7話:地球もファンタジー?

 ◇ ◇ ◇


「――え? 朝桐さん……?」

「安倍さん、なのか……?」


 しばらくの間、俺の思考は停止した。

 それは困惑によって。


「え、えっと……こんばんは。それじゃあ――」

「待ちなさい」


 見なかったことにして、去ろうとする俺の肩を、安倍さんはガッチリと掴んだ。

 ゆっくりと振り返ると、そこには笑みを浮かべている安倍さんの顔があった。

 そして現在、俺は安倍さんと公園のベンチでアレコレと質問をしていた。


 Q:さっきの魔物は?

 A:妖怪、妖、物の怪もののけ。総じて『怪異』と呼ばれる。

 Q:安倍さんは何者?

 A:怪異や穢れを祓う、『陰陽師』と呼ばれる者。

 Q:さっきの獣は?

 A:式神。倒した怪異を札に封じた者。他にも種類がある。

 Q:魔法みたいな炎は?

 A:妖力を使って行使される陰陽術。


 以上が俺の質問した内容だった。

 思ったより素直に話してくれたことに驚きだった。

 それらを聞いて俺から出た感想は……


「女神様、地球もファンタジーでした……」


 少し遠い目をするのだった。


「それでは私からも質問があります。もちろん私は朝桐さんの質問に答えたのだから、答えてくれますよね?」

「ハイ、モチロンデス」


 もうね、「答えろよな?」という圧が凄い。


「では朝桐さんは何者? 鬼をあんな簡単に倒すなんて、一般人じゃないですよね?」


 なんて答えるか迷うが、安倍さんが一般人ではないならこちらも話そうと、決意する。


「つい最近まで異世界で勇者やってました」

「………………」


 無言の圧が怖いです! 誰か助けてください~って……誰もいないけどな!


「正直に答えて下さい。土御門家の者ですか?」

「違う違う。本当に俺は異世界で勇者をやってたんだって!」

「……証拠は?」


 安倍さんは警戒と疑いの眼差しを俺に向ける。

 どうやって説明しようかと悩むが、案外簡単なことだった。

 それは魔法を見せればいいのだから。


 俺は指先に小さな火を灯す。


「これが魔法だ」


 指先に灯る火をマジマジと見つめる彼女。


「マジック?」

「どれだけ俺の言葉を信じてないんだ……」


 これ以上の魔法は使えない。

 被害が出るかもしれないからだ。

 ならと。俺は近場の、大きな石へと近づく。


「何をするつもりですか?」

「まあ、見てろ」


 俺は石を掴み上げる。

 1トン以上はあるはずなのに、俺からしてみれば軽すぎる。


「驚きました……あなたはゴリラだったのですか?」

「……おい? それは違うよな? 俺、どう見ても人間だよな?」


 少し傷付いた。同時にイラっとしてしまった。

 だから俺は手に持った石を上空へと投げた。

 投げられた石は高く飛ぶのを見て、俺は跳躍した。

 眼下を見ると、彼女は驚いた表情をしていた。

 だがまだだ。

 俺は未だに飛び続けている石に手のひらを向け、魔法名を唱えた。


「――ファイヤージャベリン!」


 一本の炎の槍が石に向かって放たれ、貫通した。

 着地した俺は、落ちて来る石をみつつ、収納魔法から先ほどの木刀を取り出して構えた。

 そして一閃。

 石が粉々に消し飛んだ。

 俺はさらに追い打ちとばかり、飛行魔法を使って空中で胡坐を掻いてみせた。


「安倍さん、これで信じてくれたかな?」


 安倍さんは驚きのあまり固まっていた。

 うん。俺、もう行っていいかな? マジで怒られそう。

 そこに丁度、俺のスマホから着信音が鳴り響き、安倍さんはハッとした表情になる。


「どうした?」

『どうしたじゃない! お兄ちゃん今どこ!』

「ちょっと友達と会って立ち話してたところ。すぐに買って帰るからそう怒るなって」

『パーゲンダッツ買ってきてね』

「ちょっ、高いって!」

『遅いお兄ちゃんが悪い! アウラちゃんもご立腹だよ!』

「はい、すぐに買って帰ります!」


 ツー、ツーと電話の切れた音がする。

 スマホをポケットにしまった俺は肩を落とす。

 クソ! 俺は巻き込まれただけだ! 悪くない!


「あ、朝桐さん……」

「悪い。妹からだ。早くアイス買って来いって、ご立腹だ……」

「朝桐さんが異世界で勇者をやっていたということは、にわかには信じがたいけど、今の光景をみたら信じることしかできないです。もしかして妹さんも異世界で?」

「いいや、俺だけだよ。まあ、向こうの世界から魔王の娘を保護してきたけどな。楽しいようでなによりだ」

「魔王の娘?」

「まあ、それはまた今度、機会があればな」

「なら連絡先を交換しましょう。スマホを出してください」

「え?」

「早くしてください! 私だって早く帰りたいんです!」

「あ、うん。はい……」


 俺は安倍さんと連絡先を半強制的に交換させられた。


「あとで色々と聞きますからね?」

「分かったよ。何かあれば電話でもRINEのチャットにでも送ってくれ」

「最後に、助けてくれてありがとう」

「気にするな。助けるのは勇者の役目だからな」


 そう告げて俺はアイスを買いにコンビニへと向かった。

 その後、帰ってきた俺の顔を、陽菜とアウラが一発ずつ殴るのだった。



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