6話:夜の公園で

 陽菜とアウラにアイスを買って来いと言われた俺は、コンビニへと向かっていた。


「クソッ、何で俺がパシリにされないとなんだ……」


 こうやってパシリにされるのは俺だけじゃないはずだ。

 さっさと帰りたいので近道をしようと民家の屋根へと飛び移る。

 そのまま屋根伝いにコンビニへと一直線へと向かう。

 途中、妹とアウラが通っている中学校を通るのだが、そこで俺は魔物の気配を掴んだ。


「魔物? 地球にか? 場所は中学校の近くか。とりあえず行ってみるか」


 確認するために俺は加速する。

 数秒で中学校の屋上へと到着した俺は、周囲を見渡す。

 すると近くの公園で物音が聞こえ、反応もそこからするので見に行くことにした。

 近くに到着すると、一人の少女が数体の小鬼と戦っていた。


 あの魔物はゴブリンか……


 俺は対峙している一人の少女を見る。

 暗いからか容姿はよくわからない。

何か呪文のようなものを唱えた少女が、手に持っていた札のようなナニカをゴブリンに投げた。

すると、札から二体の黒い狼が現れ、ゴブリンを容易く切り裂いた。

 俺は彼女が召喚した黒い狼に見覚えがあった。

 向こうの世界で何度も戦った狼型の魔物、グレイウルフであった。


 そして彼女が使ったのは一種の召喚魔法だ。だがその技法は向こうの世界では古い。

 召喚されたグレイウルフが、ゴブリンを蹴散らす。

 彼女が何者なのかという疑問とか色々あるが、兎にも角にも倒したのならいいか。

 後でアウラにでも聞いてみよう。


 少しの間彼女を見続け、何者なのかを確かめようとして、異変が起きた。

 闇のような何かが凝縮し、そこから三体のオーガが現れた。

 彼女が何か驚いたようなことを言っているが、召喚されたグレイウルフはオーガの一撃で消えた。

 一歩、また一歩と彼女へと迫るオーガ。

 彼女が札を投げ、唱えると爆発が生じる。

 それでもオーガは無傷だ。


 今の彼女にオーガは倒せない。

オーガは上位種の魔物ということもあり、そう簡単に倒すことなどできない。が、今の俺からしたら雑魚だ。

 レベルやステータスに圧倒的な差があるのだから。

 彼女は死を悟ったのか、尻もちを突き、動かなくなってしまった。

 俺は彼女を助けるべく、その場からオーガに向かって駆けるのだった。



 ◇ ◇ ◇



 一人の少女、安倍彩華は中学校近くの公園へとやってきていた。

 どうしてここにいるのかと問われれば、昼間に頼まれたからだ。

 それは目の前の小鬼の祓いを。


「どうして私が小鬼の祓いを……」


 肩を落とした私は、腰に付けているホルダーから数枚の札を取り出して投げた。

すると、二枚の札から二匹の黒い狼が現れた。


「そこの小鬼を倒しなさい!」


 命令が下されると、狼は小鬼へと襲いかかり、ものの数秒で倒し終えた。


「どうして本家の私がこのようなことを……ですがこれも役目なので仕方がないですね。さて、祓い終えたので早く帰って――!?」


 異変を察知した私は急いでその場を飛び退き、小鬼を倒した場所を凝視する。

 すると闇のような何かが、一点に集まり出し、形を形成した。

 そして、現れたソレを見て、絶句した。

 現れたのは三体の鬼であった。


「鬼が三体も……」


 今の手持ちでは到底太刀打ちできない。

 それでも鬼を放置できるはずもなく、私はホルダーから札を取り出し、グレイウルフに命令する。


「時間を稼いで!」


 襲い掛かるグレイウルフだが、オーガの一撃で消し飛ぶ。


「くっ! ――爆焔符ばくえんふ!」


 火球が一体のオーガに直撃するが、ほとんどダメージを受けていなかった。

 そのまま近づく鬼は、手に持った得物で振り下ろそうとする。

 その光景を見て地面に尻もちを突き、死を悟った私は目を瞑った。

 そこへどこか仕方なさそうな感じの、男性の声が聞こえた。


「はぁ……ここでも戦うことになるって、もう宿命なのか……?」


 目を開くと、倒すことのできなかった鬼の一体が、両断されている場面だった。

 思わず呆けた顔になる私は、それを行った人物を見る。

 スウェットにパーカーといったラフな格好で、片手には木刀を持って佇んでいた。

 鬼を一撃で倒したことに驚愕しつつも、声をかけることに。

 どれだけ強くても、相手は残り二体で苦戦するはずだ。だから援護くらいはしようと声をかけた。


「あの、助けていただきありがとうございます。相手は鬼です。いくら強くても二体を相手になると、厳しいかと。私も援護ができるので――」

「鬼……? まあ、援護とか要らないから」


 こちらに振り返らずそう答えた彼は、木刀を構えた。


「早く帰らないと妹に怒られるから、さっさと倒すか」


 まるでコンビニ行くような感覚でそう呟く彼を見て、私は思わず黙ってしまう。

 だが、彼の纏う気配は、強者のそれだった。

 私からも底が見えないほどの力を感じる。


 彼が動いたのに合わせて、鬼が攻撃を仕掛けるが、それをいともたやすく避けて斬り伏せた。

 もう一体が彼の背中へと獲物を振り下ろした。

 だが、まるで見えていたと言わんばかりに、頭上に掲げられた木刀によって防がれていた。

 鬼は攻撃の威力が高く、本家の者でもあのように易々と一撃を受け止めることは不可能だ。


「これで終わりだな。木刀も意外と使えるな」


 剣閃が走ったかと思うと、鬼の胴体が両断されていた。


「大丈夫だったか?」


 木刀をどこへとしまった彼が私へと振り返った。

 見覚えのある顔。


「――え? 朝桐さん……?」

「安倍さん、なのか……?」


 鬼を苦戦せず雑魚のように倒した彼は、私と同じ学校に通う、クラスメイトの朝桐勇夜であった。

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