9話:助けを求められたら助けるのは勇者の役目

 午前の授業が終わってお昼休みとなり、俺は弁当を持って屋上へと向かった。

 屋上の扉を開くと、そこには安倍さんが先にいて昼食を食べていた。


「別に遠回しに言わなくても良かったのに」

「誰のせいだ……あの後面倒くさかったんだからな」

「それは私もですよ。まあ、それは兎も角、今回話したかったのは、昨日の件です」


 俺は弁当を広げて昼食を食べ始め、安倍さんの話に耳を傾ける。

 俺が食べているのを気にも留めず続ける。


「昨日の小鬼と鬼、あなたはアレのことをオーガと呼びましたね?」

「そうだな。向こうの世界だとそう呼ばれてる。中級程度の魔物だよ。小鬼も向こうではゴブリンと呼ばれる最下級の魔物だ

「なるほど。興味深いですね」

「それは俺もだよ。陰陽師とかがいるとか、ファンタジーかよ……」

「ファンタジーの塊なあなたがそれを言いますか?」


 それは酷い。


「まあ、それよりも。昨日妖怪とかについて調べてみたが、いつから出現するようになった?」

「わかりません。ですが、怪異の被害は遥か昔から存在していました。そして平安時代中頃、怪異による被害を食い止めるため、私の祖先である安倍晴明が陰陽術で倒し始め、勢力を広げていきました。これが日本の陰陽師の始まりだとも伝えられています。どうして妖怪などが現れるようになったのかは記されていませんでした」

「そうか。異世界だと魔物やドラゴンがいるのが普通だったからな」


 ドラゴンという俺の言葉に、安倍さんが顔を此方に向けた。


「いるのですか!?」

「いるも何も、数は少なく、その分強敵だよ」

「見てみたいです」

「やめとけ。死ぬだけだ」

「でも朝桐くんは見ているんですよね?」

「見ているも何も、実際に戦ったよ。あんなの相手にするのは二度と御免だけど。危うく死にかけた……」

「死にかけたのですか?」


 安倍さんの言葉に俺は頷いた。


「激戦だったが、腕を一本代償に倒したよ」

「う、腕を?」


 安倍さんの視線が俺の両手に向けられている。

 安倍さんはこう聞きたいのだろう。

 どうして失ったはずの腕があるのかと。


「そこはファンタジー世界だ。腕の欠損程度すぐに魔法で治る」

「欠損が治る……」

「まあ、こんな話はいいとして、俺に何かしてほしいのか?」


 安倍さんの顔つきが真剣になる。

 そして俺に向き直り、深く頭を下げた。


「お願いします。どうか私を助けてください!」


 突然助けろと言われても、困るのはこちら側だ。

 まずは説明をしてくれないと、協力も出来ない。

 俺が安倍さんに説明を求めると、彼女は口を開き、話し始めた。


「私の家は、話した通り、安倍晴明の血を引く一家。役割も妖怪や怪異などの討伐です。日本政府も、私達陰陽師の存在は知っています」


 日本政府が陰陽師の存在を知っていたことに驚きだが、昨日調べたことを思い出した。

 陰陽師は昔、天皇家や幕府に仕えていたことに。


「日本政府も怪異については知っていたと」

「はい。日本で起きた大災害も大半は怪異が原因です」

「マジかよ……」


 まさかの爆弾発言に俺は頭を抱え、そして疑問が浮かぶ。


「待て、日本に地震が多い理由は?」

「それは地脈を流れる、霊脈が複雑に入り混じっているからです」

「知らなかった……てか、内容が入ってこない。俺に何をさせたい?」

「それは、安倍家が封じている妖怪の封印が、弱まりつつあるのです」

「倒してほしいと?」


 その言葉に、安倍さんは小さく「はい」と頷いた。

 別に倒しても構わない。だが、俺が守るべき者がいる。

 それはアウラだ。


「封印されているということは、それだけ強いということだ。どういう危険があるか分からない。俺の力で倒せるのかもわからない」

「でも、アレを再び封印することなんて出来ない!」

「封印することができない? どういうことだ?」

「封印は強化し続けましたが、封印も千年以上経過した今、いくら強化したところで意味はありません。破られるのも時間の問題なんです。そこで、安倍家は、政府と話し合いの下、生贄を使うことで再度封印をすることにしたのです」

「生贄って、もしかしてその生贄が……」


 安倍さんは黙り、俯いてしまった。

 つまりはそういうことなのだろう。

 彼女がその生贄に選ばれたわけだ。


「他に手はなかったのか?」

「ない、です……私は死にたくないんです。だから強くなろうと戦ってきました。でも……」

「勝てる保証がない、か」

「はい。それでも戦い続けた私は、昨夜の公園であなたに助けられました」


 偽善者と言われるかもしれない。でも、これも何かの縁だと思って割り切ろう。

 それに、アウラに少しでも危険があるようなら、それは俺の敵ということになる。


「分かったよ。協力しよう」


 俺の言葉に、安倍さんは目を見開いた。


「いいの……?」

「まあ、俺は勇者だ。助けを求められたのなら、手を差し伸べるしかないだろ。それに、魔王の娘、アウラを守ると誓ったんだ。その妖怪が解き放たれたことで、アウラの身に危険が迫るかもしれない。なら放置はできない。倒すだけだ」

「……ありがとう」


 涙を浮かべ、感謝の言葉を俺に告げる安倍さんだが、まだ始まったばかりなのだ。

 

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