8話:それでも自重はしない
「そう。この世界にも魔物が存在するのね。でも、勇夜はこの地球という世界には魔物は存在しないと言っていたはずよね?」
俺は陽菜が寝たあと、アウラを呼び出して今回あった出来事を伝えた。
アウラの疑問の言葉に、俺は顎に手を置いて思考を凝らす。
(アウラの言う通り、この世界に魔物は存在しない、はずだった……)
そう。俺は地球に魔物は存在しないと思っていた。
思考を巡らせた俺は、一つの答えに辿り着いた。
「この世界にも、俺達が知らないだけで昔から魔物が存在していた、というのが俺の出した答えだ。可能性はゼロじゃないと思う。歴史にも妖怪と呼ばれる魔物に似た何かが倒された、というのを聞く」
俺は部屋の机に置かれているパソコンを開き、ネットで検索を始めた。
「そんなので何が分かるの?」
「これを見ろ」
そう言って俺は検索した結果をアウラに見せた。
アウラは俺の横から画面を覗き見て、目を見開いた。
その画面に映っているのは。
「これって……」
「どう見ても……」
「「カイザーオーガ……」」
向こうの世界でオーガの上位種、カイザーオーガと呼ばれるものだった。
恐らくは名前を付けられた事でネームドモンスターとして強くなったのだろう。
カイザーオーガも、酒呑童子という名前を与えられたことで進化し、魔物として強くなったのだろう。
他にも調べるとゴブリンなど、妖怪と呼ばれるものの大半は魔物であった。
だが、地球にしか存在しない魔物もいたりするようだ。
一通り調べた俺は呟いた。
「地球がファンタジーとか、マジかよ……」
陰陽師もいるのだ。
もう信じるしかないだろう。
それでも俺は頭の片隅で、未だに信じたくないという気持ちがあった。
「勇夜、どうするの?」
「どうするって言われてもな……」
俺は別にこの世界で率先して魔物を倒そうとは考えていない。
どうやら一部の人にしか視ることができないようなので、多分魔力が関係しているのだと思う。
魔力が少ない一般人には視えなく、人より多い人は視える。多分だけどそんな気がする。
「襲ったり、襲われているのを見つけたら倒すよ。他にも助けてほしいとか言われてもな」
「それは勇夜が勇者だから?」
「勇者だからじゃない。俺の力は人を守るためのものだ」
俺はアウラを見つめる。
「それに決めているんだ。俺はアウラに楽しい生活をしてほしいって。だから自重なんて者は向こうの世界に捨ててきた」
俺の言葉にアウラの頬が赤くなった。
照れているのだろう。
「真っ向からそう言われると、その、少し恥ずかしいじゃない……」
俯いてしまった。
俺は彼女を守るためなら何でもする。
そう心に決めるのだった。
翌朝、俺が学校の教室に入り席に着くと、先に着いていた安倍さんがこちらに歩み寄って来る。
そして席まで歩み寄ってくると、安倍さんは口を開いた。
「おはようございます、朝桐さん」
「お、おはよう。安倍さん。どうかした?」
安倍さんは学校で有名な美少女の一人。
そんな彼女に、学校でも目立つことのない陰キャな俺に声をかけたことで、余計に目立つというもの。
「放課後、空いています?」
「いや、妹の迎えに行かないとだから無理」
普通に断った。
周りの男達が俺のことを見て「マジかよ」的な驚きの表情を浮かべていた。
安倍さんも断られると思っていなかったのか、少し驚いた顔を浮かべていた。
そしてコホンと可愛らしい咳払いをした。
「では明日とかはどうですか?」
「どうして俺なんだ? 別に俺じゃなくてもいいだろう?」
そもそもの話。安倍さんは俺を誘って何を話すのか伝えていない。
口ごもる安倍さんを見て、俺は心の中で「こんなところで妖怪だのとか、話せるわけがないよな」と呟く。
安倍さんもそれが分かっていて、「それは……」と躊躇っていた。
俺は安倍さんが、一瞬だけ笑ったのを見た。
嫌な予感がする。
「昨日、どうしても話したいという内容を送ったのですが……」
少し恥じらいつつも放った言葉に、教室がシーンと静まり返った。
程なくして周りから「あの二人、どういう関係なんだ」とか「安倍さんの連絡先を持っている、だと!?」などの会話が聞こえてきた。
同時に男子から殺意にも似た視線を感じる。
「ちょっ、誤解を招く言い方は止めろ!」
「誤解ですか? だって私と朝桐〝くん〟は、昨日の夜、公園で二人っきりで会っていたでしょう?」
今度は女子からきゃーという黄色い声が上がる。
男子からからは殺気が。
「はぁ……もうわかったよ。でも、悪いが放課後だけは無理だ」
俺は遠回しに放課後以外、つまりは昼が空いているということ。
安倍さんがふふっと笑う。
「分かりました」
そう言って安倍さんは自分の席へと戻って行った。
その後、安倍さんの下に女子が俺との関係を迫っていたの見た。
俺も同様に、男子から問い質されるのだった。
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