あの人たちに何をしたの?」

「俺はただ呼び出された体育館裏で、八人の鉄パイプを持った不良と丁寧なお話合いをしただけだよ」

「丁寧なお話合い、ですか……」


 安倍さんは呆れたように溜息を吐いた。

 多分、クラスメイトのみんなも、今の発言と例の不良との会話で、大方察しが付いたのだろう。

 男子から「やべぇ……」と慄かれ、女子達からは少し引かれるのだった。


 昼休みになり、安倍さんが屋上へとやってきた。

 俺の隣に座りながら昼食を食べ始める。

 程なくして口を開いた。


「……明後日です」

「ああ、任してくれ。ちなみに封印されている妖怪の名前は? 聞くのを忘れていた」

「話していなかったですね。かつて都を焼き尽くした九尾と呼ばれる大妖怪です」

「九尾、か。これまた大物なことだ。九尾って悪い妖怪なのか?」


 俺の質問に、安倍さんは語り出した。

 長くも短い話はこうだ。


 元々九尾は二本の尾であった。

 そこから次第にその尾の数を増やしていき、人々に神獣や霊獣などと呼ばれ信仰を集めてきた。

 だが、それは幻想に過ぎなかった。

 九尾は集めた力で都を炎の海に包み込んだのだ。

 暴れまわる九尾を止めようと現在の京都から、数々の妖怪などを祓い、封印してきた安倍晴明が率いる陰陽師が出向き、封印することにした。

 だが、あと一歩のところで九尾に逃げられ、俺達が住む関東へとやってきた。

 安倍晴明は九尾を追い、山を幾つも焦土と化したが、見事に封印することに成功した。

 そして代々安倍家の一族が封印を続けてきたということだった。


「なるほどな。元々悪い妖怪だったと」

「はい。ですが、一度は神格を得た妖怪です」


 強いと言いたいのだろう。

 まあ……なんとかなるだろ。

 それから色々と話を聞き、昼休みは終わるのだった。

 そして翌日の金曜日、再び俺と安倍さんは屋上で明日の作戦を話し合っていた。


「当日の儀式は、以前も話した逢魔が時。時刻で言うと、十六時半頃です。儀式が行われる封印場所で、私を入れて十数名で行われます。そこで朝桐さんとアウラさんですが……」


 どうするか、か……

 俺は深く瞑目し、そして目を開いて彼女を見つめた。


「俺とアウラは後から山に入り、頃合いを見て割り込ませてもらう。作戦とかはないが、それでもいいか?」

「わかりました。では、何卒よろしくお願いします」


 安倍さんは深く頭を下げるのだった。

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